009話
一夜明けた富士の山道
3人の人影が山道を上って行く・・・アスカ、タケル、トウショウサイの3人である。シズネと共にカリナとシズカ、護衛のタケダ兵2名は小御岳神社を目指し別行動をとっていた。
「ふぅ~ここまで1匹の魔物にすら合わんとは・・・」
「当たり前じゃわい。昨日の残骸看取らんのか? 魔銀が混ざっておったであろう」
タケルの言葉通り襲撃の最後の方では【ミスリル・ゴーレム】が混ざっていたのである。
「それくらい見ておるわ!」
「だったらもうちと落ち着かんか」
そんな2人のやり取りをアスカは見てため息を漏らす。
いつも止めるはずのお婆様が居ないとこうなるのか・・・
「ん? どうした。もう疲れておるのか? もう少しすれば例のアレがおる六合目じゃからのう」
タケルはアスカの様子を見てトウショウサイへと視線を移す
「まっここらで一休みして一気に倒すことにすればいいんじゃね~か?」
「ふんっ貴様と話が合うとは雨でも降らねば良いが・・・」
再び睨み合う2人の前にアスカはアイテムボックスから2つの湯呑に水筒のお茶を注ぎ前に出す。
「うむ、ご苦労」
「わりいな坊主」
2人は湯呑を受け取ると近くにあった岩へと腰を降ろし、自分達のアイテムポーチから笹の葉にくるまれた握り飯を取り出し食べだす。
アスカは少し離れた場所へと腰を降ろしお弁当を取り出し食べ始めた。
一気にと言う事はもうすぐ【オリハルコン・ゴーレム】の索敵範囲内へと入ると言う事だよね。まずは僕とトウショウサイさんで取り巻きとなっている【ミスリル・ゴーレム】を相手に引き付ける。引き付けたのちにお爺様が【オリハルコン・ゴーレム】と戦闘を開始し、【ミスリル・ゴーレム】を倒したのちに僕たちもその戦いに加わる・・・後は・・・一定周期で現れる【ミスリル・ゴーレム】の対処も僕たちでやらないと・・・
この後の展開をアスカは頭の中でシミュレーションを行い気を引き締める。
すると六合目より先を見据えていたタケルが呟いた
「これは・・・いつもより大変やもしれんな・・・」
「あん? それはどういうことだ?」
タケルの呟きが聞こえたトウショウサイが訊ね、タケルが見ているだろう方向へと顔を向けおにぎりを落としそうになる。
「っとあぶね~」
慌てて口へと1口で含みもぐもぐと何かを喋っている。
「汚いのう? ちゃんと食べてから喋らぬか」
「んぐり。それよりあそこで飛んでんのって・・・」
「竜じゃな」
【竜】ドラゴンと呼ばれる架空の生物。飛んでいることからも飛竜又は風竜と言ったとこであろうか・・・
「いつもと違うパターンか・・・」
タケルの口端が吊り上がる。
「貴様は良いかもしれんが俺や坊主はたまったもんじゃないぞ?」
タケルは顔をトウショウサイへと向ける。
「ヌシとアスカを一緒にする出ないわ」
「ああ゛ん? 坊主でも無理だろうが!」
アスカもトウショウサイの意見に賛成とばかり頷く。
「【気】と【魔力】は似て非なる物」
タケルはヒントとばかりにアスカに向け告げる。
【気】闘気とも呼ばれる物だよね・・・つまりは【魔力】も同じように扱うと言う事だけど・・・!? あっそうか! 水に【神聖術】を込めたやり方と同じ・・・それに闘気を身に纏う術・・・ん? 同時に操れれば威力が上がるのかな?
アスカは近くにあった小石を手に取り握り込む。
まずは闘気だけで・・・
すると手に握られた小石にひびが入り割れる。割れた小石を捨て別の小石を手に取る。
次に闘気と神聖術を・・・
今度は小石が粉々に砕け散る。
良し! これで攻撃の面はクリアされたと言っていいかな・・・
アスカのこの行動にタケルは満面の笑みを浮かべ、トウショウサイは口を大きく開け顎が外れた様になっていた。
「流石儂の孫じゃ」
「・・・」
「そこまでできれば後は簡単じゃな。闘気で固い足場を一瞬ででも作れれば良い」
更にタケルがアドバイスを口にする。
つまり闘気で足場を作ればいいのかな?
食べ終えたお弁当を仕舞、アスカは今度は飛び跳ね始めた。
今の僕に闘気のみじゃ違和感が出る程度だね・・・ならこれも同じように!
すかさず同時で足場を作るイメージをし飛び上がる。トンッ!空中でもう一回飛び跳ねることに成功する。
「それが【空歩】じゃ。儂のとは違い光って見えるがのう」
地面へと着地したアスカはタケルへと顔を向け
「闘気のみでは足場として強度の問題が有ったので魔力も同時に込めました」
「なるほど青白い光は属性光であったか」
すると衝撃が一周し我に返ったトウショウサイが口を開く
「貴様らは簡単に言っておるが・・・もしや先ほど小石を砕いたのも?」
アスカは頷き
「はい。両方込めました」
「・・・!! そいつは【魔刃】と呼ばれる奥義中の奥義だ!!! 貴様らはそれを! それを! 簡単だと言わんばかりに!!」
アスカは何を言っているのか分からずに小首を傾げる。
「それに近い技術を幼い頃から叩きこんでおるわ」
タケルの言葉にアスカも頷く。トウショウサイは手に額をこすりつけ
「これだからリアルチート共は・・・」
「え~と、トウショウサイさんが鍛冶に優れているのと一緒ですよ?」
「まっそう言う事じゃな」
タケルに背中を叩かれトウショウサイは諦めを含んだため息を漏らす。
「はぁ~もういい・・・竜共がきたりゃ坊主たちに任せる。その分人形共は任せろ!」
その声に反応するかのように竜の鳴き声が鳴り響く
「ヌシが喚き散らすから・・・竜の方が先に来たではないか」
タケルは愚痴を漏らしながらも深く腰を降ろし抜刀の構えを取る。
「シッ!」
抜刀されしばらくすると1匹の竜が血を流しながら墜落する。それに起こったのかものすごい勢いでもう1匹の竜がタケルへと迫る。カチンッ!その音と共に竜の首が胴体から切り離される。その竜の背後にアスカが着地する。
「うむ、腕を上げたようじゃな」
「腕を上げたようじゃなニカッ! じゃないわ! 坊主は【天昇流刀法術】まで使えるのか!」
何を言っているんだと言う顔でタケルはトウショウサイを見て
「儂が教えておるんだから【天昇流刀法術】に決まっておるだろう」
「いや・・・舞をシズネさんに教わり、見よう見まねで刀を振るっているのとばかり・・・」
「はぁ~これじゃから・・・長くなりそうだから後にするか」
タケルは再び六合目を見据える。するとその方角から大きな黄金色に輝くゴーレムがゆっくりとこちらへ向かって歩いて来た。
「では、お爺様よろしくお願いします」
アスカは駆けだす。するとその行く手を遮るかのように地面から【ミスリル・ゴーレム】が飛び出す。
「はっ!」
一瞬で振るわれた斬撃により核を切り裂かれた【ミスリル・ゴーレム】はその場で崩れ落ちる。
「ほれ何をしておる。ヌシも行かぬか」
「ああ~もう分っているわ!!」
大きなミスリルのハンマーをその肩へと掛けアスカの後をトウショウサイが駆けて行く。
「で、ヌシたちはそのまま隠れておると森か?」
タケルが岩陰を睨み付け言葉を投げかける。
「ほぅ、流石は【剣鬼】と言われるタケル殿・・・」
影の中から黒ずくめの布を被った男が現れる。
「儂は『たち』と言ったんじゃがなっ!」
再びタケルが抜刀する。
「「「ぎゃぁぁぁ!!!」」」
「品の無い断末魔じゃな」
最初に出た黒ずくめ以外がその一撃で絶命する。
「大方竜をけしかけアレを倒したかったんじゃろうが・・・」
黒ずくめの者がタケルにつられるように【オリハルコン・ゴーレム】へと視線を移す。
「なっ!?」
黒ずくめの者が目にしたのは【オリハルコン・ゴーレム】の片腕が崩れ落ちるさまであった。




