005話
【富士の山道】
思っていたよりも道は整備され、普通に馬車も行き介しているのだが、登りでは馬の負担を下げる為か女性や子供を除き馬車の横を歩いていた。勿論アスカ達も馬車に乗っているのはシズネ、カリナ、シズカとなっている。初めのうちはカリナとシズカは歩いていたのだが・・・途中で限界を迎え馬車へと申し訳なさそうに乗り込んでいた。
アスカが下りの山道へと視線を移す。みんな何処か焦るような・・・言うなれば何かから逃げていると言った方がしっくりと来る光景を目にする。
「可笑しいですね・・・」
「ん? 何がじゃ?」
アスカの呟きに祖父であるタケルが聞き返す。
「いえ、山から下りる者たちが、何処か逃げているように感じたもので・・・」
「そりゃあ逃げておるさ」
トウショウサイが呆れた様にタケルを見つめ答える。アスカもその視線を追うかのようにタケルへと移る。
「言って無かったかのう? ゲーム世界時間で1年周期、現実世界で3カ月周期に現れる特殊モンスターが出ておるのだろう」
驚くアスカは馬車の上へと視線を送る。
「あっもしかしてアスカは情報掲示板見てないのか?」
「そうみたいですね。現れた魔物は【オリハルコン・ゴーレム】。【ゴールド・ゴーレム】にそっくりですが、その身体はミスリルより遥かに硬く、倒すことは不可能とさえ言われていたのですが・・・」
カリナとシズカは知っていたようでアスカに説明しタケルへと視線を移す。それにはアスカも気が付き苦笑いを浮かべる。つまりは倒すことが不可能とされた魔物を祖父であるタケルは倒していると言う事である。
「そう言うもんか? あんなのはただ固いだけで動きも鈍く倒しやすい部類じゃぞ? 寧ろその先の竜共の方が空を飛びおって倒しずらいわ」
アスカは自身の知識やここ最近調べた【富士山】の情報を照らし合わせため息を漏らす。
はぁ、確か八号目は踏み入ればまず生きては帰れんだろうと【言われ】、ましてや【倒しずらい】などとは聞いたことが無かったよ
つまりは遠くから八合目を目視した者はいるが、足を踏み入れた者は無いとされていたにもかかわらずに、祖父であるタケルは足を踏み入れるどころかそこで戦い、倒しずらいとはいえ倒して来たということに他ならなかった。
「ハルトラからは了承を得ておる。まぁ倒されておっても買い取るたはずじゃ」
タケルが何を言っているのか分からずにアスカは小首を傾げた。
「ウフフ、先の【躑躅ヶ崎の変】での貴方の報酬が5,000万程度だとお思いですか?」
「えっ? だって貰ったのは・・・」
「つまりだ。坊主の報酬は更にあったと言う訳だな」
親指を立てウインクまでしたトウショウサイがそう告げた。
そう言う事は本人にしませんかね~
「クククック、サプライズと言うやつじゃわい」
ああ~お爺様が口止めしていたんですね・・・
周囲を見るとアスカ以外が知っていたかのようにみんな笑みを浮かべていた。
「ヌシとて【斬鉄】くらいできよう?」
「片手では無理ですね。それと【胴の小太刀】だと強度的にも無理でしょう」
タケルはアスカの言葉にトウショウサイを睨み付ける。
「何じゃ獲物を造っておら何だか?」
「ああ゛ん? 忙しかったんだから無理に決まっているだろうがっ!」
「やんのか? ゲンジロウの分際で!」
2人が睨み合うそんな時上方より大きな岩の塊が振って来る。2人は気にせずに睨み合い対応しないだろうと思ったアスカが2人の前へと出て、腰を落とし鞘に収まった【鉄の小太刀】へと右手を添える。
「はっ!」
抜刀の構えから繰り出された剣閃は飛来する塊を【核】ごと切り裂く・・・【核】、そう魔石であり、振って来たのは【アイアン・ゴーレム】と呼ばれる鉄の塊である。ズド~ン!と大きな音を鳴らし上下に切り裂かれた鉄の塊は勢いを無くしアスカの前へと落ちた。
「ほぉ~中々のもんじゃね~か坊主」
「当たり前じゃわ! 誰が指導していると思っておる! この儂! この儂が教えておってこの程度出来んのに連れてくるわけなかろう? じゃから何故アスカに得物を渡していないと言うたまでじゃ」
「かぁ~こいつに関しては貴様の言葉の方が正しいわな。これだけの腕が有れば得物さえしっかりしていれば【ミスリル・ゴーレム】程度は1人で倒せるだろうな」
「じゃから言っておいたであろうに?」
「違いない。孫が可愛くてひいき目で言ってるとばかり思うておったわ」
2人の言い争いを余所にアスカは鉄の塊をアイテムボックスへと入れ、再び登りだす。置いて行かれたことに気が付いた2人は慌てて追いかけてきたのは自業自得だと言えた。
五合目、この広い場所を利用し山小屋が建てられ、簡易的ではあるが工房が有り割りだかい使用料を払えば使うことが出来る場所の他、幾つもの馬車が止まり、そのそばではテントが張られているのだが・・・ほとんどの者たちが慌てるように片付け始めている。
そんな状態にもかかわらず現れたアスカ達一行に関所の様な門が有る場所から足軽兵2人が駆けてくる。
「こちらへは何用で?」
「ミスリルと小御岳神社にですね」
注意しようとしてきた足軽兵にアスカが答える。
「悪いことは言わない。ミスリルの方は諦めるんだ・・・な?」
更に注意を促す足軽兵は後方より歩いてくるタケルを確認し
「領主様! お待ちしていました」
「うむ、まだ討伐はされておらんようじゃな?」
「はいっ! 【時間旅行者】のパーティーが1つ挑みましたが返り討ちに会い死に戻ったようです」
「情けないのう・・・あい分かった。そこの者も今回の討伐隊のメンバーの1人じゃ」
「こちらの少女がでありますか?」
「クククック、そ奴は男じゃぞ? それに儂の孫で【ミスリル・ゴーレム】程度は1人でも狩れる」
足軽兵2人は2度アスカへと視線を送り瞳を見開き驚きを見せる。男であること、それとその外見とは裏腹に単独で【ミスリル・ゴーレム】を狩れると言う事に、それに程度と言う事はと考えゴクリとつばを飲み込み
「「そっそれは大変失礼いたしました!!!」」
2人はそろって同じようにアスカに対し頭を下げる。
「気にせんで良い。それで他にはこっちのゲンジロウが参加するとして3人じゃな。あと3人欲しいところじゃが・・・」
タケルが周囲を見渡すと全員目を合わせない様に反らし始める。
「おらんようじゃな。まっゲンジロウが小太刀を作れば問題ないじゃろう」
「はぁやっぱり作らんとダメか・・・」
「言ったときに造っておらんのが悪い。さっさと作業に入らぬか! ああ~材料は先ほどアスカが倒した【アイアン・ゴーレム】で良いじゃろう」
「ああ・・・もらってくぜ」
アスカへと許可を得てアイテムボックスから鉄の大きな塊を取り出しトウショウサイは工房へと向かって行く。
「シズネ。テントの方は任せる。ああ~宿が開いてればそれでも良い」
「分かりました。それでは宿の方にしますね」
タケルはシズネとの会話を終えアスカへと向く。
「ヌシは儂と共に魔物を間引く付いて来るんじゃ」
遠くの同じような木で出来た柵の門へとタケルは歩き出す。アスカはその後を追い駆けだした。
門へと着くと丁度【アイアン・ゴーレム】が門へと向かって転がって来る。タケルは顎で【アイアン・ゴーレム】を指しアスカに処理するように伝える。アスカは駆けるその足で身を倒すようにし、さらに加速し一気に【アイアン・ゴーレム】の前へと立ちはだかり抜刀する。




