001話
駿河の国、吉原宿
蒲原の城下の東に位置する宿場町である吉原宿は現在多くの人で溢れかえっていた。その理由は【陰陽連】の護衛団、【六文】の実働部隊に他ならない。シキノ救出に間に合ったカエデ率いる【六文】ではあったのだが、伊豆の国の韮山城が【葵】によって占領されたと報告を受け相模の国へ抜けることを諦め吉原宿へと戻って来ていたのである。
つい先日、蒲原城へと入ったイマガワ軍の軍師タイゲンによりイマガワ軍は引くかに見えたのだが・・・蒲原城を除くイマガワ領にある戦力は全て敵対行動を見せ相模の国への関所も封鎖されてしまっていたのである。ことここに至ってはシキノ達【陰陽連】の人員の怪我や疲れを癒すために引き返したと言う経緯がある。
すぐにタイゲンはシキノの泊まる宿へと顔を見せ謝罪するのだが、そこでタイゲンに【管狐】が取り付いていることが判明し、騒動となるもシキノの【陰陽術】によりそれが取り除かれる。そこでシキノ達【陰陽連】の術士達が協力し護符を作成。タイゲンへと渡され蒲原城の城主など主だった幹部に付いていた【管狐】を取り除くのであった。
こう言った経緯で西からのイマガワ軍は抑えることに成功したのだが・・・
「【葵】は何を考えているんだ」
シキノや護衛隊の隊長と言った面々の前でカエデは声を荒げる。
「・・・ズズズ・・・落ち着かぬか。うるさ~てかなわぬのう」
湯呑を持ち上げ入っていたお茶を啜りシキノが注意する。
「悪い。だがこのままでは・・・」
顔を歪めるカエデにシキノは再び口を開く。
「マサカド公の完全復活まではまだ日が有る」
「それは本当ですか!」
シキノの言葉にカエデが希望に満ちた顔を向ける。
「うむ。まぁ後一月と言ったところじゃのう」
「それよりもシキノ様! ご飯! 食事が足りません! 我々は愚か民たちはもっと食料に困っていると聞きました!」
イッキュウが声を荒げ食糧不足を訴える。
「それてゃ仕方があるまいて、ヨシトモ殿が尾張攻めで徴収した用じゃからのう」
「いえ! それだけではありません! 北の甲斐へと続く街道にも盗賊が現れ物流がどまってるんですよ!」
更にイッキュウは盗賊が出現したことで物流が止まり今や蒲原城、吉原宿共に兵糧攻めでも受けているようであった。
「・・・兵糧攻めか?」
再び口を開いたカエデの言葉にシキノ以外の者たちの瞳が見開かれる。
「・・・ズズズ・・・兵糧攻めとな? 言い得て妙だが当たりやもしれぬのう」
「だが、今の戦力だけでは不可能だ」
護衛隊の隊長である男が意見を述べる。そう彼が言う様に今現在の戦力だけでは蒲原城と吉原宿を守るだけで精一杯であり、北の街道に出没する盗賊退治に戦力を割く訳にはいかなかったのである。
「だがこのままではいずれ兵糧が尽き、いずれ我々は破れることとなるぞ?」
カエデの意見はもっともである。だがそこへ【六文】のメンバーの女性が駆け込んできた。
「カエデさん! ユキナさんから連絡が有りました!」
「ユキナは何て?」
女性は呼吸を整え
「シズネさんと連絡が取れシズネさんが預かるタケダ軍500をこちらへと派遣してくれるそうです!」
「兵糧は?」
「勿論こちらが兵糧攻めにあっていることも予測し通常の倍近い量を運んでいるとのことでした」
「やった~これでご飯の問題は解決ですね。それでいつ到着予定ですか?」
飛び上がるかの様に両手を上げイッキュウは喜び到着予定を聞く。
「先遣隊が早ければ明日中に、本体はその2~3日後とのことでした」
「うむ、それならどうにかなるであろうが・・・結界師か噂の【神楽舞の神子】とかいう者が来てくれんかのう」
今この吉原宿はシキノが張った結界により【管狐】の侵入を拒んでいるのだが、この状態ではシキノがここから動くことが出来ず、完全復活まで一月あるとはいえどの場所で復活するのか分からない状態では対応に遅れる可能性があったのである。
「あっその方なら先遣隊と共に既にこちらへと向かっているようですよ?」
「何っ!? それは真か?」
「あっはい」
あまりのカエデの喜びように女性は気おされる。
「知り合いかのう?」
「ええ、以前師匠・・・シズネさんの下で何度か」
その言葉にシキノは疑問に思う。ただの知り合いにこれほど喜びを表すだろうかと・・・シキノの頬が緩み
「その者とは恋中なのじゃな?」
「「「ぶふっ!!」」」
「なっなっ何を言っているんだシキノちゃん? 私がアスカ君と恋中だって? そっそんな・・・」
他の者たちがお茶を噴出し驚くのに対し、カエデは頬を両手で押さえ、顔を赤らめくねくねと身じろいでいた。
「なんじゃつまらぬ。片思いかのう・・・ズズズ・・・」
カエデの動きを気配で捕らえシキノは詰まらなそうにお茶を啜る。
一方その頃、現実世界での引っ越しが終り、再び【OWL】の世界へと訪れた子供たちが居た・・・金色の髪を靡かせる女性シャルロットを中心とした一団である。彼女たちは元の場所【江戸】ではなく、ここ吉原宿に管理人付きの孤児院を与えられ経過観察や勉強を施されていた。
「シャルおねぇ~ちゃん。あたしお腹がすいたよ~」
1人の少女がお腹を押さえ上目づかいでシャルロットのスカートのすそを引っ張るとそれに続くように小さい少年少女たち5人が声を上げる。
「じょ~がないな~」
シャルロットは頬をかきながら周囲を見渡し良い匂いのする串焼きの屋台を発見しそこへと向かう。
「1人1本だけだぞ?」
「うん! ありがとうシャルおねぇ~ちゃん!」
「全員で幾ら・・・はぁ~お前たちも食っていいぞ」
小さい子達を羨ましそうに見るシンたち年長組を見てシャルロットは呆れながらも食べる許可を与える。
「やった~!!」
嬉しそうに屋台のおじさんから焼き鳥? を受け取る。
「全部で・・・12本だ。いくらになる?」
「1本250エンだから・・・」
「3,000エンか・・・高くないか?」
即座に暗算で計算したシャルロットがおじさんに高いと告げる。
「まぁ~そう思うかもしれんが、こっちも商売なんでな。物流が滞っちまって仕入れ値が倍近くに跳ね上がっちまったんでな」
「そうか・・・じゃあしゃあね~か・・・はい。3,000エン」
「おう、こいつはあんたの分だ」
お金を受け取りシャルロットの分を手渡すと後ろから声が聞こえてくる。
「ガキが串焼きなんか食ってんじゃね~よ! 俺によこせ!」
「ああ゛~あたしの串焼き~~~!!! 返してよ! 返して!」
少女が串焼きをガラの悪そうな男に奪われる」
「うっせ~! 誰のおかげでここで暮らせていると思っているんだ! 俺たち警備兵のお蔭だろうが!」
「きゃっ!」
男により少女が突き飛ばされ馬車の前へと飛ばされた。
「アイ!」
シャルロットは咄嗟に掛けるが距離的に考え間に合いそうもない。すると馬車の業者台に居た少女のような少年が飛び降り少女を抱きかかえ横へと転がる。
シャルロットは慌てて駆け寄ると少年は少女の汚れを払い頭をなでながら
「危なかったね。気を付けなきゃだめだよ?」
「えぐっ! えぐっ! アイ悪くないもん。アイ悪くないもん」
少女の言葉に疑問に思ったのか少年は更に優しく微笑み
「そうか・・・アイちゃんは悪くないのか」
「うん。あのね。あのね。アイのお肉をあのおじちゃんが取ったの。それでねアイが返してってお願いしたら邪魔だって突き飛ばしたの」
「そうか。怖かったね? 良し良し」
一頻り撫で少女が落ち着くと少年は立ち上がり串焼きを奪った男を見据え
「なんでこんな小さな子から食べ物を奪うんですか?」
少年の言葉に周囲の者たちはこれから喧嘩でも始まるんじゃないかと距離を開けるのであった。
 




