003話
「アイっ!」
アイの下へと人垣を掻き分け現れたシャルロットが駆け寄る。
「シャルおねぇ~ちゃん!!!」
アスカの背後から顔を出したアイがシャルロットへと駆け出し、シャルロットが膝をつくとその胸に飛び込んだ。そして先ほどまでの恐怖と安心できるものの胸の中と言うこの状況で再びアイは泣き出した。
「怖かったよ~アイ怖かったの」
「良し良し。もう大丈夫だからね」
シャルロットはアイを抱きしめながらその頭を優しくなでる。
「保護者が来たようなので我々はここで失礼する」
ハルナはシャルロットにそう告げアスカ達の下へと歩き出す。
「待って、この子を、アイを助けてくれてありがとう」
シャルロットはアイの頭をなでながらお礼を言う。するとその胸から顔だけを上げシャルロットを見上げながら
「あのね。アイを助けてくれたのはあっちのお兄ちゃんなの! このお姉ちゃんは悪い人を捕まえてくれたの!」
シャルロットはアイの指さす方に居るアスカを見る。
「お兄ちゃん? お姉ちゃんではなく?」
「もう! お兄ちゃんです! シャルおねぇ~ちゃんお兄ちゃんに失礼なの! 謝るの!」
「良く間違われるから気にしてないよ」
アスカは頬をかきながら苦笑いを浮かべ答える。
「もう! お兄ちゃんもちゃんと怒らなきゃダメなの! お兄ちゃんの為にもシャルおねぇ~ちゃんの為にもならないの!」
「そうだな。言われ慣れているのと注意しないのは別だよ」
アイの言葉に賛同するようにカリナがアスカの肩を小突きながら告げる。
「だからシャルおねぇ~ちゃんはお兄ちゃんに謝るの!」
シャルロットはアイに引っ張られアスカの前へと連れてこられる。
「ほら! 謝るの」
上着の裾をアイに引っ張られ
「女と間違えてごめん。後アイを助けてくれてありがとう」
「いえ、助けられて良かった『ぐぅ~』です?」
アスカが音のした方へと視線を移すとアイが顔を赤らめお腹を押さえながら
「お肉食べられなかったなの・・・」
アイの言葉にアスカは串焼き屋の方へと視線を送るとおじさんは首を左右に振り
「アレが最後。すまね~が今日はもう完売だ」
「足りないのは肉だけですか?」
シャルロットとアイはアスカの言葉の意味が分からずに成り行きを見守る。
「ああ、たれはまだあるんだが肝心の【養殖魔鳥】が入荷してね~んだ」
「それって【スカウトバード】の肉ではできませんか?」
「空の監視者の肉っておめ~・・・まぁ癖はあるが出来るぜ」
するとアスカはポーチを漁りながらおじさんの前へと歩み、徐に1羽の首のない【スカウトバード】を差し出す。おじさんはそれを受け取り
「こいつは大物だな。良し作っちゃる少し待ってな」
そう言うと屋台の裏へと回り包丁を使う音が聞こえ、音がやむとおじさんが再び屋台へとやって来る。その手に10本近くの串が乗ったトレイを持って・・・
おじさんが串を炭火へと翳し焼き始める。ほんのりと焼き目が付きだしたところでその串をたれの壺へとくぐらせると再び焼き始めると美味しそうな匂いが辺りへと広がる。
ゴクリ、唾をのみ乞う音がきこへアスカは視線を移すとアイがアスカの上着の裾を掴んで目を輝かせていた。
「ほれ嬢ちゃん! 出来立ての串焼きだ!」
アイへと1本の串焼きが差し出され、アイはアスカを期待に満ちた目で見上げる。
「どうぞ」
「ありがとうなの!」
勢いよくおじさんから串焼きを受け取るとアイはそれを勢いよく口の中へと持って行き
「あちっなの!」
「そりゃ~出来立てだからな嬢ちゃん。ゆっくり覚ましながら食いな」
「はいなの! ふ~・・・ふ~・・・パクリ・・・はふはふ・・・もぐもぐ・・・お肉が美味しいなの!!」
「良かったな嬢ちゃん」
「良かったなの! もぐもぐ・・・はふはふ・・・」
アスカは微笑みながらアイが食べるのを見つめていると
「ほれあんちゃんも食いね~」
「ありがとうございます」
アスカへと差し出された串焼きを受け取るとアイがそれに気が付き
「お兄ちゃん美味しいなの! 早く食べるの!」
アイの言葉に促されアスカも串焼きを食べる。
「!?美味しい・・・」
「でしょ? 本当に美味しいなの!」
アイは再び自分の串焼きへと視線を落とし夢中で食べ始める。
「あんちゃん残った肉はどうする?」
おじさんはそう言いながら周囲を見回し苦笑いを浮かべる。最後の人口を飲み込んだアスカは徐に首のない血抜きのされた【スカウトバード】を5羽取り出し
「おじさんが良ければ皆さんに振るまってあげてください」
「よっしゃ!! 任せときな! おら~食いて~奴は並べ! だがいつも通り120エンは貰うぞ!」
すると周囲の人たちが並びだす。良く見るとカリナたちも並んでいる。
「しゃ~ね~大将! 肉捌くのは手伝ってやんよ!」
「ありがて~ほれ後ろで捌け」
1羽、2羽と次々と首なしの【スカウトバード】が舞い強面の肉屋に居そうないでたちのエプロン姿の男へと投げられる。
「骨は家で貰っていいかい?」
「1羽分は使うからそれ以外なら構わんぞ!」
「分かった!」
おじさんは串焼きを焼きながら答え強面の男は屋台の裏へと消えて行く。
「ほら120エン! 1本くれ!」
「あいよ!」
次々と焼かれ串焼きが売れて行く。手に入れた者たちは早速串焼きにありつき幸せに肉を頬張る。全員に渡るのには渡した【スカウトバード】の肉だけでは足りず、周囲の人たちに催促されアスカは追加で首なしの【スカウトバード】を串焼き屋のおじさんへと渡すことになったのだがアスカ本人はそれを気にした様子はなかったのである。
「いや~久しぶりに焼いた焼いた!」
「俺はもう腕が上がらん! 大分なまってたようだわ!」
空は赤みを帯び夕方に差し掛かっていた。そんな中自分達ようの串焼きを頬張りながら歓談している。
「あんちゃん悪いなあんなに肉提供してもらって」
「ああ、今買えば幾らになるか・・・」
2人は急に考え込みだす。
「でしたらあのたれを分けて頂けませんか?」
アスカは手毬サイズの焼き物の入れ物を取り出しそう告げる。
「そんなんで良いのか?」
「はい。調味料は貴重ですから」
「分かったちょっと待ってろ」
アスカから入れ物を受け取った串焼き屋のおじさんはいそいそと屋台の方へと行き入れ物へとたれを注ぎ込む。
「坊主本当に良いのか? あんな量の入れ物で?」
「ええ、あの方は毎日串焼きを提供しているんですよね?」
「ああ」
「であればあのたれにはそれだけの価値があると思いますよ?」
「おっ良いこと言うじゃね~かあんちゃん! ほれたれだ」
たれについてアスカが理解を示したことに串焼き屋のおじさんは気を良くして並々とたれの入った入れ物をアスカへと手渡す。強面の男もそれを理解しているのかと感心顔でアスカを見る。
「ありがとうございます。さてと宿とれたかな?」
アスカはお礼を言って立ち上がり不意に呟くと
「あちゃ~そいつは悪ぃ~ことしたな。今からって言うかここ最近は宿がお偉いさんで埋まってるからな」
「何処か広い空き地みたいな場所ってありませんか?」
串焼き屋のおじさんの言葉にアスカが訊ねる。
「だったらあたしらの孤児院の庭を使えば良いさ」
その声にアスカは振り返ると子供連れのシャルロットが居た。
「お兄ちゃんも家に来るなの? やった~なの!!!」
アイがはしゃぎ出す。
「勿論場所代はいただくがな」
「もう! シャルおねぇ~ちゃん!」
シャルロットの言葉にアイが怒り出す。
「仕方がないだろう? あたし等の稼ぎじゃこっちでも向うでもお金が無いんだから・・・」
「場所代は物納・・・食料で良いですか?」
言い争うシャルロットとアイにアスカが告げると子供たちが始め顔を見合わせ次第に笑顔へと変わり喜びだすのであった。




