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オールド・タイム・ワールド・リンク(仮)  作者: あおい聖
【富士の山道】
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013話

 その声は直接頭の中へと響いて来た。



『少年よ鎮魂術は使えるか?』



 鎮魂術・・・鎮魂の舞でいいのかな?



 【聖竜王】の口端が少し吊り上がるのが見て取れる。



『死者を弔うための舞か・・・それで構わぬこの者たちを弔ってやってはくれまいか?』



 【聖竜王】の視線の先には光り輝く竜の亡骸が浮いていた。



「それは構わないのですが・・・」



 アスカは了承を口にしながら自身の身体を見回し言いよどむ。



『ふむ、随分と無茶をしたようだな。どれ・・・』



 【聖竜王】が大きく息を吸い込みアスカへと息を吹きかける。するとどうだろう、アスカの身体から痛みなどが退いて行く。



『どうだ? 我【生命の息吹】で傷は治っておるはずだが』



 アスカは自身の身体を動かし違和感が無いことを確認する。



『では弔いを頼む』



 アスカは頷きミスリルの小太刀を鞘へと仕舞うと装備欄から別の装備へと変える。するとアスカの来ていた狩衣が白を基調とし薄い青みがかった縁取りをされた儀式用の狩衣へと変わり、その頭には白い烏帽子も確認できる。アスカは懐から1対の奥義を取り出し



「ではそちらへ2人を安置してください」



 【オリハルコン・ゴーレム】の頭部を指しアスカは【聖竜王】へと指示を出す。【聖竜王】はその指示に従い2体の竜を安置する。



「それでは僭越ながら綺羅飛鳥が鎮魂の舞を躍らせて頂きます」



 ぱさっと扇が開かれアスカはゆっくりと舞い始める。時には扇を閉じ鋭く、時には扇を開き優雅に・・・



『おおこれは・・・』



 【オリハルコン・ゴーレム】の背を舞舞台と見立て舞を踊るアスカに康応するかのように聖なる波動が辺りを包み込む。



『綺麗だね』



『一緒に踊る? 踊る?』



『歌が必要だよ歌が』



『みんなで踊ろう? 歌おう?』



 可愛らしい人形のような存在が現れ各々横笛や鼓などを取り出しアスカの舞に対し音を重ねだす。



『・・・精霊の祝福か・・・』



 そう【聖竜王】が呟いた様に彼らは精霊と呼ばれる存在である。その音とアスカの舞が合わさり更に周囲の空気が神聖びを帯びて行く。するとどうだろうか、2体の竜から足の透けた人型の男性が現れる。



『我が君、不甲斐無い我らをお許しください』



『聖竜族の誇りを傷つけてしまい申し訳ありません』



 2人の男性は【聖竜王】に向かって深々と頭を下げた。



『良い。ヌシらのお蔭で我が娘セイラは無事だ。しかと責務を果たしておる』



 2人は頭を下げたまま大粒の涙がこぼれ落ちる。



『勿体なきお言葉』



 【聖竜王】は2人に事のあらましを聞く。


 セイラは珍しいものに興味を示す普通の幼い子供であり、この時期には珍しい蝶が舞っていたことでそれを追い掛け黒ずくめの者達に捕まってしまったこと。


 それを彼等2人が気づき見事逃がすことに成功するも今度は2人が捕らえられ闇の護符の力により意識を乗っ取られたこと。


 薄れる意識の中で【オリハルコン・ゴーレム】へと向かわされ戦いを挑んでいる最中に聞き覚えのある声と気配を感じ最後の力を振り絞ってその者・・・タケルへと挑んだこと。


 2人が選んだのは操られる人生ではなく、強者であるタケルによる介錯を選んだと言う物であった。



『我の落ち度であろう。あのような【アシヤ】の者の接近に気が付かぬとは・・・』



『それは違います我が君! マサカドの封印が解かれここ関東周辺には瘴気が満ちています』



『奴らはそれを利用し我らの聖域まで近づいて来ていたのです。我らがもっと周辺を警戒していれば・・・』



「過ぎたことをあれこれ言ってもせん無き事じゃぞ?」



 【聖竜王】達の視線がいつの間にか来ていたタケルへと注がれる。



『ヌシにも世話を掛けたな』



「フンッそれは儂に出は無くあやつに言ってやれ」



 タケルは顎でアスカを指し告げる。



『無論そのつもりだ・・・だがそれにしても素晴らしい舞だな』



「当たり前じゃ。シズネが教えておるのじゃぞ?」



『それもそうだな。ヌシに似ずによかったと言うべきか・・・』



「何を言っておる。コレを倒した技は儂が教えたものじゃぞ?」



『・・・子供に何を教えておるのだ。我が直さねば暫く動けんところだったぞ?』



 呆れた声がタケルの頭に響く



「未熟・・・ではないか、成長しきっとらんからなアスカは・・・」



 何処か後悔の念を含み呟く。



『・・・我の加護を与えたから少しは軽減するであろうが・・・』



「分かっておる。なるべく使わせんように気を配れと言うんじゃろ?」



 【聖竜王】は頷く。



『分かっているのならば良い』



 その話を聞いていた2人は顔を見合わせ頷き合い。



『我が君、それにつきましては我らをお使いください』



『我らに任せろとはどういうことだライ、ヒョウ?』



 【聖竜王】は再び足の透けた2人を見下ろす。



『はっ我らの核と牙をそこな人形の・・・腕で良いでしょう。それを合わせかの者に武器としてお与えください』



 【聖竜王】は瞳を閉じ考え込む。



 武具との融合・・・出来んことは無いが・・・なるほど核を用いることで新たな肉体を得ようと言うのだな



『良いのか? 竜族として新たな生を受けることは無いが?』



『構いません! それに自分を倒したのみならず、このような舞にて送っていただけるなど・・・』



 【聖竜王】は2人を見据える。



『あい分かった。好きにするが良い』



 2人は深々と頭を下げる。



『我が君、それではお願いいたします』



 【聖竜王】はタケルへと視線を移す。



『あの者の武器は小太刀で良かったか?』



「うむ、2振りの小太刀じゃ」



『2刀流と言う訳か・・・ふむ』



 再び2人へと顔を向けると2人は無言で頷いた。すると【聖竜王】の瞳が輝きを放ち2体の竜から宝石のような核が抜き取られ、更にその口にある八重歯に当たるであろう鋭い牙がそれぞれから抜かれる。次に【聖竜王】は周囲に落ちている【オリハルコン・ゴーレム】の2つの腕へと視線を向けると浮き上がり【聖竜王】の目の前にそれらが集まる。



『これを行えば・・・覚悟は良いようだな』



 眩いばかりの光に辺りは包まれる。まるで小さな太陽がそこに現れたかのように・・・



『まぶしい?』



『まぶしいね』



『遊ぶ?』



『一緒に協力する?』



 その光の周りを新たに現れた精霊たちが飛び回る。次の瞬間更に虹色の光を放ち光が収束していく・・・完全に光が消えるとそこには白い鞘に包まれた長い長刀が現れる。



「何じゃ、失敗しおったのか? 長刀になっとるぞ」



『・・・ふ~問題ない。精霊たちが余計なものを加えるから危なかったが・・・1つの鞘に収まっているが、ちゃんとした小太刀だ』



 シャン! シャン! 鈴の音が聞こえゆっくりとアスカが2体の亡骸にお辞儀をする。



「これにて鎮魂の舞終了となります」



『うむ、見事な舞であった。これはそなたへの褒美だ』



 アスカの前へと白い小太刀が送られる。



「え~と・・・」



 アスカは受け取っていいものかと祖父であるタケルへと視線を送る。



「貰っておけ、ヌシが舞った舞にそこな竜たちがそうしてくれとこの【聖竜王】に頼んだのじゃ」



 アスカの瞳は驚きのあまりに見開かれ



『なに、気にすることは無い。しかしもっと自身を大切にするが良い。無茶をしすぎだ』



 アスカは身に覚えがあるために少し落ち込む。



『その2刀の小太刀はそんなヌシの為にこやつらが望んだことだ』



 アスカは恐る恐る小太刀を握る。



 長刀? でも小太刀だと・・・



 アスカは隅々まで小太刀を触り柄の反対側も同じように装飾がされていることに気が付く。アスカが両の柄を掴んだことで小太刀は光り輝き刀身が現れる。そしていつの間にか鞘はアスカの背に装備されていた。

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