014話
シバタはギルドマスターであるマサツグの指示に従い西門への援軍として来ていた。
東門の方はカズミが何とかすんだろ
だがシバタのこの思いは裏切られることとなった。目視で来た相手はあの【死鬼】であったのだから。
「ちぃっ! 【葵】が組んだ相手って【タイラ】だったのかよ!」
愚痴をこぼしながらも隊の先頭を駆け抜け真っ先に切りかかる。
こりゃあ東門はやべ~な
斬られた個所から血は流れずに何事もなかったかのように元の様に塞がり起き上がる。
「隊長! 何処かにある核を砕かなければ【死鬼】は倒せませんよ」
部下の1人が巨大なハンマーで【死鬼】の前身を叩きつぶす。すると何処かにあったコアが砕かれたのか粒子となり消える。
「んなことは分かってんだよ! 俺が倒すから貴様らが叩き潰せ! うをぉぉぉぉ!!!」
シバタは槍を振り回し次々と【死鬼】を叩き伏せて行く。
「ひゅ~流石隊長だぜ!」
「しゃべっている暇が有れば・・・」
なぎ倒しながらシバタが叫ぶ
「叩き潰せってんでしょ?」
被せるように部下は叫び巨大なハンマーを振り下ろす。
「そう言う事だ! 次行くぜ!」
「はいっ!」
東門を遠くから見下ろすカズミの部隊
「あっダメ・・・【死鬼】に【種子島】じゃ役に立たない」
「どうなさいますか姐さん」
「むっ! 隊長!」
姐さんと呼ばれカズミは頬を膨らませ抗議する。
「はいはい、それでどうしますか隊長?」
「【爆裂玉】幾つ?」
【爆裂玉】火薬を球状に固めそこに導火線が付いた要は爆弾である。
「各自3つは持っているはずだから・・・全部で18個ですね」
「少ない」
18個という数にカズミは不満を口にした。
「無いよりましかと・・・」
「む・・・仕方ないまとめるようにして使う」
「はいはい、撹乱してまとめたところで一気に吹っ飛ばすんですね」
「そう。行く」
「お供します」
カズミを含め6人が音もなくその場から姿を消した。
東の街道を抜けたトウシロウ達【白虎隊】の3人は物陰に隠れ機を窺っていた。
「まさか【葵】と【タイラ】がつながっているとは・・・」
「そうですね。魔物を使役していることから【アシヤ】と繋がっているものとばかり思っていましたが・・・これは最悪ですよ」
裏の世界である【黄泉の国】を統べているとされる【タイラ】が絡んでいると言う事、これは領主レベルではなく日本サーバーすべてにかかわる国家レベルと言う事なのだから・・・
「あっ今ユキ様から連絡が有りました」
トウシロウの視線が部下へと注がれる。
「もうすぐ街道を抜けるとのことです」
「夜通し走って来たのか・・・丁度良い合流するぞ」
「「はっ!」」
トウシロウ達はその場から離れ合流地点を目指す。
躑躅ヶ崎南門前
アスカは両手に小太刀を持ち舞う様に立ちまわっていた。しかしその表情はすぐれていない。焦りさえ見える。
くっ厄介な。確か【死鬼】って言ってたっけか?
切り伏せても再び立ち上がり襲い来る【死鬼】に対しアスカ達は決定打にかけていた。
確かゴーレムの用ではあるが、意識はそれなりにあるアンデットだって話だけど・・・
アスカは焦りを見せながらも思考は次第に冷静さを取り戻していた。
対抗するには核となる魔石を砕くか【聖術】による浄化、【火術】による焼き払いが有効だって話だから・・・何かないのか? 何か・・・!?
アスカは考えるうちに自身が持つ【神聖術】の存在を思い出す。
アンケート結果によるスキルだけど【聖術】と同じような効果が有りそうなんだけど・・・普段の僕がそれにかかわる技術なんて・・・
そこでアスカは幼い頃に祖母の音色に合わせ神楽を舞う姿が思い出される。
そうか! 神楽だよ。神にささげる舞に浄化効果があるとしたら! 行けるかもしれない!」
その場で回転するかのように小太刀で周囲の【死鬼】を薙ぎ払い間合いを確保する。
「へっ!? アスカ! 何止まっているのよ!」
カリナから叫ぶような声が浴びせられる。そうアスカは呼吸を整え精神を集中するかの如くその場で無防備に佇んでいるのである。
確かこう・・・
タンッ! と右足で地面を叩く タタンッ! 少し跳ねるように両足を時間差で地面を叩く。そこへ【死鬼】が襲い掛かる。
「アスカ君!」
シズカの悲痛なる叫びが木霊する。次の瞬間アスカは勢いよく瞳を見開き躱す。それがまるで舞の始まりの合図を示すかのように・・・
アスカは舞いながら時折リズムを取るかのごとく地面を叩き打ち鳴らす。その度に神聖な空気が辺りへと広がる。 タンッ! タタンッ!
アスカが地面を叩くたびにその空気・・・いや空間は広がりを見せる。そしてあきらかにアスカに近い【死鬼】達の動きが鈍いように見える・・・いや倒れ崩れ行くものすらいる。
「「すっ凄い・・・」」
カリナとシズカの声が重なり互いに顔を見合わせ頷き合い、アスカを援護するかの如く立ち回り始める。
「なるほど神楽舞か・・・皆の者! かの者を守るのだ!」
ハルトラの声が戦場を駆ける。プレイヤー達は互いのパーティーで顔を見合せ誰ともなく頷きアスカを守るように陣形を組みだす。
当のアスカは神楽を踊るのに集中している為に気が付いてはいない。アスカが舞う程に神聖なる空間は広がり南門一帯を包み込むまでに広がる。
「むっ!」
ハルトラは【死鬼】の核がむき出しになり始めているのを確認すると目の前の【死鬼】を格ごと切り捨て
「よく目を凝らせ! 格が外に出始めておるぞ! 切り捨てよ!」
「「「おお!!!」」」
タケダ軍のみならずプレイヤー達も声をそろえ了承の雄たけびを上げる。そして南門へと押し寄せる【死鬼】が討ち果たされる頃になるとアスカが作り出している空間は東西の門まで広がりを見せる。
東門
所々に大きな穴が開き、それでもまだ三分の一ほどしか減らせていない。
「姐さん! もう【爆裂玉】が有りません!」
「むっ! 隊長!」
「そんな事言っている場合ですか!」
すると南側に位置する【死鬼】達の動きが突如として鈍りだす。
「むっ! 格発見!」
その言葉に後カズミの姿が掻き消え、次の瞬間東門の上へと姿を現す。その手には今までの【種子島】とは少し違うような火縄銃が握られていた。
「【種子島・改】初期型、実戦テスト・・・狙い撃つ!」
パンッ!パパンッ!と3発の発砲音と共に3体の【死鬼】が粒子となり掻き消える。
「う・・・MP効率問題・・・」
3発連射したことでカズミはMP切れを起こしふらつく。
「おっと・・・お疲れ様です隊長・・・」
抱き留められたカズミの耳元にそんな優しい呟きが聞こえ横に寝かされる。
「後は我々がっ!」
弱点をのぞかせた【死鬼】達は数みたいの速さについて行くことが出来ずに次々と討たれ始める。そんな時
「【白虎隊】抜剣! 突撃ぃぃぃぃ!!!」
トウシロウの号令が下され【白虎隊】が一斉にサーベルを抜き放ち【死鬼】へと斬りかかった。
南門前の信じられない光景を離れた場所から観察していた影があった。
「まさか【結界師】が居たのか?」
あまりの信じられない戦況に隠形に揺らぎが出る。
「こんな所に隠れておったのか。貴様のせいで孫に会うのが遅れたではないか」
「そんな事をおいいでないよ爺さんや。あんなに見事な神楽舞が見れたじゃないの」
「ふんっ! 分かっておるわ・・・と言う訳で シッ! これで終いじゃ」
影は視界がずれるように崩れて行くのを感じる。いつの間にか切られ斜めに崩れ落ちていたのである。それも格を切り裂くではないにもかかわらずに肉体が灰となり消えていくのである。
「破邪の力か・・・口惜・・・し・・・や・・・」
影が粒子へと変わると使役されていた魔物達は我に返りその場から逃げ出す。そんな魔物達は南から来たイマガワ軍とホウジョウ軍により打ち取られていったのであった。




