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オールド・タイム・ワールド・リンク(仮)  作者: あおい聖
【富士の山道】
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015話

 桶狭間、朝方から降り始めた雨にイマガワ軍は身動きが出来ない状態となっていた。孤立したイマガワ軍本体は青ざめることとなる。先方として動いていたはずのマツダイラ軍、更にはオダ軍、【天下不武】軍と周囲を囲まれていたのである。更にイマガワ軍の陣地で混乱の声が上がる。



「何だこの槍は! 刃引きがなされているではないか!」



「【種子島】へ込める火薬が小麦粉に変わっています!」



「昨夜までいた馬が何処にも見当たりません!」



 次々と上がるこれらの出来事は【伊賀忍軍】の暗躍によるものであった。



「ヨシトモ様! ご決断を!」



 武将の1人が大将であるヨシトモに決断を迫る。降伏か討ち死にかと・・・



「タマヅサは何処に居る? タマヅサや?」



 今までその傍に侍られていた女性の名を呼び辺りを彷徨う。



「くっ! もはやこれまでか・・・御免!」



 タマヅサの呪縛から逃れていた武将は顔を歪めながら刀を抜き放ち主君であるヨシトモを切り捨てる。



「ぐはっ!・・・!? 何じゃこれは・・・」



 斬られたヨシトモは自身の血の温かさで正気に戻る。



「何故・・・よは斬られておるのじゃ・・・」



「申し訳ございませぬ。全ては妖狐タマヅサと気が付かづにヨシトモ様に合わせた私の責」



「タマヅサ・・・そうじゃ・・・よは、よは・・・口惜しや・・・この恨みはらさずおくべきや・・・」



 ヨシトモは恨みを口にしその場で崩れ落ちた。



「申し訳ございませぬ。しかし主君1人では行かせませぬ」



 武将は鎧を脱ぎ捨て上着をはだけさせるとヨシトモを斬った刀の刃を持ち自身の腹へと突き立てる。



「ヨシトモ様・・・あの世でお詫び・・・申し上げ・・・まする」



 程なくしてイマガワ軍は白旗を掲げ降伏するのであった。






 桶狭間、オダ本陣



「そうか、側近の手にかかりヨシトモは逝ったか・・・それでタマヅサは何処に?」



「本陣内隈なく探しましたがどこにも見当たりませぬ!」



「マツダイラ軍、【伊賀忍軍】にも伝えよ! 妖狐タマヅサは決して逃がしてはならぬぞ!」



 オダ軍、マツダイラ軍、【天下不武】に【伊賀忍軍】が必死で探したが一つの痕跡もなく足取りがつかめない状態となっていた。






 黄泉の国、転移門


「相も変わらずここは辛気臭いですね」



 少しはだけた着物に身を包んだ狐耳が頭からのぞかせた髪の長い女性が呟く。



「それもいましばらくの間じゃ」



 女性・・・妖狐タマヅサにドウマが声を掛ける。



「あら? ドウマ様。タマヅサただいま戻りましてございます」



 ドウマへとタマヅサは傅き挨拶を述べる。



「して首尾の方はどうじゃな?」



 タマヅサは胸元から瓢箪を取り出し



「恨みに染まりしヨシトモの魂はここに」



 ドウマは瓢箪の中身まで見通すかの如く鋭い視線で見つめる。



「フォフォフォフォ、上場、上場じゃな」



「はい。ウフフフ」



「次は器を用意せねばならんか・・・」



「【時間旅行者】の身体は使えないのですか?」



 ドウマの方眉が吊り上がる。



「フォフォフォフォ、その手があったか」



「はい~」



 黄泉の国の住人は感情に乏しいのだがその二人の光景に恐れをなし近づこうとはせなかった。






 駿河の国、駿府


 坊主頭の僧侶タイゲンはその知らせに瞳を見開き驚いていた。【ヨシトモ桶狭間にて死す】


 この方に駿府城で留守を仰せつかっていたタイゲンは混乱していた。いや混乱していたのは昨夜からである。



 なぜヨシトモ様は出陣を? オダ、マツダイラ両領主とは話が付いていたはず・・・あっいや拙僧も賛成した・・・いや何故賛成をしたのだ?



 マサカド公に対するために軍を準備していたイマガワ軍であったのだが、突如として派遣しようとした陰陽部隊との連絡が取れずその行方を追っていたはずなのである。


 タイゲンを含め多くの家臣たちが正気に戻った昨夜、うっすらと残る記憶を頼りに事態を把握しようとしていたその矢先・・・主君ヨシトモの死が伝えられたのである。



「くっ! せっかく纏っておったイマガワ家も再び家督騒動に陥るやもしれぬ・・・はっ!? そんな事よりシキノ様が危ない!」



 タイゲンは慌てて駆けだす。彼の記憶の片隅に【陰陽連】の盟主たるシキノ討伐を兵に命じた記憶があったからである。



「間におうてくれ! これ以上他国と事を起こしては・・・」






 富士南方、吉原宿を抜けた先を行くシキノ一行の駕籠へイマガワ軍の騎馬隊が迫る。



「シキノ様! シキノ様! 大変です! 大変!」



「またイッキュウは騒がしいのう」



 駕籠の中からシキノが小窓を開け顔を見せる。



「イマガワ軍です! イマガワ軍!」



「イマガワ軍がどうしたのじゃ?」



「当方へ攻撃してきているんですってば!」



 シキノはすぐさま考え思考を巡らす。



 イマガワ軍の陰陽部隊の失踪・・・【封印殿】の封印解除・・・更には妖狐タマヅサの復活か・・・!? 復活!



「いかん! イッキュウ! イマガワ軍は操られておる! 交戦は最小限に居たすのじゃ! 決して殺してはなれぬぞ!」



 シキノにしては珍しく慌てたような声でイッキュウに叫んだ。



「ええ~~!! 無理ですよ~~~!!! こちらの方が数が少ないんですから!」



 イマガワ軍はこちらを殺しに来て、【陰陽連】は殺さない様に気を付けながら戦う・・・更に数でも劣ると来ては・・・



「駕籠の者! シキノ様を連れ東へと逃げよ! ここはこのイッキュウがっ!」



 そんなイッキュウを護衛隊の隊長がヒョイッと掴み上げ



「退くのは構わんが・・・小僧貴様も逃げる方だ」



「たっ隊長殿?」



 暴れるイッキュウを降ろし



「煩くて俺の指示が通らね~」



「つまりどういうことですか?」



 隊長は頭を押さえ



「邪魔だって言ってんだよ。3番隊はそのまま護衛! 1番、2番隊は俺と共に迎撃! 4番隊は先行! 5番隊は俺たちと3番隊の間を! 行け!」



「「「はっ!」」」



 指示に従いそれぞれ動き出す。



「ご武運を!」



「おう! 嬢ちゃんもなっ!」



 シキノの言葉に隊長は返事を返し



「俺に続け! 突撃!!!」



 雄たけびを上げ隊長を先頭に2つの部隊がイマガワ軍へと突っ込む。


 駕籠の中でシキノは両手を組み必死で祈りを上げる。



 決して無理せず死なないでください






 だが、そんなシキノ達の前にイマガワ軍が待ち構えていた。



「そんな~~~」



 イッキュウの叫び声が木霊する。すると更に後方から土煙が上がり騎馬と思しき影が駆けてくる。



「挟み撃ち!? 隊長殿ぉぉぉぉ!!!」



「煩いぞ小僧!! こっちは味方だ!」



 イッキュウの叫びに隊長が怒鳴り返した。涙目で良く見ると後方から来る騎馬が掲げているのは六文銭の御旗



「サッサナダ軍!?」



「いえ、恐らく【六文】でありましょう」



 先頭をカエデが駆ける。



「【六文】突撃! イマガワ軍を蹴散らせ!」



 隊長たち護衛軍がシキノの駕籠を囲み守り、その周囲を【六文】の騎馬隊が回るように小隊ごと絶え間ない突撃を繰り返す。



「退けぇっ! 退け!」



 絶え間ない突撃に押し込まれたイマガワ軍は後退を始めた。



「深追いはするな! 周辺警戒は密に!」



 カエデは深追いを禁止し周辺警戒を命じる。



「助かりましたカエデ殿」



 駕籠を降り外へと降りてきたシキノの手には白いつえが握られている。



「シキノちゃん!」



 そんなシキノをカエデは勢いよく抱きしめる。



「あっあのカエデさん。離してくださいまし」



「や~よ。シキノちゃんが無事だったんだもの」



「カエデ殿! うらやま・・・じゃない! シキノ様がお困りです! お離しになってください!」



 カエデをシキノから引きはがそうとイッキュウが近づくとカエデの瞳がきらりと光り輝く。



「隙あり! イッキュウちゃんも頑張ったね~」



 シキノの代わりとばかり今度はイッキュウがカエデに抱きしめられるのであった。

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