006話
下総の国から江戸へと続く街道
「これは不味いですね。師匠といい勝負ですよ」
ダンダラ模様の羽織を羽織ったソウシが首なしの鎧武者を見据え呟く。
「ほぅ、ではあのように強いご人が【時間旅行者】の中に居るのか」
ダンダラ模様の羽織を羽織ったイチカが声を掛ける。
「ええ、身体能力から言えばアレの方が上でしょうが・・・技の冴えで同じようなことをしてきますから・・・」
「・・・それは本当に人間なのか?」
「人間誰しも己が身体にリミッターを設置しているそうですよ? そのリミッターを外すコツさえ掴めばって本人は言ってましたが・・・」
「なるほど人は本来の力の数%ほどしか使っていないと言われているからな」
納得した言葉を呟きつつイチカは心の中で呟く
やはり化け物とかそう言うたぐいじゃないか・・・
その視線は隣に並ぶソウシへと注がれる。
「・・・? 嫌ですよ。私はその1つ目くらいしか外せないですってば」
うん。やはり化け物だな。
「っとそんな事よりタケダ軍は引いたようだな」
「そうですね。彼等現地人は死に戻りなんかないですからね」
2人が話をしている最中も首なしの鎧武者は黒い馬体の足が透けている馬をゆっくりと江戸へと進めている。
「悪い。準備が整った」
背後から2人へと駆け寄り声を上げるのは如何にも屈強そうな筋肉質の鎧武者、【風林火山】ギルドマスターであるカツヨリであった。
「良いのかい? アレに勝てる見込みなどなかろうに・・・」
イチカはカツヨリへとその覚悟を試すかのように声を掛ける。
「勝てる勝てないではないのだが・・・【陰陽連】の盟主シキノ様が今駿河まで来ているそうだ」
「なんで【転移門】を使わないんです?」
カツヨリの言葉に疑問を持ったソウシが訊ねる。
「使わないのではなく、あるレベル以上のものは使え無いようなんだ」
「だが我々は・・・なるほど高レベルの現地人を対象にしていると言う事か」
時折首なしの鎧武者から放たれる矢を躱したり弾き返したりしながら会話を続ける。
「つまり、【死鬼】などに対応できる現地人を関東へ来させない為ですか・・・」
「そう言う事だ・・・良し」
カツヨリは左手を掲げ
「今だ! 撃て!」
カツヨリの号令の下周囲のくぼみなどに隠れていた者たちが一斉に姿を現し矢を放つ。
「矢などが・・・効くみたいだな」
イチカは効きやしないだろうと思い口を開くが、その予測とは裏腹に矢は首なしの鎧武者や足の透けた馬へと辺り苦痛なのか馬が暴れ出す。
「タケダ軍から【神聖水】って言う貴重なアイテムを貰ったんでな」
そう、彼らが放つ矢は【神聖水】に浸し濡れたままの矢を放っていたのである。濡れている為飛距離や精度に問題が有るのだが、それを補う様に雨の様に矢を放っているのである。
「へぇ~そんな便利なものがあったんですね」
「・・・便利といえば便利だが・・・くっやはりそれほどのダメージは入らないか・・・」
ダメージが入ったことでHPバーが表示されるが一行に減っている感じがしない。いや減って入るのだがそのわずかな量では視認できないと言ったようである。
「足止めくらいしかならない。君たちは急ぎ江戸へと向かい迎撃準備を!」
カツヨリの言葉に2人は頷き
「後は頼みます」
「我らでも倒せるか分からんが、出来るだけの事はする」
2人は踵を変えに鎧武者に背を向けるとものすごい勢いで駆けだす。
「前衛前へ! 後衛は次矢を準備! ここで多くの時間を稼ぐ!」
マサカド神社
辺りはホウジョウ軍に囲まれていた。そんな状況で社内では
「ツバサ! 囲まれちまってるぞ!」
「分かっている。タダトラからの連絡は?」
顔を向けられた女性は首を左右に振る。
「ちっ! あの野郎! 俺たちを見捨てやがったな!!」
ツバサはテーブルを強くたたく。そんな時外から悲鳴のような雄たけびのような声が聞こえ鉄と鉄が打ち合う音が聞こえてくる。
「援軍か?」
マサキは立ち上がり屋根の上へと上がると懐から望遠鏡を取り出し覗き込む。そこには黒い肌をした【死鬼】とホウジョウ軍が戦っているのが映し出されていた。
「マサキ! どうなっている!」
下からツバサの声が聞こえる。
「ホウジョウ軍と【死鬼】・・・【タイラ】が戦っている」
ツバサ達は顔を見合わせ笑みが浮かぶ。そこへ屋根から降りてきたマサキがその光景を目のあたりにし
「何喜んでんだ? このままホウジョウ軍と【タイラ】が戦っているのを見守っているんならタダトラと同じように完全に犯罪者となるぞ?」
皆の顔にあった笑みが波が退くように引き静けさが訪れる。
「じゃあどうすればいいってんだよマサキ!!」
ツバサが沈黙を破り声を荒げる。
「分岐点に来ていると俺は見た」
何のことか分からないと周囲の者たちは互いの顔を見ながら首を振ったりしている。
「このままタダトラについて行って【タイラ】に協力するのか、ホウジョウ軍に狙われながらも【死鬼】を討ちタダトラと・・・【葵】と決別するかの分岐点だ」
周囲の者たちは互いにけん制し合い動きを見せない。
「俺は追われたままなんてまっぴらごめんだね」
マサキはそう言い捨てると塀を乗り越え【死鬼】へと向かって行くのであった。




