003話
「さて、まずはスキルに付いて説明した方が良いか」
アスカは座らせられマサツグによる講義が始まる
「ぶっちゃけると才能の無い者はスキルなど持っていてもレベルは上がらん」
アスカは言葉の意味が分からずに小首を傾げる。
「何、この世界は君らの世界に限りなく近い。故に君ら世界で技術を持つ者であればスキルなど自ずと身に付く」
「柔道の有段者が投げ技のスキルを覚えるとかですか?」
マサツグはうんうんと頷き
「その通りだ。だったら魔術は? となるであろう?」
アスカは頷く
「魔術に関しては遺伝子学状の超能力に分類するコードを基に組み上がっておる。少なからずはシステムの補助で可能ではあるが、才能の無い者はどんなに努力しても出来ん。それに魔術はプログラムの様な物の組み合わせだ。故に才能が有ってもそれを実現するだけの知識や努力なしにはできんよ」
「そうなんですね。分かりました」
納得するアスカを見たマサツグは口端をニヤリと釣り上げる。
「だが登録時に魔術系統を選ぶことは出来る。レベルは上がらんがな」
アスカは小首を傾げ考え込み
「選ぶとはアンケートの結果選ぶと言う事でしょうか?」
「無論」
「・・・詳細アンケートも?」
自信たっぷりなマサツグにアスカは恐る恐る尋ねるとマサツグの瞳が見開く
「アスカはあれ受けたのか?」
アスカはコクリと頷く。
「666問全部?」
再びアスカが頷く。
「ぶっはははははっ! まさかあのアンケートを最後まで受ける者が居ようとは! ん? まさかアレを受けて魔術がスキル欄にあるのか?」
大声で笑い出したマサツグは不意にある信じられない真実へとたどり着く・・・スキル欄に何らかの魔術が有るのではないかと・・・
アスカが再び頷くとマサツグの顔から笑みが消え真剣な表情へと変わる。
「ならば気にすることはあるまい。アスカの魔術はレベルが上がる。それも確実にな」
「それはいったい・・・」
アスカの表情は不安に包まれ曇りだす。
「なに。あの詳細アンケートは創造主が各国から招いた心理学者や遺伝子学者が議論に議論を重ねて導き出したものよ。故に才能有りと見受けられたものだ。あのアンケートの結果は才能値の高い順に登録される」
アスカは自身のステータス画面へと視線を落とす。最初の5つが魔術関連のスキル、次に【運気強化】、そして【演舞術】
アスカ自身は運がいいように思っていないのだが、ここぞという時や絶体絶命の時には彼に対して有利に働いているからである。【幸運】と言うより【悪運】であろうか・・・
【演舞術】については祖母が舞の先生をしていることからアスカも幼い頃から真似していたからであろう。祖父も祖父で古流の剣術を教えていたのだが・・・祖父が知れば悔しがるであろうことはまた別の話である。
そこでふとアスカは考える
才能値の高い順と言う事はまだスキルとして発言するのが有るのではないか
「初期スキルにないスキルも現実で習っていたり、習得していれば可能なんですよね?」
「うむ、可能だ。なんだ初期スキルが他の者で埋まり現れてないのか?」
「はい。祖父に習っていた剣術・・・っとこっちでは刀術になるのかな? を習ってました」
するとマサツグは考え込み何もない空間に手を突っ込んだ。肘から先が消え、再び姿を現すとそこには木刀が握られていた。
「ほれ、しばらくそれを振って見よ」
アスカへ向け投げられた木刀を両手で掴み立ち上がる
アスカは目を瞑り朝の素振りを思い出しながら振り下ろす。何度か繰り返すうちに複数の方向から斬撃を放つ・・・上から下へ、下から右上へ右上けら左下へ・・・次々と繰り出され動き回る様はまるで剣舞を踊っている様に流れる斬撃にはマサツグもその光景に見惚れ動きを止めていた。
しばらくするとアスカは瞳を開けステップを踏むかの如く動き回る。本格的に舞まで踊り出したのである。
アスカは一通りの確認が終わったとばかりに木刀を腰の鞘へと納刀する動きを見せ一息つくと不意に拍手が鳴り響く。
「いや~いいものを見せてもらった。くぅ~これで男でなければ・・・」
最後の一言が無ければ恥ずかしさのあまりアスカは顔を赤く染めていたであろう。故にアスカは殺気を込めマサツグを睨み付ける。
「!? くっ!」
斬られると認識したマサツグがその場から飛びのく。するとアスカは悪戯が成功したと言う様に笑みを浮かべながら
「急に飛びのいてどうしたんですか?」
「くっ! やってくれる。まぁそれだけできれば色々とスキルが増えているんじゃないのか?」
アスカも気になっていたのか早速ステータス画面へと視線を送る。刀関係のスキルが新たに4つ増え、そのうちの【体術(刀)】【刀技】の2つがレベル4にまで上がっていた。更に元からあった【演舞術】がレベル5となり何やらその横に★印が付いている。
「えっ? 何か★印が付いたスキルが有るんですけど・・・」
アスカは助けを求めるかのようにマサツグへと視線を送るとマサツグも驚きの表情を見せていた。
「はぁ? 訓練だけでレベル5まで言ったのか? 嘘だろ・・・レベル1が初心者、レベル2で一般、レベル3で熟練者、レベル4で達人、レベル5なんてのはそれ以上! 超人の部類だぞ!! それをこんな訓練所で! 良いかここでの訓練で君らの世界で熟練者と呼べる者でもレベル2、達人でもレベル3が普通なんだよ! それを何か? 『★印が付いたスキルが有るんですけど』だと? 何か? お前は神だとでもいうのか? でどんなスキルに★が付いたんだ!」
襲い掛かるように顔を近づけマサツグは一気にまくしたてた。
「え~と【演舞術】?ですけど・・・」
「ああ~まぁあの踊っているみたいな剣舞か~」
マサツグは先ほど見とれていた剣舞を思い出しながら何処か納得した雰囲気になっていた。
これで【体術(刀)】【刀技】の2つがレベル4になってるなんて言ったら・・・
アスカは最悪の事態を考え青ざめ2つについては秘匿することを決めた。
するとマサツグが突然謝って来た。
「悪い! 他人のスキル聞くのはマナー違反だな・・・本当にすまん」
何のことか分からずにアスカはマサツグに説明を求めるとマサツグは素直に説明してくれた。
レベルはあるがその上昇は微々たるもので、基本スキルによる補正の方が大きいこと
故にスキルを知られると言う事は手の内やステータスを知られるに等しいことを教えてくれ、それらを信頼を得て教えてもらうならともかく力ずくや何も知らない初心者に危険性を説明せずに聞くのはマナー違反何だと言う事もマサツグはアスカに説明した。
「って事なんで本当にすまん」
「いえ、気にしませんよ。それともマサツグさんは皆に言いふらすんですか?」
頭を深々と下げるマサツグに対しアスカは気にしないと答え、言いふらすのかと言う問いにマサツグは頭を上げ首を左右に振り否定する。
「誰にも言わんが、聞いちまったもんはしょうがない。さっきの不良教官の件も含め迷惑料を用意する。明日以降時間のある時に取りに来てくれ」
「スキルに関しては気にしません。不良教官の迷惑料のみで・・・」
「そう言う訳にはいかん。これは俺のけじめの意味も含まれている。魔術の中には催眠術の様に自白させるものもある。俺には効きにくいが、効きにくいだけで絶対ではないんだ」
マサツグはそう言いきり折れそうもない雰囲気であったのでアスカは渋々了承するのであった。