011話
富士の山道
アスカは出現する【ミスリル・ゴーレム】を切り捨てさらに前へと出る。
「おい坊主! 前に出すぎだ!」
更にもう1体切り捨て振り向き
「いえ、あのでかいのの背後に回ります」
「は? そんなんじゃお前の爺さんの邪魔になるだろ?」
トウショウサイの言葉に答えようと口を開いたアスカへと落石となった【ミスリル・ゴーレム】が襲い掛かる。
「くっ! はぁぁ!!」
小太刀二刀による連撃により十字に切り裂く。
「こちらに居る方がお爺様の戦いの邪魔になります」
さらに前へと出るアスカに疑問を抱きつつもトウショウサイはその後ろを追従する。
「何を「「「ぎゃぁぁぁ!!!」」」」
トウショウサイが再度アスカへと確認の言葉を掛けようとした時に背後から複数の断末魔の叫びが聞こえてくる。何事かとトウショウサイは視線を後ろへと移すとタケルと黒ずくめの何者かが相対し、黒ずくめの周囲に血しぶきが上がっていた。
「先ほどの竜を使役していた奴らでしょう」
アスカの声にトウショウサイは再び前を向き
「ちげ~ねぇ。こいつは本当にあのデカ物を盾にした方が良い見て~だな」
そんなアスカ達へとデカ物・・・【オリハルコン・ゴーレム】から拳が振り下ろされる。
「トウショウサイさんはそのまま駆け抜けてください」
トウショウサイが返事をする前にアスカは【空歩】を使い駆けあがった。
「ちぃっ! どうにでもなれぇぇぇ!!」
トウショウサイへと振り下ろされた拳は途中で軌道を変えた。いやアスカに肩口から切り捨てられ勢い余って方向を変えたのである。アスカ達はその隙に【オリハルコン・ゴーレム】の背後へと回り込むことに成功する。
「坊主これからどうするんだ?」
「リミッターを1つ外します。トウショウサイさんはその辺の頑丈な岩陰にでも隠れていてください」
アスカは岩が積み重なり固定された場所を指さしそう告げる。
「リミッターって坊主お前!」
タケルを知るトウショウサイはそのリミッターが何かを悟り声を上げると同時に岩陰へと駆けだした。
「さてと・・・天昇流刀法術覚醒技第一法・・・大切な誰かの為、大切な何かの為に僕はっ!」
【覚醒技一法】肉体の枷を外し普段数%の力を10%増しで使用する自己催眠。
普段からも人のそれを大きく上回る身体能力を発揮できるアスカではあったのだがそれでもその動きは人の目でとらえる速さであったのだが・・・【神速】そう呼ぶにふさわしい速度でアスカが動き始めたのである。こうなってはレベル差などほぼ無いに等しく、トウショウサイではその速さについて行けず足手まといになることは明白であった。
岩陰へと滑り込んだトウショウサイはその陰から戦いを覗き込む。
背後へと回ったアスカ達へとまず反応したのは【オリハルコン・ゴーレム】の周囲に居た【ミスリル・ゴーレム】達である。次々とその巨体を砲弾としてアスカへと襲い掛かるがことごとく躱され、地面へと激突するといつの間に斬られていたのか衝撃で割れる・・・
久しぶりに使ったけど・・・まだまだ・・・だね・・・一気に決めないと身体が持たないか・・・
アスカは身体中が軋みを上げ全身に痛みが走り出すのを感じ短期決戦へと持ち込もうと駆けまわる。
【オリハルコン・ゴーレム】はアスカの速度について行けず、残った腕を振るった瞬間に右足が崩れ倒れ込む。アスカに足を斬られたのである。そうと分かり怪しく光る瞳を足元へと向けるが最早そこにはアスカは居ない。次の瞬間倒れまいと残った腕で支えていた身体が地面へと崩れ落ちる。【オリハルコン・ゴーレム】は立ち上がろうと残っていたはずの腕へと力を籠めるが、最早そこには腕は無かった。事ここに至って【オリハルコン・ゴーレム】は悟る・・・最高の硬度を持つ自分をいともたやすく切り裂き、更には索敵能力を超え感知できない速さで切り裂きまわる一種の化け物を相手にしていると・・・薄れゆく思考の中【オリハルコン・ゴーレム】はそう結論付けるのであった。
「ふ~何とか【神聖術】を纏うことで間に合ったけど・・・もう動けない」
アスカは【オリハルコン・ゴーレム】の背でミスリルの小太刀を突き立て、その突き立てた小太刀を支えにするかのように掴んだままその場で座り込んだ。覚醒技を使った反動か全身が軋みを上げていたのである。
「どうじゃ? あの程度は儂がおらんでもなんとかなったじゃろ?」
タケルの周囲には無数の魔物の死骸が並ぶ。
「くっ! タケダの【剣鬼】と同等の実力を持つ者が他に居るとは・・・」
黒ずくめの者は悲痛な声色で呟く。
「アレくらいで良ければ【新選組】とかいうとこに居る儂の弟子も使えるわい」
黒ずくめの者は驚愕の表情を見せる。なぜならば自身のすぐ隣からタケルの声が聞こえてきたからに他ならなかったのである。黒ずくめの者はゆっくりと顔をその声のする方へと向ける。そこにはタケルが肌が触れ合いそうなほど近くに居た。
「なっ!? いつの・・・ま・・・」
言葉を紡ぐ黒ずくめの者は次第に自身の身体が後ろへと倒れ込んでいることに気が付く。ドサリ
黒ずくめの者は腹の中からこみ上げ口の中に広がる血の味に視線を自身の胸へと向ける。するとそこから止めどと無く噴き上がる血しぶきを目の辺りにして意識を失うのであった。
「しもうた! 生かしておいて色々と問いただすのじゃったわ!」
刀に付いた血のりをふき取りタケルは不意に叫び声を上げた。すると上空よりバサバサと翼をはためかせる音がタケルへと近づいてくる。
『相変わらず何処か抜けておるな貴様は』
「フンッあのような者たちに操られおって【聖竜】の名が聞いてあきれるわ」
タケルは刀を鞘へと仕舞いその場に座ると空を見上げた。
『我が娘が囚われてしまったのでな・・・2人には済まぬことをしたと思っている』
白銀に輝く大きな竜は死に絶えた竜の亡骸へと首を向けた。
「儂らには何もいうことないんかい」
白銀の竜は再びタケルへと首を向ける。
『最後は戦士として死ねたようだな・・・それに関しては礼を言おう』
「フンッ首を飛ばした方は儂じゃない。あそこの上で座り込んでおるわ」
白銀の竜は【オリハルコン・ゴーレム】の上で今だに動かないアスカの姿を捉える。
『ほぅかなり若いな・・・それにこれは!?・・・』
「若いのは当たり前じゃ! 儂の孫じゃからな」
タケルは口端を釣り上げ自慢するかのように口にする。
『何っ!? ヌシの孫だと?・・・いやあの娘の孫でもあるのか・・・それならば納得すると言う物だ』
「喧嘩売っとるのか【聖竜王】よ」
『ふむ、それも良いがそれは後だな・・・この者たちをと貰ってやらねばならぬからな』
「そいつらは儂らが倒したのじゃぞ? 素材を奪っていく気か?」
タケルは刀の柄へと手を添える。
『あの者は鎮魂術は使えるか?』
【聖竜王】の指すあのものとはその視線からアスカと見て取れる。
「本人に聞いてみい。そこまで儂は知らんわ」
『それもそうだな』
再び飛び上がる【聖竜王】に続くかの如く光に包まれた竜2体が浮き上がる。
「なっ!? やはり奪っていく気ではないか!」
慌ててタケルは【聖竜王】の後を追い駆けだした。
疲れ果て座り込んでいるアスカの周りが不意に影が降りる。アスカはゆっくりとその視線を空へと向け瞳を見開いた。
冗談でしょ? 見るからに上位種だよね。多分コレより上の存在だね・・・
アスカは小太刀を支えにヨロヨロと立ち上がり空を見上げるのであった。




