009話
ツバサを切り裂き解放状態を解除しようとしたその時
ツバサの身体から物凄い濃い黒いオーラがあふれ出し切り裂かれた肉体が元へと戻り始める。
「ちょっ! シャレにならないんだけど」
『アスカ殿! 早く神聖結界を!』
カリナの驚きの声をかき消すかの如くミカエルの大きな声が聞こえる。
ステータスは・・・
アスカのステータスには今【解放】の影響からステータス低下30%と表示が付いていた。そのステータス低下の表示ではあるが徐々に29%、28%と減り始めている。これはアスカが装備している1対の小太刀の【自動回復(大)】の影響である。その数値が10%をきると身体から違和感が消える。すぐにアスカは装備欄を変更する。【神楽舞用の装備】と名付けられたその装備へと変更し、始まりの合図となる足を踏み出す。トンッ・・・トトンッ・・・と
足場は森であるために悪いがそれでも流れるよな舞が始まると辺りへと穏やかな気配が広がり始め大地はそれに康応するかのごとくにうっすらと青白く輝きだした。
「カリナ!」
カリナへと懐から横笛を取り出したシズカが声を掛ける。
「! そうか分かった」
即座にカリナもシズカの意図をくみ取りアイテムポーチから琴を取り出し周囲を見渡し安定しそうな場所へと琴を置き
「次の節から入るよ!」
カリナの言葉にシズカは頷き横笛を口へと添える。
「今!」
琴の音と横笛の音が加わりアスカの舞う神楽に彩を添える。
「・・・おねぇ~ちゃん達も凄い・・・」
その音色を聞き顔を上げたアイが呟く。そして更にその場に居る者たちは信じられない光景を目の辺りにする。
黒いオーラ(瘴気)により枯れた草花が生気を取り戻すのみにならず花まで咲き出したのだ。するとツバサであった物から吹き出す黒いオーラが陰りを見せ肉体が粒子へと変わるとそこには手のひらからはみ出さん大きさの大きなムカデが苦しそうにのたうち回っていた。
『シャルロット殿!』
ミカエルの言葉に反応しシャルロットが首にかかった十字架を握りしめ
「聖炎よ! 邪悪なるモノを滅せよ!」
シャルロットの前にバスケットボールサイズの魔法陣が浮かび上がりそこから青白い炎が塊となりムカデへと飛び出した。
『ギシャァァァ!!!』
断末魔の叫びと共に粒子となり消え去る。
「火! 早く火を消して!」
ハルナは森に火が映ると思い咄嗟に叫ぶ。
『問題ない。この神聖域の中で生み出された聖炎は森を焼くことはありません』
「つまり特殊な条件下だと問題ないと言う事か?」
ハルナの言葉にミカエルは頷く。
ムカデが聖炎にて焼き払われたころ、駿府城前でヨシトモの身体が光に包まれる。
「殿!」
「問題なかろう。ツバサなる物が倒され解放の時が来たにすぎぬ」
それを聞いた鎧武者たちはその場で膝を付き目頭を押さえ泣き始める者も居る。
「我はこれほど皆に愛されていたのだな・・・」
「「「殿~」」」
暫く点を見上げ物思いにふけっていたヨシトモは再び鎧武者たちへと向き直り真剣な表情を見せる。
「我はこれで逝く・・・ヨシミの下に一つとなりタイゲンの指示に従え」
「「「御意!」」」
「これで終わりではない。伊豆の国で暗躍する【アシヤ】、姿は見せんが恐らく「そこまでです」・・・」
ふわり、そうふわりとその場に【知鬼】と呼ばれていた【死鬼】が降り立つ。
「このまま消えるならそれでよし、その先を言われるのであれば・・・」
【知鬼】は右手を上げる。すると何処から現れたのか大量の【死鬼】が姿を現す。
ヨシトモと【知鬼】の間に緊張が走る・・・しかしその睨み合いは突如として崩れ去る。そう言葉通り【死鬼】とヨシトモの肉体が崩れ始めたのである。
「これは! 聖結界? いやこれわぁぁぁ!! くそっ! これほどの使い手がっ!」
その場で苦しみだすも次の瞬間【知鬼】の足元に魔法陣が現れ【知鬼】の姿が消える。
「「「殿!!!」」」
鎧武者たちはすかさずヨシトモの下へと駆け寄りそのうちの1人がヨシトモを抱え起こす。
「心地いい光だ・・・敵は【常陸】・・・そこに【タ・・・イ・・・ラ】・・・」
「「「殿~~~!!!!」」」
ヨシトモの亡骸は鎧武者たちにより手厚く葬られ、情報は蒲原城のタイゲンの下へともたらされる。
「殿は逝ったか・・・殿の最後の言葉無駄にはせん! 周辺各国へ伝文を飛ばせ! 敵は常陸! 【タイラ】とマサカドは常陸に居ると!」
タイゲンは部下の多くの者や伝書鳩を駆使し邪魔が入ることも想定し関東以外の国々にも飛ばすのであった。
常陸の国、太田城
最早とこを見ても【死鬼】の一団を見ると言う状態となり【タイラ】によりサタケ軍は制圧されてしまっていた。
「申し訳ありません」
土下座の状態で【知鬼】は床へと頭をこすりつけていた。キヨタツは無表情で口を開く
「良い。ヌシが耐えられんほどの聖結界を張れる使い手が居ると分かっただけでも収穫はあったと言う物よ」
「しかしヨシトモめの口から我々の居場所が・・・」
「伊豆の【アシヤ】が居る以上動けるとして北のダテ、モガミ・・・それくらいだろう」
「ウエスギとアシカガは?」
小柄の【早鬼】が上げた名は【封印殿】のあった下総の国のアシカガとその隣の武蔵の国のウエスギである。
「その2つにいかほどに力が有る? 特にアシカガは首なし状態のマサカドにより壊滅的であろう」
「出過ぎた真似を・・・」
【早鬼】は頭を垂れるとキヨタツは顎に手を添え考え込み
「うむ、【早鬼】の言ももっともだな。ここの防衛は【豪鬼】と【死鬼】だけで良いだろう。【早鬼】とその部下で武蔵のウエスギを叩け」
「はっ!」
【早鬼】は闇に溶け込むように消える。
「【知鬼】は早うその傷を癒せ」
「勿体なきお言葉。早急に直しこの汚名注がせていただきます」
【豪鬼】はその場で口を三日月にいやらしく開き外へと出て行く。
伊豆諸島近くにある人工島監獄
ツバサはそこにある鉄格子のなかで目が覚める。
「ここは・・・! くそっ! 何だあの力は! やり過ぎるから手が出せなかった・・・これでは俺が見逃されていい気になっていたようではないか!」
だがそこでツバサは身動きが取れなくなり魔の前に『警告』の文字と強制ログアウトが成される旨が表示されていた。その隣で数字が次第に減って行く・・・この数字が0になった時ログアウトが成されると言う事だろう。
事ここに至ってツバサは自身のしてきたことを理解しだす。
【ブラックネーム】プレイヤーの意思により自発的に殺人を犯した者に適応される措置。
【レッドネーム】プレイヤーの意思により自発的に強盗など犯罪を犯したものに適応される処置。また故意でなく現地人【時間旅行者】問わず死なせてしまった物も適応される。
【オレンジネーム】器物破損や軽度な犯罪をした者に適応される処置。
【イエローネーム】迷惑行為がひどいものに適応される処置。
これらのプレイヤーに対し現地人の好感度はその色に応じ下げられる。更に【レッドネーム】【ブラックネーム】のプレイヤーはVR内では監獄施設へと強制的に送られ、犯した罪によりそれに応じた刑罰が施される。
だがしかしツバサは口端を釣り上げる。この監獄は現在【アシヤ】の支配下にあり犯罪現地人たちを脱獄させ使っているからに他ならない。
東京某所、立ち並ぶマンションに赤色灯を回した車・・・パトカーが複数止まっている。この日ここに住む1人の少年が逮捕されたニュースは世間を騒がせた。【VR犯罪症候群】を発症する恐れのある者を隔離する病棟へと連れて行かれた・・・名前は上がることはなかったが、その少年は昨年発覚した悲惨ないじめの主犯格の者だったと報じられVR技術によるものと言うよりその少年その者に問題があると世間を騒がせるのだが、それはまた別の話である。
 




