006話
夜の闇に松明の炎が駿府城から蒲原城へ向け列をなす。その列の中腹に馬4頭に引かれた神輿があった。その神輿の中でふんぞり返っているのは勿論ツバサであり、【死鬼】とかしたヨシトモはその隅に追いやられている始末である。
「夜の方が【瘴気操作】のスキルの威力が上がるとはいえこうも暗くっちゃだめだな」
ツバサは【気配察知】などに見られる索敵系のスキルは所持していなかった。故に本来であれば松明など使わずに奇襲すればいいものを松明を使用し目立っての行軍となっているのだある。
「こんな事でタイゲンの知略を上回れるものか」
そんなヨシトモの呟きがツバサへと聞こえヨシトモを睨み付ける。
「フンッ! その軍師タイゲンと言えどこの数に対しどのような策が有ると言える? そんな物力で食い破ってくれる!」
「それでは多くの兵が犠牲となろう。将の器とも思えんな」
「分かってないなぁ・・・貴様と同じように【死鬼】とすれば良いだけだろう?」
ツバサの口元がいやらしく吊り上がる。ヨシトモは悔しさに顔を歪めるが術で縛られている為にどうすることもできないでいた。
そんな中先頭から大きな火の手が上がる。
「何事だ!」
ツバサが大声で叫ぶ! すると騎馬武者が駆け寄り
「火計の策にございます! 暗がりで油がまかれているのに気が付くのが遅れました!」
「何のための松明だ! もっとしっかりやれ! 俺を怒らせるな!」
騎馬武者御顔が歪みその視線がヨシトモを捉え、ヨシトモは首を左右に振る。『今は堪えよ』その瞳はそう訴えているようで、騎馬武者もその意をくみ取り何とか堪え日の対処へと戻っていった。
「くそっ! このままじゃ今晩の内に蒲原城へ着かないじゃないか!」
罠を警戒し索敵しながらの行軍は思いのほか時間を取られていた。それに無理やり言う事を聞かせていることも有り士気は最低と言っても過言ではなかったのである。
「「「うわぁぁぁ!!!」」」
再び前方から叫び声が聞こえてくる。
「今度は何事か!」
ツバサの声に先ほどとは別の騎馬武者が駆け寄り
「落とし穴にございます! ある程度強度を持って作られていた為発見が遅れました!」
「ああ~もう! そんな報告は良いから全速で蒲原城へ行け! 足軽兵など使い捨てにすればいいだろうが! 一度かかった罠に再びかからないだろう!」
全軍で5,000の兵の内3,500は足軽兵であった。またこの兵たちは駿府城の兵だけでなく近隣の支城から集められた兵も含まれていた。
「それに駿府兵3,000が居れば蒲原城何か落とせるんだから他の部隊を犠牲にすれば済むだろう!」
「貴様! それでも将か! 最早我慢ならん! かくごっぶふっ!」
斬りかかろうと刀へと手を添えた瞬間ツバサは神輿の中にあった槍を即座に置投げ騎馬武者を貫いた。
「ああ゛~もういい加減にしろよ! 貴様らはただのNPC何だから俺の指示に従っていればいいんだよ!」
この出来事が決定的となったのか行軍速度は見るいると遅れて行く。
「ああ゛~もう! 予定の半分も言って無いじゃないか! しょうがない全軍森などに隠れる! さっさとしろ! 貴様らを【死鬼】に変えたっていいんだぞ?」
ツバサの言葉に兵は渋々従い北の山すそに広がる森へと身をひそめる。しかしながら火を消したとはいえ煙まで出ないようにしたわけではないので蒲原城に居るタイゲンには筒抜けであると言ってよい程である。
「ふむ、夜の行軍で思った進軍が出来ずに敵はここに籠っていると予測できるな」
各部隊長が集まった軍議の場でタイゲンが地図を扇子で指す。
「タイゲン様の予測通りですね」
「うむ、そろそろ日に手が上がろう。騎馬隊は?」
「はっ! 所定の位置に潜んでおります」
「深追いは無用と伝えよ」
「はっ! 直ちに」
鎧武者の1人が席をはずし駆けだす。鎧武者を見送ったタイゲンは再び地図へと視線を戻し
「これまででどれほど数が減ってくれているか・・・後はタケダの援軍が間に合うかにかかって来るか・・・」
鎧武者達は一斉に頷く。
「ヨシトモ様を解放するとなると・・・吉原宿へ伝令を出せ! 【神楽舞の神子】へ救援要請を!」
「それでしたら私自ら参りましょう」
鎧姿ではあるが明らかに女性と見て取れる綺麗な女性が名乗りを上げる。
「宜しいのですかヨシミ様」
ヨシミ、彼女はヨシトモの子であり、殺されたヨシモトの姉に当たる人物である。
「父の解放に必要でありましょう? 父さえ解放されればヨシモトの敵も取れると言う物です」
ヨシミの瞳には憤怒の炎が宿っているのをその場に居る全ての者が理解しており、また彼らも心同じくするものである。
「無理意地はタケダとの関係悪化につながります。くれぐれも・・・」
「それくらいの理性は残っています」
タイゲンはヨシミの瞳を暫く見据え
「分かりました。護衛に20騎付けます」
タイゲンの言葉にヨシミはニコリと微笑み
「ありがとう。行ってくるわね」
「お気をつけて」
「タイゲン様も・・・皆様も決して死に急いではなりませんよ?」
ヨシミはタイゲンを見た後、後ろを振り返り見渡した後にそう述べるのであった。




