004話
東京都世田谷区国会議事堂のとある一室
VR運営大臣という肩書を持つでっぷりとした男を中心に話し合いが行われていた。
「もうすぐ1周年となる。さすれば計画書にある通り世界戦が行われるであろう」
開口一番に議長を任された細身の眼鏡の男が声を上げる
「まずは個人・・・物理部門、魔術部門、総合部門、そして総合パーティー部門で行われるPVP・・・これらの出場者を年内に決定せねばなりません」
事務方の如何にもサラリーマンと言った男が書類を見ながら声を上げる
「βテスターに達人と呼ばれる者たちを参加させましたが、そちらはどうなっていますか?」
「芳しくありません。達人と呼ばれる者たちは一癖も二癖もある者たちばかりで・・・」
別の席に座る男から声が上がる
「言い訳は良い。うまく行っていないのだな」
口を挟まれた男は自身の意見ではない計画の説明をしていることに顔を背けぼそりと本音を漏らす
「だから私は若者の中の才能ある者をだな・・・」
「それは決着が付いた話ではないか。何をいまさら・・・」
今まで口を閉じ聞き入っていた大臣が瞳を開き
「全人口の80%が参加しておるのだろう? 突出した者はおらんのか?」
「いえ、その80%が障害となり・・・」
「選べんか・・・であれば当初の計画通り大会を開き選出するしかあるまい」
大臣の正面に座る女性が口を開く
「複数の部門での参加は禁止にした方が良いのではありませんか?」
「むむ、それでは真の実力が分からんではないか!」
まさか国会でこの様な話し合いが行われているとは思わず首相である男性はひっそりと【OWL】の世界へと入って行く。
「さて今日もスキルレベルを上げに行きますか」
オールバックに髪を固め金髪の色へと変えたその男は【種子島】と呼ばれる火縄銃を肩に担ぎ大きな建物の扉を開く。
「おう! 集まってるか野郎ども!」
「ノブタカ! 貴様が最後だぜ!」
黒い鎧に身を包んだ大男がノブタカの声に返事をする。
「おう悪いな。四天王全員揃ってんな」
テーブルの中央へと座りノブタカは声を掛ける。
「ノブタカ様ご報告から出宜しいでしょうか?」
ショートヘアの美しい大人の女性と言った雰囲気の女性が口を開く。
「ヒデミ口調がかてぇよ。もっと気楽に」
「それでは報告をさせて頂きます」
ヒデミはノブタカの言葉を無視するかのように手にする報告書を読もうとする。
「クックク、無視されてんなノブタカ」
先ほどの黒騎士がノブタカを揶揄う。
「シバタ貴方は黙ってて・・・コホン続けさせていただきます。ヨーロッパ方面の有力者といたしましてはフランスの【聖女】または【ジャンヌの再来】と呼ばれる女騎士が抜きんでた強さを誇るかと。アメリカでは【双弾】と呼ばれるぷれいやー時間旅行者が有力で名をホープと言うそうです」
「【双弾】か・・・2丁拳銃の使い手だろ? 私は遠慮したいね」
長髪の長い髪をかき上げる
「ヒデには関係ぇ~ね~んじゃね~か? 逃げてるだけだし」
ヒデ、サクマ・ヒデト先ほどの長髪の男は黒騎士シバタ・トシロウを睨み付ける。
「君みたいに脳筋じゃないんでね。私はスマートに勝ちたいね」
「二人とも黙る。ヒデミが喋ってる。いい加減にして」
今まで発言せずにいたくノ一風の装備をした女性が2人を注意する。小柄ではあるがその身のこなしに優れ、射撃の腕も尾張一と言われる女性タキガワ・カズミが2人に注意を促す。
「ヒデミ続けて」
「中国に至っては広いためか、情報を封鎖しているのかはわかりませんが人口が多いことから隠れた怪物が居ても可笑しくありません」
分かっている範囲での有力プレイヤーの情報を上げる。
「俺らギルド【天下不武】だけではどうしようもないか・・・」
ノブタカが自分達の限界を口にする
「言っても始まらない・・・あっそうそう、【千成瓢箪】が短筒を手に入れたらしいね。ヒデミ何とか手に入らない?」
カズミがノブタカへ注意して別の話題を上げる。
「サルの所ですか? 交渉であればシバタの所のトシオ君が居んじゃないかしら?」
ヒデミはシバタへと視線を送る。
「トシの奴に交渉事は期待するなよ・・・いやショーコをつければ何とかなるか」
「じゃ手に入れて」
カズミとシバタがにらみ合う。しばらく睨み合ったのちにシバタが折れ
「わかった・・・が!期待すんじゃね~ぞ?」
「ん。期待して待ってる」
「けっ! 金は払えよ?」
「立て替えといて」
カズミはシバタを見上げるように上目遣いで目を潤ませた飲み込む
「くっ手に入れたらちゃんと払いやがれ」
シバタは顔を赤らめカズミから顔を背ける。
「良くやるよお前らは・・・っと日本はどうなってる」
ノブタカがヒデミを見つめる。
「日本で有力なのは我々【天下不武】、大阪の【千成瓢箪】、東北の【独眼竜】、越後の【毘沙門天】、甲斐の【風林火山】が有力ね。後は次点では【風林火山】と同盟を組んでいる信濃の【六文】かしら?」
「【風林火山】はレイド戦じゃなきゃ突出した奴いないだろ?」
シバタが話に加わる。
「それであれば【千成瓢箪】もじゃないのか?」
ヒデトも加わって来る。
「それを言ったらうちら含め全部だろ? 日本の時間旅行者は個の強さが足りないね」
最後にカズミが言ったこの一言が全てであった。組織としては良いが、個別、パーティー単位では他国の時間旅行者から一歩劣っていることは彼ら自身が感じていたことであった。
一方京都でも人知れずに活動する一団があった【新選組】その集団のメンバーは自○隊と言う表の顔を持ち、その任務は集団的自衛権行使の為の事実上の防衛軍であった。
「隊長、メンバーすべてそろいました」
揃いの陣羽織を着こんだ武装集団【新選組】の幹部たちが一堂に会していた。
「この国を守れるのは我々防衛軍である。それはこのVR世界でも同じだ」
中央の席に座る屈強ながたいをした大柄な男が声を上げる。
「しかしながら隊長。レベル的にも我が国の時間旅行者は優秀ではありませんか」
あどけなさが残る若い女性が意見を述べる。
「この世界でレベルなど耐久力が有るだけだ。スキルが物を言うのだよスキルがな・・・」
頬に傷が有る男が反論を口にする。
「そっ首相主導で結成された【天下不武】然り、与党主導で結成された【葵】が自○隊主導の【白虎隊】に敗れたのは記憶に新しいと思うけどね」
優しそうな顔時の男が傷のある男の意見に捕捉を入れる。
話題に上がった【葵】は金にものを言わせスカウトしたプレイヤーで結成された実力集団であり、当時レベル40でカンストして居たにも拘らず、平均半分以下の【白虎隊】により壊滅させられたのである。
「恐らくは年内・・・4月辺りから予選が行われ、年末に開催される世界大会に備えると思うよ」
「だな。【白虎隊】以外は数だけが多い・・・所謂烏合の衆ってやつだな」
「それは言いすぎだと思うよ。師匠さえ了承してくれれば・・・」
彼らの話し合いに細身の優男と言った感じの青年が声を上げる。
「天昇流刀法術宗家のあの御仁か・・・貴様でも手も足も出んとは信じられんのだがな」
「嫌出すよ~先輩。自分ではかすり傷一つつけること出来ないですってば。格っていうか次元そのものが違う感じですかね~」
その場に居た全員がゴクリと息をのむ。なぜならば銃器を用いなければ・・・いやハンドガン程度の銃器では発言したこの優男に手も足も出ないのは他の隊員も理解しているからに他ならなかったのである。