013話
時間圧縮技術により通常時間の4倍の速度で流れるVR世界ではアスカ達は長期休みとはいえ睡眠の為6時間以上はログアウトをしている。つまりVR世界では1日過ぎていることになる。
現実の用事なども含めれば2日過ぎるなどざらにある現象であった。再びインしたアスカ達は見慣れない鎧姿の者や忍び装束を着こんでいる者が増えていることに驚く。
「伊豆攻略の部隊か?」
ハルナが不意に思い当たることを呟く。
「まっそう言うこった。俺ら【天下不武】と【伊賀忍軍】合同の1,800ってとこだ」
アスカ達が振り返ると躑躅ヶ崎で共に戦ったシバタがニヤリと口端を釣り上げ
「しばらくぶりだな【神子】さん。そしてそっちの金髪美少女が【姫騎士】だな」
アスカとシャルロットは互いに二つ名が付いていることに顔を見合わせ驚きを見せる。
「なんだ、パーティーを組んでんのに知らなかったのか?」
2人は同時に頷く。
「でだ。【神子】さんと【姫騎士】にはシキノ様・・・」
「【陰陽連】の盟主だ」
シキノと言う人物に心当たりのないハルナとシズカを除いた者たちが誰か分からずにいるとシバタの後ろから誰もが知る顔立ちの良い男が歩いてくる。ノブタカ・・・一応この国日本の現総理大臣に当たる人物である。
「ああ~こっちでは俺は【天下不武】ギルドマスターってことでよろしく」
ノブタカは気安く言い放つ
「説明が途中であったが、そう言う訳でお前らを関東へ送ることになる」
「お断りします」
アスカの言葉に周囲は押し黙り沈黙した。
「いや、君が居かねければ、関東の【時間旅行者】は悲惨なことになるのだが・・・行ってはもらえないだろうか?」
ノブタカはアスカに対し頭を下げる。
「行きません。それに関東の【時間旅行者】を僕が助ける義理はありませんから」
ノブタカは頭を上げアスカのパーティーメンバーであるカリナたちへと顔を向け
「君たちからも彼を説得してくれないか?」
「あたしも行かない。わざわざあいつ等の仲間が居るとこに行く気はない」
ノブタカの言葉にシャルロットは拒否を示した。
「おいおい! 分かってんのか? 同じ人が苦しんでんだ助けるのが人情ってもんだろうが! それにノブタカならそのあいつ等?だっけか、そいつらを関わらせないことも可能だ!」
シバタは声を荒げ協力を仰ぐ。
「・・・でしたら加害者数百人、その関係者となると数千人から1万人前後関わらせないことが可能なんですか?」
それは押し黙っていたシズカの声であって今にも泣きだしそうな声であった。
「君は・・・何を言っているんだ・・・」
「○○中学校、アスカはその被害者だよ」
困惑するノブタカにカリナがヒントを与え、そのヒントでノブタカは何のことか理解した。
最悪だ・・・1万人前後なんて俺でも無理だぞ?
「あたしの場合は違法機器と言えばわかるのか?」
違法機器って【VRブースター】の事か? つまり彼女はその被害者ということになる・・・主だった者は捕らえたが・・・壊滅できたわけじゃないからな・・・くそっ! 今後の予定が大幅に狂う
ノブタカが押し黙っているとシバタが代わりにと言う思いで口を開こうとする。だがそれはノブタカに肩を掴まれ止められる。
「何で止める! 関東! いや国の威信に関わることだろうが! お前ならどうにかできるだろ!」
ノブタカは首を振り
「彼女についてはその背後関係がまだ分かっていないし、彼に関しても仮に【時間旅行者】1万人を強制ログアウトにしても今度は戦力が足らなくなる」
事ここに至ってはシバタもアスカの事情を理解する。
「嘘だろアレの被害しゃって・・・自業自得とはいえどんな巡り合わせだよ・・・くそっ!」
シバタは近くにあった建物の壁を殴りつけ呟く。
「そう言う訳なんでごめんなさい」
アスカはノブタカに告げその場を後にした。
「どうする大将」
シバタはノブタカへ今後どうするのかと尋ねる。
「取りあえず我々は伊豆の【葵】をどうにかしてシキノ様だけでも関東入りさせないと」
すると【天下不武】のヒデミが駆けてくる。
「大変ですノブタカ様」
「そっちでもなんかあったのか?」
ヒデミにシバタが訊ねると一瞬驚きを見せ
「【破邪】系の武具の製造方法が判明したんですが、材料に問題発生です」
そう、ヒデミは【六文】を通じトウショウサイに問い合わせていたのである。しかし作成方法は聞き出せたのだが・・・材料に付いて問題が発生したようであった。
「どんな材料だ。買える物であればトウキチに依頼すれば多少高くとも手に入るだろう」
「いえそれが希少価値の高い【聖属性石】が必要で・・・」
「【聖属性石】ってボスドロップでもまれなアレだろ? そんなんじゃ数そろえられんだろ?」
「そうだな。だがトウショウサイ殿はかなりの数を量産していたと聞く」
「はい。ですのでさらに問い合わせたところ、特殊な水を使用していることが分かり、そのことでご相談があったのですが・・・」
ヒデミは先ほどシバタが言っていた「そっちでもなんかあったのか?」と言う言葉に引っかかり気になるようでシバタを見る。
「ああ~こっちは【神子】と【姫騎士】の協力要請に失敗した」
シバタの言葉にヒデミは瞳を見開き表情を曇らせ
「・・・そうなんですか・・・これは本格的にまずいですね・・・」
「ん? どういうことだヒデミ?」
ノブタカの問いにヒデミは顔を上げ
「先ほど言っていた特殊な水の製造に彼、【神楽舞の神子】がどうやら関わっているようなんです」
ノブタカは右手でこめかみを抑える。
今から追いかけて説明して協力を取るのか? 何て無理ゲ~だよ
「あの、私が交渉してきましょうか? 協力の件も含め「やめておけ」・・・どういうことです?」
ヒデミが交渉を買って出るとシバタが止める。ヒデミはシバタを睨み付け再びノブタカを見るとノブタカは首を左右に振り
「今は無理だろうな・・・理由は後で話す」
「・・・分かりました」
ヒデミは何か言いたげであったが、ノブタカの悲痛な顔を初めて目のあたりにし、ただ事ではないと悟りそれ以上の言及をやめた。
関東に進軍するにあたりアスカとシャルロットの協力が得られなかったことをノブタカはヒデミと共に【伊賀忍軍】のマサナリへと伝えた。
「そうですか・・・よりにもよってあの2つの事件の被害者だったなんて・・・それで今後どうします?」
マサナリは理解を示し悔しさに顔を歪めノブタカに今後について尋ねる。
「ヒデミはこのまま残り【神聖水】だったか? それの交渉を頼む。だが・・・」
「くれぐれも気を付けろでしょ?」
言いたいことを先に言われノブタカは口をパクつかせる。
「ククク、先に言われちゃ世話ね~な大将?」
「煩い! っと【六文】はこのままシキノ様を護衛しつつ相模の国、そして江戸を目指してくれ」
「分かったけど・・・江戸での【六文】はあまり期待するなよ?」
カエデは了承しつつも意味深なことを口にする。ノブタカは分からず疑問符が浮かぶような表情を見せた。
「私達【六文】の・・・特に幹部クラスは彼の幼少からの友人が多くいるんですよ。代表が彼の祖母だと言うのも有りますが・・・」
その疑問にカエデの隣にいるユキナが答える。
「あちゃ~ここもか、【六文】の戦力があてにできないとなると・・・」
シバタが額を押え呟く。
「そこは【毘沙門天】や【風林火山】、それに【独眼竜】、【八犬士】が居るのではなくて?」
ユキナの言葉は的を射ているのだが、敵のボスクラスがレベル80と来てはその戦力では足りないのだ。それに【八犬士】に至ってはそれよりも劣るレベル60の【豪鬼】にすら及ばなかったことからも他の3つのギルドだけでは心もとない状況であった。




