001話
新幹線の座席に座り頬杖をつきながら窓の外を見る中性的な少年【綺羅 飛鳥】がいた。中性的と入ったが、その容姿はまるで女性と言っても差し支えないほどの端正な容姿をしていた。また中性的に見えるのは高校1年生にもなろうかと言う歳でありながら160cmに満たない身長からだろうと飛鳥は思っている。
世界は今空前のVRブーム。丁度1年前発表されたVRMMORPG【オールド・タイム・ワールド・リンク】通称【OWL】と呼ばれるゲームである。余談だが存在を伏せて話がなされるときに【オタw】オタク(笑)的な意味である。
それに今の学校は基本午前中しか授業をしない。いややらないと言った方が適切であろう。なぜならばVR世界での時間圧縮技術の確立により身体に影響の出ない4倍と言う時間を使い学習するのであるから。これはデスクワークをする会社でも採用される技術である。
これにより人生に余裕が出来、人口増加につながったのはまた別の話である。
VR学習の為どの場所からでも学校に通うことが出来るのだが、飛鳥は住み慣れた東京を離れ山梨県へと向かっている最中である。何故かと問われれば【いじめ】が原因なのだが・・・両親が海外を飛び回る技術者であったために1人暮らしをしていた飛鳥は1人で問題を抱え込み身体を壊し自宅で倒れているのを発見されたことにより、父方の祖父母が暮らす山梨県へと移ることとなった次第である。
実用化されたリニア新幹線から降りる飛鳥だが現在の新幹線と違い大きさは大型のバス程度で連結はされていない。物凄い数が数分おきに全国を走り回っている為である。
駅から出るとタクシー乗り場へと向かう。このタクシーも完全に自動化され音声で住所を入力するだけでその場所まで運んでくれる。
「○○の綺羅邸へ」
『了解しました。○○にある綺羅邸ですね』
腰の高さまである四角いパネルへと手を置きタクシーへ向け行先を伝える。パネルは指紋照合、血管照合で認識し料金は銀行から自動的に振り込まれる仕組みである。
綺羅邸、都市化が進み区画整理などで均一化された家ではなく明らかに豪邸と言うのにふさわしい日本家屋それが綺羅邸である。飛鳥がタクシーから降りると着物の似合う年配の綺麗な女性に涙を浮かべながら抱きしめられ、窒息しそうになるのを耐えながら解放された直後、剣道着に身を包み渋い年配の男性から拳骨が振り下ろされる。
「この馬鹿もんが! 1人でしょい込みすぎだ。少しは儂らを頼らぬか。それとも儂らでは頼りにならんか?」
祖父であるその男からの言葉に飛鳥は胸の辺りが熱くなるのを感じ
「そんな事有りません」
「だったら甘えればよい。それが子供の特権じゃからな」
ぶっきら棒に祖父はそう口に上げながら荒っぽく飛鳥の頭を撫でた。
歓迎会と言う名の夕食が終わり飛鳥は自身に宛がわれた部屋へと足を踏み入れる。そこには机、ベッドの他、部屋の端に【VRカプセル】が存在していた。
【VRカプセル】始めは医療用に開発されたVRマシーン・・・これが一般家庭にも普及したのには訳が有る。睡眠学習といってよいのか分からないが特殊な電磁波により筋肉などに信号を送ることによって運動したのと同じ現象を再現されると言う優れ物で、VR学習でこれが利用されている結果と言っても良い程である。つまりはVR世界で身体を動かせばVRカプセルがそれに応じた電磁波を流し運動した結果と同じ効果をもたらすと言うとんでも技術である。
飛鳥はVRカプセルを起動してその中へと入り、ヘッドギアを装着して背もたれへと体重を掛けると起動音と共に扉が降り閉まる。
「VRリンクスタート」
キーとなる言葉を紡ぐと一瞬意識が途切れ再び目を覚ますと白い空間に飛鳥は佇んでいた。ただ違いといえば髪の色が薄い青みを帯びた銀髪へと変わっていることであろう。
VR世界では共通アバターが使用でき、また【VR犯罪症候群】の対策としてアバターの体系など現実から10%の範囲内での変更しかできないのである。
【VR犯罪症候群】VR世界で犯罪行為を働き現実とVRの区別がつかずに現実世界でも同様に犯罪を犯す精神の病気である。
「VRMMO【オールド・タイム・ワールド・リンク】起動」
『了解いたしました。しばらくお待ちください』
電子的な声ではあるが人の声と言っても差し支えない音声で返事が聞こえてくる。
しばらくすると周囲の空間が木造の建物へと移り変わり
『ようこそ【オールド・タイム・ワールド・リンク】の世界へ。ここではプレイヤーネームは現実世界の名が使われます。了承されない方は接続をお切りください』
VR犯罪症候群の対策としてアバターのみならずプレイヤーネームも現実世界での名前が使われると言う事である。
『・・・了承したと判断いたします。世界観に付いてご説明いたします』
【Yes/No】
アスカは首を縦に振り了承するとYesが点滅して消える。
日本サーバーは戦国時代。
侍、忍者、陰陽師といった戦闘技術や、九州地方や尾張・・・名古屋地域には銃器を扱う訓練所もあると説明がなされる。また直剣などに代表される西洋剣術なども【江戸】などの大都市で習得が可能とのことである。
レベルやステータスが存在するが【VRカプセル】のスキャニング、それと同時に登録時の採血による遺伝情報を基に数値化がなされるとのことである。
知力や精神力に関しては事前に行われた学力テストや面接が参考になり、またこの後に行われるアンケートにより若干の補正がなされる説明がなされた。
『それではアンケートへと移りたいと思います。アンケートの結果により取得できるスキルが増減いたしますが、【詳細アンケート】のみアンケート結果により自動生成されます。設定されるスキルはアンケートの指向性やその他を加味して決まる物ですので使い勝手が悪いと言う事は無いかと思います』
「それぞれのアンケートに関することを教えて頂けますか?」
幾つかアンケートが有ると言う事なので詳細な説明を求める意味を込めアスカは言葉を発した。
『了解いたしました。まず多くの方がご利用する【簡易アンケート】これはVR世界での目的、戦闘に関する物、生産に関する物について10個の質問に答えて頂きます。次に【推奨アンケート】これは簡易アンケートに加えその答えに応じ幾つか追加で質問をさせて頂きます。そうすることで選択スキルにおすすめスキルが表示されます。追加される質問は全部で最大50問と言ったとこでしょうか。そして最後が先ほど話に上がった【詳細アンケート】になります・・・』
スキルを選択するよりアンケート結果により初期スキルが決まる【詳細アンケート】がおもしろそうだと思い選択したけど・・・
まさか・・・
まさか!
666問も有るなんて誰が思いますか!
途中で辞めるのもなんか負けたような気になるので、最後まで頑張ったのだが・・・まさかVR世界で4時間もかかるなんて・・・
『お疲れ様でした。まさか666問全て答えて頂けるなんて思いもよりませんでした。皆さん最初は選んでも途中で諦め他のアンケートに変えてしまわれるのですよ』
それはそうであろう。早くVR世界を楽しみたい人たちが【推奨アンケート】の10倍以上もあるのなんかやっていられるわけがないですよ
『日本サーバーにて初の【詳細アンケート】にご協力頂き有難うございます。大地に降り立った後にささやかながら開発者より粗品を送らせていただきます。それでは良い旅を』
その音声と共にアスカの身体は浮遊感に襲われ次の瞬間、木造家屋が立ち並ぶ街へと転移した。
『ピロン』と言う音と共に降り立ち、メニュー画面を開き確認する。
そこにはメールのアイコンの上に1と数字が付いていた。
「さて何がもらえるのかな・・・ぶふっ!」
アスカは絶句し思わず吹き出してしまった。なぜならばそこに『日本初だけでなく世界初とのことです。つきましては2つの粗品を送らせていただきます』とあったのだから・・・