007話
吉原宿、孤児院教会前
アスカ達が泊まるテントへと日の光が降りそそぐ。このテントは見た目とは違い空間拡張がなされており、テント内には5部屋あり、それぞれの部屋にトイレとシャワー室が完備されている優れモノである。そんなテントの中からアスカが出てくると周囲を確認し誰も居ないことを確認すると装備を変更する・・・白い狩衣、舞を踊るようの装備である。
アスカは懐から扇を取り出し足でリズムを取り、ゆっくりと動作を確認するかの如く舞を踊り始める。
しばらく踊り一区切りつけたところで教会の方より拍手がなる。アスカがそちらへと視線を移すとそこにはシャルロットの姿があった。
「凄いな。それにこの空気・・・」
周囲の空気を手で感じているかのごとく広げシャルロットが呟いた。するとどうだろうシャルロットの右肩の辺りに白い光が収束し3頭身サイズの白い3対の翼を持つ可愛らしい赤髪の天使が現れる。
『これは・・・なるほど天界の【神域】に近いと言う事か・・・だがこの大きさは・・・ああ~シャルロット殿の魔力ではこの状態でしか顕現でき無いようだな』
アスカは愚かシャルロットさえその存在に驚いていた。その状況を察したのかその可愛らしい天使は2人が見える位置へと飛び上がり
『私は天の神に仕えし【七大天使】が1人ミカエルと言います』
「アスカです」
アスカの声に我に返ったシャルロットは慌てて膝を付き
「シャシャルロットです。あの時は危ないところを助けて頂き有難うございます」
シャルロットが頭を垂れるとミカエルは苦笑いを浮かべ
『そう畏まられても困るのですが、一応私は貴方と契約し顕現しているに過ぎないのですから』
「でっですがミカエル様は神に仕えるお方ですから・・・」
『すぐに改めるのは難しそうですね』
ミカエルはシャルロットへ告げると体ごと視線をアスカへと送り
『この様に普段は虚勢を張っているだけですので末永くシャルロット殿の事をお願いいたします』
シャルロットはミカエルの言葉に瞬間湯沸かし器のごとく一瞬で顔を赤らめる。
『ん? 私は何かおかしなことを言いましたか?』
「え~と、先ほどの言い回しだと結婚相手に娘をお願いします的な言い回しにとれなくないんです」
『ああ~そう言う事ですか。でもあながち貴方方は私から見てもお似合いだと思いますよ』
するとテントの中からカリナとシズカが飛び出して来て
「ちょっと待った!」
「そっそうです! いきなり結婚なんて!」
そんな2人を見てミカエルの顔に笑みが浮かぶ
『なるほど。そちらのお嬢さん方も「わぁぁぁ!! それ以上言うなぁぁ!!」っとこれは失礼。ですが、私がこの状態とはいえ顕現できると言う事は可成り重要だと考えます』
「それはつまり普段以上の力を彼女が使えるようになると言う事ですか?」
『そうです。それに貴方の心にもまた彼女やそこの彼女たちが必要であると私は感じました』
アスカは分からずに小首を傾げる。
『今は分からないかもしれませんが、必ず彼女たちが傍に居ることが貴方の為になると思います。それにシャルロット殿も同じですね。もっと身内以外で信じられる者を増やすべきだと私は思います』
「それはわたくしも賛成ですわね」
シャルロットの背後からシスターセイランが現れミカエルの言葉に賛同する。
「シスター!」
「良いですかシャルロットさん。私達が何故朝の清掃に参加していると思います?」
「それは・・・人とのつながりを・・・現実じゃ難しいからまずは現地人とって事だろ?」
シスターセイランは正解とばかりに両手を胸の前で合わせ微笑み
「正解です。そう触れ合う為です。そして貴女は皆の手本とならなければいけません」
「それが彼・・・彼らと触れ合うことだと?」
「はい。まずは彼らと貴方が触れ合い、彼らと共に人の善悪に触れなさい。そしてその中で貴方なりの結論を出せば良いのです」
「そうだぜシャルねぇ! 別に会えないわけじゃないんだ。現実では俺らとは会えるんだからさ、こっちに居る時くらい自分の好きなことをやれよ」
「でもね、でもね。お兄ちゃんのお嫁さんになるのはアイだからね」
「フフフ、そうだな。だがアイ、おねぇ~ちゃんも負けないぞ?」
「嫌々、アスカは競争率高いからな?」
「そうですアスカ君は競争率高いんです!」
女性4人が睨み合い誰ともなく笑い出す。
「えっ? えっ? どういうこと?」
訳も分からずに話が進みアスカは狼狽える。
「あちゃ~」
「うわぁ~」
「はぁ~」
カリナ、シャルロット、シズカがそれぞれ声を上げ
「お兄ちゃんは鈍感なのです!」
助けを求めるようにシンたち男の子の方を見るアスカにそれぞれが一斉にアスカと目を合わせない様に反らす。
『ふむ、朴念仁と言う者ですか・・・誰が選ばれるにしろ認識させるだけでも大変そうですね』
「そうですね。そう言うのが流行っているのかしら?」
シスターセイランは最近のアニメやドラマに出てくる主人公が鈍感な者が多いな~と思い浮かべながらミカエルに同意する。
一方その頃夜通し動いていたイマガワ軍は森の中へ隠れるように潜み疲れを癒していた。そんな時森が炎に包まれる。
「何事だ!」
騒ぎの声が防音処理が施されたテント内へも聞こえ、丁度寝ようとしていたツバサは不機嫌なままテントから出て愕然とする。
周囲は炎に包まれ勝手に駿府城方面へと退却する者たちは罠にはまり怪我をする始末・・・唯一開けているのは蒲原城方面へと続く道
これが軍師タイゲンの策だとして、通常であれば罠の先には兵が居ないと思われるが・・・軍師としてかなり優秀だと聞く・・・はっ! そうか! 三国志の劉備対曹仁の戦いで見せた徐庶の策か!
「ええ~い狼狽えるな! 日が回っていない方向へと逃げればよいだろう!」
「そっちは蒲原城の方だ! きっと兵が待ち構えている!」
「そうだ! 行ってほしくないから罠を配置しているのだろう!」
次々と反対意見が上がり最早ツバサの言葉に従うだけの理性がの小手いない状態であった。
「ああ゛~もう! 好きにしろ! 曹仁に対して劉備が用いた柵を知らないとは・・・貸せ!」
ツバサは目の前の騎馬武者から馬を奪い取ると鎧も付けづに火のない方へと駆けだす。足軽兵の大半はそんなツバサの後を追い。騎馬隊や知識のある部隊長の部隊は罠を回避しながら罠の設置してある方へと逃げ出した。
森を抜けだしたツバサの前に待ってましたとばかりに騎兵が姿を現す。
「なっ!? 徐庶の策を模したんじゃないのか? くそっ!」
踵を返し再び森へとツバサは馬を走らせる。
「逃がすな! 恐らく奴がツバサとかいう元凶だ! 追え! 追え!」
騎馬隊が駆けだすが、日から逃れた足軽兵によりその行く手を阻まれる。足軽兵は足軽兵で生きるために必死に騎馬隊へと攻撃を始める。
「ええ~い! 邪魔をするな! 元凶さえ捉えられればヌシたちには罰を与えると森は無い! そこを退け!!」
騎馬武者が声を張り上げ叫ぶが極限状態にある足軽兵の多くはその声が聞こえていない。そんな状態であるからこそツバサはこの場から逃げ延びることが出来たと言っても過言ではなかったのである。
1人森を北東へと走らせるツバサ
「確か【管狐】を使った山賊やら盗賊やらの一団がまだ北に居るはず。それを使えば蒲原城ぐらい落とせるはずだ」
ツバサはまだ知らなかった。封鎖に使っていた盗賊団が既にユキナ率いるタケダ軍により殲滅されていることを・・・ツバサは要るはずのない存在を求め甲斐の国と駿河の国の国境へと急ぐのであった。




