003話
富士吉田城、道場内
アスカは仰向けに倒れていた。
「アスカ、主は弱い! 弱いくせに1人で全てを解決しようとして失敗しておる!」
荒い呼吸を整えながらアスカは過去の自分を思い出し唇を噛みしめる。
「主に必要なのは休息ではない! 人と触れ合え! 友を作れ! そして友を信じ共に歩め!」
アスカは袖で顔を拭う
「友が窮地なら助けよ! それを繰り返せ! さすれば主が困難に立ち止まった時必ずや力になってくれよう!」
「はい!」
ごしごしと激しく目元を拭いアスカは再び立ち上がる。
「もう一本お願いします!」
「良し来い!」
アスカとタケルは睨み合い少しづつしか動かない。
「どうした! それでは自身の動きを阻害するぞ!」
タケルの声に反応するかの如くアスカが横へと動き出す。時には早く、時にはゆっくりと緩急をつけるように動き出す。その動きは次第に前へ後ろへと加わり
「そうだ! まずは自身の流れを作れ! そして相手の流れを断て!」
次第にタケルの動きを阻害する動きも加わって来る。
「甘いわ!」
一刀のもとにアスカの動きが止められる。
「止まる出ないわ!」
更に追撃の斬撃が振り下ろされる。アスカは止まった流れを再び会費から作り出す。
「そうだ動け! 予測し、感じろ! さすれば流れが見えてくる!」
追撃するタケルの斬撃に合わせるように回転しながら回避し、アスカは振り向きざまに一閃・・・カンッ!と甲高い音が鳴り防がれる。
「そうだ! 今のは良いぞ! もう一度やってみい!」
「はいっ!」
タケルはタオルで汗をぬぐいながら廊下を歩く。
「ふ~レベル差で身体能力に差が無ければ危なかったわい」
タケルの口元が緩み笑みがこぼれる。食事を取るためにふすまを開けるとシズネ達が朝食の準備をしていた。
「あら? 何か良いことでもありましたか?」
「ん? 顔に出ておったか?」
シズネもつられるかのように微笑み
「ええ、とっても楽しそうな顔でしたわよ?」
「違いない。さっ飯にしようか」
タケルは上座にある膳の前へと腰を降ろし食事を諭す。
「あら? アスカさんを待たなくって宜しいので?」
「ちと本気で相手をしたからな。しばらくは動けまいて」
「あらあら、それではお先にいただきましょうか。貴女たちも食べなさい。アスカさんの分は別のをまた用意いたしますから」
渋々と言った感じでカリナとシズカは自分の席へと座り
「「「頂きます」」」
全員が声をそろえ挨拶をして食事が始まる。そんな中2膳人の居ない席が有る。
「ん? ゲンジロウも居らん様だが?」
「ゲンさんは久しぶりの休息だったのかまだ寝ておりますよ?」
「情けない・・・」
すると障子が開かれ
「誰が情けね~って?」
「ゲンジロウ、主の事だ!」
タケルは箸でゲンジロウを指す。
「あなた。お行儀が悪いですよ・・・」
笑顔で注意するシズネの背後に般若が見え
「すっすまぬ」
即座にタケルが謝り、トウショウサイは開いている席へと腰を降ろす。
「なんだ坊主はまだ寝てんのか? 初が無い奴だな」
「フンッ確かに寝てはおるが、貴様などと違い道場じゃな」
「はぁん? 道場・・・ってお前!・・・はぁ流石と言ってよいのか、剣術馬鹿と呆れれば良いのか・・・」
「んだと~!!」
2人が睨み合い口喧嘩を始めようかと思われたその時
「あ・な・た?」
「はっはい!」
「クククック」
背筋を伸ばし返事をするタケルが可笑しかったのかトウショウサイが笑い出す。
「ゲ・ン・さ・ん?」
「はっはい!」
同じようにトウショウサイも背筋を伸ばした。
「喋るなとは言いません。ですが! 食事は静かに取ってくださいね?」
「「はっはい!」」
そんな光景にカリナとシズカは先ほどまでと打って変わり微笑みを見せる。
朝食も終え、【富士の山道】を登るための準備を進める。躑躅ヶ崎の館では野営に必要なものは済ませていたのだが、野菜などの日持ちし無い物は揃えていなかったのである。
「・・・と言う訳ですからアスカさん軍資金を1,000万エンほど渡していただけるかしら?」
どういう訳でその金額が必要なのか分からず、更にどうして自分が出すのか分からないと言った困惑の表情を見せるアスカにシズネはさらに続ける。
「アスカさん。貴方は彼女たちとパーティーを組み、一応リーダーですね?」
「ええ、そう言うことになっています」
「そこははっきりと返事をするところですが、今は良いでしょう。ですのでリーダーとしてパーティーメンバーの事も含め危険について考えなければなりません」
アスカは真面目な顔で頷く。
「それと先ほどの金額がどう関係するのですか?」
「はぁ~これくらいは気が付いてほしいものです。良いですか? 貴方は召喚石により馬車を含めある程度のスペースが有ればアイテムボックスが使えます」
アスカは頷く。
「ですが、もし彼女たちとはぐれた場合彼女たちはどうなるでしょう?」
「それは・・・食料も野営の道具もなく・・・」
何かに気が付いたのかアスカは顔を上げシズネを見つめる。
「そう、彼女たちは食糧さえも持てないということになります。ですので彼女たちにはそれらを所持するための【アイテムポーチ】が必要だとは思いますよね?」
アスカは再び頷きシズネの前にトレードプレートが表示される。それを目にしたシズネはニコリと微笑み【Yes】をクリックする。
「さっ行きますわよ」
シズネの後をカリナは片手で済まないと謝りながら、シズカに至ってはアスカの前で立ち止まり深々と頭を下げシズネを追い駆けて行った。
「あの~アスカにお金出させなくても・・・」
恐る恐るといった風にカリナはシズネに訊ねる。
「あら? これくらいのお金は男の甲斐性として出させませんと。もし後ろめたいと思うのであれば、貴女達にできることであの子を助ければよいのです。それが仲間と言う者ですよ」
そう言う物なのかとカリナとシズカは深く頷き、アスカが困っていれば必ず助けになろうと心に誓うのであった。これはシズネのアスカを思いお節介にも彼女達が今回の件を義理に感じ、助けをしやすくすると言った面があるのだが彼女達は思いいたらないまま次々とお店を回り装備を充実していくのである。
傍から見れば綺麗な女性たちがショッピングを楽しんでいるともいえるのだが・・・彼女たちに絡む者はいない。なぜならばその彼女たちを密かに守るようにタケルが付いて来ていて、絡みそうな連中の前に衛兵を向かわせけん制しているのである。
「はぁ~だから儂は馬車を使えと申したのに・・・」
タケルの呟きが聞こえたのかシズネは振り返りにっこりと微笑んだ後、声を出さずに口を動かす。
『そんなんじゃお買い物を楽しめないではありませんか』
再びタケルはため息をつきヤレヤレと思いながらも気を配りながら彼女たちの後を追うのであった。




