001話
【富士の山道】五合目までは道もある程度整備され定期的に魔物が駆られている為に比較的安全である。そして五合目に山小屋兼宿屋が存在する。一部食料品や薬が売られているが武器などは売られていない。
五合目から西へと向かえば泉ヶ滝があり、さらに西に向かえば小御岳神社と呼ばれる社が存在する。更に山道を昇り六合目と差し掛かるとそこからは鉱石の魔物・・・所謂ゴーレムが出没する。更に山道を進むと七合目付近には貴重金属でできたゴーレムが出現し、八号目以降となると竜が確認され竜の生息域であり、そこまで足を踏み入れた者は魔物で有れ人間で有れ命が無いとされている。
今回アスカ達が目指すのは七合目付近に出没する魔銀の魔物である。魔銀は躑躅ヶ崎の北部にある鉱山でも極わずかではあるがとれるのだが、その魔銀の多くは今日に住まう【帝】へと謹上されるのが常とされ得ている為、【帝】からの報奨として与えられる以外ではダンジョンやその金属を内包する魔物を狩るしかないのである。
アスカは此度の【躑躅ヶ崎の変】で活躍したことにより報奨金として5,000万エンを受け取っているのだが、準備のために馬車へと備え付けられる【アイテムボックス200】を買い、そこへ日持ちする食料やポーションの類、テントなど野営に必要な道具をそろえかなりの出費となっている。
【アイテムボックス200】1スタック99個。つまりこのアイテムボックスは品を200スタック詰め込める品である。【時間遅延】や【時間停止】は付与されていないので保存などには向かない。定価2,000万エン。だいたい相場は1スタック10万エンということになている。
そんな旅の必需品をそろえる間にアスカはシズネに樽いっぱい張られた水へと魔力を流すと言う作業をさせられていた。
VR世界で1か月後アスカ達は躑躅ヶ崎を出発する。アスカの服装も狩衣を動きやすくアレンジされた服をシズネから渡される。
「お婆様これは?」
「それは【神聖の狩衣】。私が【裁縫】を駆使し縫い上げた狩衣にアスカさんに付与していただいた【神聖水】に付け込み繊維にしみこませた品で【神聖術】の効力を引き上げる効果が付いています。私からの祝いの品ですよ」
「あっありがとうございます」
アスカはお礼を口にする。
「お礼何か良いですから来てみてください」
「はい」
アスカは装備欄を操作し【初心者の服】と【神聖の狩衣】と交換するとアスカの服が瞬時に変わる。白を基調とし青い縁取りがなされたとても清潔感あふれる狩衣でありながらアスカの動きを阻害しない様に調整され見た目からは想像できないほど動きやすい服となっていた。
「ウフフ、とっても良くお似合いよ」
「うん。似合ってると思う」
シズネとカリナの言葉に同意するシズカは首を激しく上下させた。アスカはそんなカリナとシズカへと向き直り
「本当について行く気ですか?」
あの戦以降も時間が合えばアスカは2人とパーティーを組んで活動していた。
「私もミスリルに興味があるからね」
「わっ私は【小御岳神社】に奉納されている【陰陽書】を拝見する許可をハルトラ様から頂きました」
「二人の事は私が面倒を見るわよ?」
それぞれが行く理由を述べシズネが自分が面倒を見るからと2人の後押しをする。
「分かりました。2人ともまたよろしく」
「ああ」
「こちらこそ」
話もまとまり出発となったのだが、何故1か月もの間出発が遅れたかといえば単にトウショウサイの仕事(タケダ軍への武器の補充、整備や修理)が忙しく仕事(トウショウサイしかできない作業)に余裕が出るまで1か月たったのである。見送りに来ている彼の弟子たちは顔を引きつらせていることからまだまだ仕事が残っているみたいに思える。
この1か月【タイラ】対策に各領主が動いていた。まず上総の国のサトミ軍が下総の国へ入り【封印殿】へと赴き全滅。
タケダ軍はギルド【風林火山】へと依頼をすると共にトラオ率いるタケダ軍を派遣。【風林火山】の方もイベントへの参加に狂乱したかの喜びを見せ主力のみならず大半の戦力を【封印殿】への遠征に動く。ホウジョウ軍はフウマ衆を用い下総の国で情報収集を行い、イマガワ軍はその人脈やお抱えの陰陽師を下総の国へ派遣していた。
しかし【封印殿】へと突入した部隊はことごとく【タイラ】三巨頭の1人である【豪鬼】と名乗る【死鬼】1人に壊滅されたと伝わって来ていた。
「それにしても情けないのう・・・」
アスカ達の馬車の隣を走る馬の上で新聞を読みながらタケルが呟く
「何がですかお爺さん?」
「ほれこれを見てみい」
スズネはアスカ達が乗る馬車に同乗していた。そんなシズネの下へタケルは馬を近づけさせ新聞を見せる。そこには大きく『封印殿突入部隊全滅』と書かれ、【風林火山】の不甲斐無さやサトミ軍の敗北に何も学んでいないなどが書かれており、概ね非難する内容であった。
「あらあら? これは【ソウシ】さんに期待するほかありませんわね~」
【ソウシ】ギルド【新選組】に所属するタケルの弟子の筆頭格の青年である。
「あ奴目が失敗するなら鍛え直さんといかんだろうな」
「ウフフ、そうですね・・・でも、もしかしたらこの【死鬼】さんを倒すのには何か仕掛けが有るのかもしれませんわね」
シズネの言葉にアスカ達はそう言う事も有るのかと感心する。
「まっあ奴とあ奴の仲間がど~にもならんかったら儂が出張るしかないだろう・・・」
「そうですね。トラオさん達も居ることですし、指南役としては動かないわけにはいきませんものね」
この1か月の間にアスカはタケルに修行をつけてもらっていた。その都に【★】についても教えてもらっていたのである。
【★】又は【才能の壁】と呼ばれるレベル5で現れるそれは、今まで通りの行動では突破することが出来ない物・・・しかし何らかのきっかけをつかむことによりレベルの上限を突破したり新たなるスキルへと進化すると教えられる。何故教えられるかといえばタケルは【刀術】レベルが8と突破し、さらに流派スキルと呼ばれる現実の流派【天昇流刀法術】が顕現しているからに他ならなかった。
そんな理由からこの1か月アスカは修行させられ【刀術】レベル5の★付きとなっていた。
パーティーメンバーである2人もまたシズネの指導の下、基本となる体術を習い【演舞術】を見事出くするに至っていた。
【演舞術】身のこなしから間合いの取り方などにより回避は勿論の事、命中精度も上がる優れモノであると2人が会得して発見した内容である。射撃には関係ないようにも思われていたが、間合いの取り方が上手いとは相手の動きを予測し把握することにもつながるため相手の動きを予測することで命中精度が上がるのだとか・・・これはアスカも術の基本である【矢】又は【アロー】系の術を会得したことで自身も実感することとなっているのであった。




