011話
吉原宿北部
神楽を舞い終わったアスカはその場に座り込む
「アスカ!」
「アスカ君!」
『無茶をしましたね。誰か回復を!』
アスカへと駆け寄る皆を余所にミカエルはアスカの状態を察し声を掛ける。
「私が!」
シズカはそのままアスカへと駆け寄るとアスカの背に符を貼り付け
「この者を癒したまえ【回復符】」
符はうっすらと光を帯び明転しだす。暫く行っているとシズカがよろめきカリナがその身を支える。
「シズカ大丈夫?」
「は・・・はい。MPが底をついただけですので・・・」
「それでアスカ君は治ったのかい?」
『いえ、HPは回復しているのですが、状態異常が回復していませんね』
ミカエルの言葉にみんなの視線がアスカへと注がれる。
「・・・力を解放すると今の僕では身体に負担がかかり【身体能力低下】のデバフが付くんですよ」
「そんな状態でアスカは待っていたのかい?・・・無茶しすぎです」
何故かシャルロットが涙ぐんでいる。
「ああ~え~と・・・こっちの装備にすれば」
アスカが普段の装備へと変更すると【身体能力低下】のデバフの数値が見る見ると下がり0となる。
「この通り問題ないんです」
そう告げアスカは立ち上がる。その光景にみんなは瞳を見開き驚きを見せる。
「この1対の小太刀【雷氷の双刀】には【自動回復(大)】というスキルが付与されているんですよ」
『なるほど、それが有ったからある程度回復した段階で舞へと移行したわけですか・・・』
「まっあんなにスゴイ動きが何の代償もなく使えるわけないか」
ハルナの言葉にアスカは小首を傾げ
「お爺様やお爺様の一番弟子であるソウシさんは代償なく扱えますけど?」
ハルナは開いた口をパクつかせる。
「・・・先生はやはり化け物だったんだな・・・」
何とかハルナは言葉を絞り出し手で自分の額を抑えるのであった。
『いつまでもここに居るわけにはいかないでしょう』
「そうですね。アイちゃんたちの事も有りますし、食料も少ないですけど確保出来ましたから・・・」
シズカはチラッとシャルロットを見る。
「なっ!? そりゃ~あたしが焦がさなきゃもっとあったんだろうし、あんな変な奴に絡まれなかったんだろうが・・・」
「あっいえ、そう言う訳ではなかったのですが・・・シャルもアスカ君と同じように【火術】を使った代償なんかが有るんじゃないかと・・・」
「ああ~そう言う事・・・いや~そっちは別になんもないんだけど・・・聖炎に関しては制限と言うか今はあたし1人じゃ使えないからさ」
シャルロットの説明によれば、まだミカエルの【聖属性】を自分では引き出せない為にアスカの舞により神聖域とかした場所でしか使えないことが伝えられる。
「へ~そんな制限? が有るのか・・・」
「あっ! そう言う事なんですね」
シズカが何かに気が付き声を上げる。
「ん?シズカどういうこと?」
「つまりですね。他の【術】に関してもそれに適した【場】または【装備】などにより補えるんじゃないかって事なんですけど・・・」
シズカは次第に自身が無くなり声がしぼんで行く。
「ああ、そう言う事か。【媒体】が必要ということだな」
ハルナも理解したのか声を上げる。
『皆さんは知らなかったのですか?』
ミカエルの知っていることを示すような言葉に全員の視線が集まる。
『・・・はぁ基本的なことですよ? まぁ皆さんは【時間旅行者】であることから知らないのかもしれませんが、未熟な者たちは【媒体】を介し練習することで【術】の扱いに慣れて行くものですよ?』
「うわぁ~こいつは凄い発見だね」
「情報を他の者にも伝えても?」
ハルナの言葉にミカエルは頷き
『基本的なことなので構いません』
【術】に希望が見えたことで話し合っていると
「あの悪いお兄ちゃんの事は伝えなくていいの?」
アイが突然そんな事を口にする。
「よく気が付いたねアイちゃん」
アスカはアイの頭を優しくなでまわすとアイは嬉しそうに目を細める。
「えへへ~褒められちゃったの」
「しかしあのムカデは何だったんだ?」
「・・・【蠱毒】・・・そう【蠱毒】だと思います!」
シズカから予想されるものを提示され皆そのことに思い至る。
「ああ~【蠱毒】か~結構有名だけど扱える者が居るんだ・・・」
「恐らく【アシヤ】の陰陽師であろうな」
カリナが声を上げ、それを使った者の心当たりをハルナが告げた。
「良し、それを含め情報を私が上げよう」
「お願いします」
ハルナを中心に【陰陽術】をもつシズカにあれこれ聞きながらまとめた内容をハルナが掲示板へと上げる。
武蔵の国、八王子郊外
突如として現れた騎馬隊により【死鬼】達は背後をつかれ混乱に陥っていた。
「あははは・・・向うの方が行動が早かったみたいだね。【白虎隊】! ナガオ軍に協力して【死鬼】を殲滅する! 突撃ぃぃぃぃ!!!」
「「「おお!!!」」」
更に【白虎隊】が正面から遅い挟撃する形となり見る見るうちに【死鬼】達は打ち取られて行く。
「くっ! 退却する!」
【死鬼】達を指揮していた【早鬼】は撤退を開始する。しかしその目の前に毘沙門天の文字がはためく。
「【毘沙門天】の皆! このカネツグに続け! はっ!」
馬上から顔立ちの良い長髪の男が槍を掲げ馬を走らせる。彼はカネツグ、【毘沙門天】の棟梁を務める【時間旅行者】である。
「こっちにも兵を伏せていたか・・・ウザイ・・・ウザイ!!!」
次の瞬間【早鬼】の身体がぶれ馬上より姿を消すとガギィ~ンと鉄がぶつかり合う音がする。その音の方を見ると【早鬼】の短刀を寸でのところで槍で防ぐカネツグの姿があった。
「おっと! あぶね~・・・やるじゃないか!」
槍を持ったままカネツグは腰に刺された脇差へと手を添え抜き放つ。
「遅い!」
再び【早鬼】の身体がぶれ離れた場所に姿を現す。
このままじゃきっと俺は負けるな・・・
カネツグの頬を汗が一滴流れる。
「・・・次は無い・・・」
【早鬼】のその言葉が告げられた瞬間、【早鬼】の足元に魔法陣が浮かび上がりその姿は掻き消えた。
「逃げたのか・・・いや、見逃されたのだろう・・・」
カネツグはまだ戦いは終わっていないと思いだし再び槍を握りしめ馬を掛けさせるのであった。
常陸の国、太田城
「ナガオ家が動いたか・・・【豪鬼】に下野の国へ出陣しろと伝えろ!」
「はっ!」
黒ずくめの【死鬼】がその場から消える。
「この分では伊豆の【アシヤ】は役に立たんかもしれんな・・・どうしたものか・・・」
キヨタツは思考の海へと沈んで行く・・・
上総は混乱から回復しつつある。駿河も策は破られた・・・下総、武蔵はナガオに邪魔をされ・・・
「京の【タイラ】はそこまで落ちているか」
物陰から突如として渋い男の声が聞こえてくる。
「フンッ! 死者の分際でこの我を愚弄するか」
「下総は俺が奪ってやる。元々俺が納める地だ文句はないな?」
「好きにせい。だがナガオのカゲトラは手強いぞ?」
「フッ貴様の腰巾着と一緒にするな」
その言葉に何処からともなく【早鬼】が現れ陰に潜む鎧武者へと駆けだす。
「よさぬか【早鬼】」
キヨタツの言葉に【早鬼】は立ち止まる。するとどうだろう【早鬼】薙刀や槍、ポールアクスと言った3つの武器によりその首が飛ぶ寸前であった。
「マサカドそれくらいで【早鬼】を許してはくれぬか?」
鎧武者は右手を静かに上げる。すると3つの武器は何処とも知れぬ間に消え失せる。
「早いだけでは我らを捉えることなどできぬ。次は無い」
マサカドはその場から立ち上がり窓へと歩み寄ると月明かりが降りそそぐ・・・そこに現れたのは烏帽子を付けた鎧武者の他に天狗の面をつけた者、鬼の面をつけた者、そして何もない白い面をつけた者がマサカドの前に控えていた。
「キヨタツよ次に会う時は敵やもしれぬぞ? ゆめゆめ悪れるな?」
そう告げるとマサカドを含めた者たちの姿が消えた。
 




