005話
シャルロットに案内されてきたのは街の端にある教会で、そこはまるで独立した施設であるかのように他の建物と距離を取り、広い庭に、奥には畑が有り野菜を作っているようであった。
「しばらく止まって構わないよ」
「じゃあ食料を出すけど・・・何処へ出したらいいかな?」
シャルロットが指さす庭を確認しながらアスカは周囲を見渡し食糧を何処に置けばいいかとシャルロットに確認をした。
「おっとそうだったな。こちだ」
アスカはポーチのアイテムの幾つかを馬車に備え付けられているアイテムボックスの食材と入れ替えシャルロットの後を追う。すると教会の勝手口であろうか裏へと訪れ
「セイランさ~ん」
シャルロットが誰の名を叫ぶと修道服に身を包んだシスターと思しき女性が扉から姿を現し
「庭を貸す代わりに食料貰うことになっているんだ。場所の指示お願い」
「あらまぁ~【神楽舞の神子】さんじゃありませんか。ようこそ吉原孤児院教会へ、わたくしはここのシスターを務めさせていただいているセイランです。よろしくお願いしますね」
シスターセイランの瞳が一瞬鋭くなったのを見逃さなかった。
「アスカです。こちらこそ庭をお借りします」
アスカは内心で警戒しつつも顔に出さない様に挨拶をする。
「ウフフ、そんなに警戒しなくても取って食べたりなどしませんよ」
するとシャルロットには何のことか分かり額を押え
「ああ~君は有名な【時間旅行者】なのか。彼女の事はあまり気にしなくて良い。運営側の関係者ではあるが邪魔も助けも・・・あたし等は助けられてるか・・・」
「ウフフ、彼女たちはちょっとした事件の被害者なのよ。だからそのサポートを私達が少ししているわ。でも本当にそれだけよ」
シスターセイランの言葉にシャルロットが慌てた様にセイランの口を塞ぐ
「この世界でと言う訳ですか・・・まぁ被害者であれば騒がれるのは嫌でしょうからね。誰にも言いませんよ」
何とかシャルロットの拘束を逃れたシスターセイランが再び笑顔で口を開く。
「流石ね。同じような立場の子だとわたくしも安心できますわ」
今度はさすがのアスカも驚きの表情へと変わる。シャルロットだけは何が何だかわからないと言ったようではあるが・・・
「これからもこの子達と仲良くしてくださいね」
シャルロットはシスターセイランとアスカの顔を交互に見て首を傾げる。するとシスターセイランが出てきた扉からアイが顔を出し
「お兄ちゃんこっちだよ」
アスカの手を引き中へと招き入れた。アスカが居なくなったところでシスターセイランが呟く。
「アスカさんは現実世界での犯罪被害者なのよ」
シャルロットはその言葉に驚き瞳を見開くが、詳細は話さないと言う様にシスターセイランもまた勝手口から室内へと入って行った。
「・・・同じ被害しゃって言っても・・・」
「アスカの事か?」
シャルロットは不意に声を掛けられ振り向くとそこにはカリナとシズカが立っていた。
「まっあまり言いふらすことではないのだが・・・」
「お婆様は少しでもアスカ君に人を関わらせた方が良いと言ってましたけど?」
「まっそうなんだが・・・彼と深くかかわるってんなら事情を話すが?」
カリナはシャルロットへと問いかけると、シャルロットは少し考え込み
「今はまだいいわ」
「今はまだね・・・気が変わって私らが居れば聞けばいい。私らが居なきゃ・・・」
「【六文】のメンバーなら皆知っているみたいだから聞けばいいんじゃないかしら?」
「って訳だから」
「・・・分かった。もし知りたくなったら聞くことにする」
シャルロットはそう言って再び勝手口へと視線を送る。
へ~脈ありってとこか・・・ライバルが増えるな・・・
あら~分かりやすいですね
カリナとシズカはシャルロットを見て心の中でそれぞれ呟くのであった。
にぎやかな教会での夕食を終えアスカ達が子供たちと色々な話で盛り上がっている頃、ハルナは1人【六文】の泊まっている宿を探していた。
「あれ? もしかしてハルナじゃない?」
不意にハルナの頭の上から声が聞こえてくる。ハルナが見上げると窓から顔を出すカエデの姿がそこにあった。
「ここに居たのか」
「ん? 私らに用なのか? 上がっておいでよ」
「分かった」
宿屋の入り口へとハルナは歩き出す。
宿屋の一室、案内されたハルナが部屋へと足を踏み入れるとそこにはカエデの他にも人が居た。
「そこに突っ立ってないで入ってそこに座って」
立ち止まっていたハルナへカエデから声が駆けられ我に返ったハルナは指示された座布団の上に腰を降ろした。
「それで私に何の用?」
ハルナは周囲を見渡し
「始めに彼女たちを紹介してくれないか?」
「おっと、そうだね。こっちのかわいい子がシキノちゃん! 私んのだからとっちゃだめだからね?」
「・・・ズズズ・・・私はヌシのものと言うか誰の者でもないのだがのう」
「そうです! シキノ様は【陰陽連】の盟主であられますれば、言うなれば【陰陽連】のものです!」
隣に控えていた小坊主イッキュウが声を荒げる。
「はぁ~イッキュウよ。私はモノではないのだがのう」
「はぅ失礼しました」
勢いよくイッキュウは頭を下げる。
「ね! 可愛らしいでしょ?」
「・・・ズズズ・・・それでヌシの話と言うのは何かな【風林火山】のハルナよ」
ハルナも【陰陽連】の盟主シキノの情報は持っていた。名前を言われ驚いたのには訳があった目の見えない状態で何故自分の名が分かったのかと・・・
カエデから聞いたと言うのが一番あり得るのだが・・・先ほどもイッキュウの頭が振り下ろされ湯呑に当たるのを回避していたどういうことだ?
「・・・【魔力掌握】、【魔力感知】のさらに上のスキルじゃのう」
まるでハルナの心まで読めているかのような反応を示すシキノにゴクリと息を飲み込んだ。
「そんな事より、で何の話なの?」
カエデの言葉にハルナは我に返る。
「そうであった。取りあえず北の街道を封鎖していた盗賊団は蹴散らした」
「おっ! 流石【風林火山】のサブマスター」
ハルナは茶々を入れるカエデをひと睨みし
「やったとは現在私が護衛するパーティーメンバーとだ。後は【六文】の代表から借りたユキナ率いるタケダ軍500だ」
「流石ユキナ! それにタケダ軍もお借りしてきたのか~」
「うむ、シズネ殿の部下となるとタケダ軍最精兵の富士吉田城の兵士達だ。これは心強いのう」
「これで噂の【神楽舞の神子】が来てくれればいうことないんだけどな~」
シキノの言葉にカエデが希望の言葉を加えた。
「ん? アスカ君の事か? それなら私の護衛対象がその彼だが?」
「アスカ君? どっかで聞いた名前だね・・・何処だったかな~」
アスカ名を聞いたカエデが額を人差し指で叩きながら呟く。
「ヌシたちの代表シズネ殿の孫・・・【神楽舞の神子】の事ではないのかのう」
「ああ~!!! って事はあっくんがここに来てるの! どこ! 何処にいる!」
カエデがハルナへと襲い掛かるかの如く迫る。
「近い! 近いってばカエデ殿! 離れてくだされ!」
ハルナの両手で押されカエデは引きはがされる。
「ごめんごめん! あっくんのこととなるとついね」
カエデはウインクしながら舌を少しだし謝りを入れる。
「【六文】のメンバーは皆そうなのか? まぁ分からなくもないが・・・」
ハルナの言葉に浮かれ気味であったカエデの瞳が鋭さを増しハルナを睨み付ける。
はぁ~本人の知らぬとこであのお方は何をやっているんだ何を!
これでは先が思いやられるとハルナはアスカの祖母であるシズネの顔を思い浮かべるのであった。




