013話
アスカは初心者用と言うにはほど遠い【鉄の小太刀・改】、【銅の小太刀・改】の二振りの小太刀をいただき、【革の籠手】、【革の靴】を防具としていただいた。カリナやシズカはまだかかるようだったので、アスカは一言彼女たちに声をかけ厩へと来ていた。
「おっ! 来やがったな。そこの策の中に居る五頭の【タケダウマ】から選びな。かなりの駿馬だぜ」
先ほど門の前であったトラオがアスカを見つけ声をかけてくる。
「あちらの五頭ですか?」
「そうだ。黒馬が【黒王】気性が荒いが戦場では活躍してくれること間違いないぜ。白馬が【白帝】この中では癖は無いがかなり優秀だ。そして茶馬が【陸皇】スタミナが秀でていて休憩なしで一日中走ってられるぜ。次にあの茶馬に黒毛が・・・あ~何だったか・・・おっそうだ【黒影】だ。こいつは警戒心が強く、【気配希釈】のスキルを持っている特馬だな。最後がオレンジがかった【疾風】で、気弱だが人懐こくてな。それでいてこの中では一番足が速い。んでどれにする?」
アスカは五頭の【タケダウマ】へと向き合う。【黒王】にはそっぽを向かれ、【白帝】には何か見下されているような気配を感じ、【陸皇】はマイペースに干し草を啄ばみ、【黒影】は気配を薄くしアスカの視界から外れようとする。そんな中【疾風】のみがアスカへと近づきアスカの匂いを嗅ぐとペロリとその舌でアスカの頬をなめた。
「クククック、決まりかな? ほれこいつを使いな」
トラオは宝石のような水晶体をアスカへ向かい放り投げる。アスカは危なげなくそれを受け取ると
「これは?」
「ん? 知らね~のか? ああ~初心者だったな。そいつは【召喚石】って言ってな装具ごと【タケダウマ】を仕舞える便利道具だ。こいつに魔力を込めれば魔力が栄養に変えられ、中に居る【タケダウマ】に与えられ飯いらずの優れもの。だがまぁたまにはちゃんとした飯を与えないと不機嫌になるから注意しな。大抵はその辺に生えてる草で十分だからな」
トラオは懐から自身の【召喚石】を見せアスカに説明する。
「使い方は簡単だ。【召喚石】を掲げ名を呼べばいい。出すときも同様だ。まっやって見な」
アスカは言われるままに【疾風】へと【召喚石】を掲げると【疾風】は傅く様に頭を下げる。
「【疾風】」
するとハヤテが輝きを放ち【召喚石】の中へと吸い込まれその場から姿を消す。
「【疾風】」
アスカは再度名を呼ぶと再び【疾風】が現れ嬉しそうになく。その馬体は日の光を浴びまるで古賀英露に輝いているよであった。アスカはトラオに教えてもらいながら装具をつける。
「これで終わりだ。明日は期待しているぜ」
バンバンとアスカは背中を叩かれ痛みを堪えながら苦笑いを浮かべた。
ゲーム内翌日、朝から南門前に築かれた陣地にアスカは来ていた。布陣は以下の通りである。
北門:足軽兵200、弓兵50にて籠城。
東西の門も同様である。場合によっては北門へと援軍に向かう予定とのことだ。
なぜこの様な指示がなされるかといえば東西の街道と言ってもその実は南西、南東に位置し南が一番の激戦地となる予想であったのだ。故に南門前には陣が退かれ、防御さk部で囲われている。ここにはプレイヤーやタケダ軍の主力である騎馬隊などが居る。
9時を回ったあたりからファングドックが群れを成し北と南から押し寄せる。新人の初心者たちも昨日の戦闘で培われた経験を活かし拙いながらも連携を見せている。そして時折間引く様に騎馬隊が東から西からと突撃していた。
あまりにも順調にことが進む中突如としてそれは現れた。浅黒い肌をした【死鬼】が・・・
【死鬼】死者が恨みつらみを宿し黄泉の国より這い出て鬼となり果てた姿。大まかなくくり的に言えば魔物であり、アンデットに属している。
そんな【死鬼】達は体内の核となる魔石を破壊するまでその動きを止めず、ゴーレムのようであるが若干生前の意思を持ち行動するため動きはなめらかである。ただ力おしと言った部分では相違がみられるのだが・・・
この【死鬼】は当初来ないであろう東西の門の正面からも来たために事態は急変する。慌ただしくギルドマスターであるマサツグが声を張り上げ冒険者の一部を東西の門へと走らせる。
次第に犠牲者が現れ、更に悪いことに雲により日が陰りだす。完全に日が雲に隠れると【死鬼】の瞳が赤く光を放ち力を増した。
そんな戦場の中ほら貝の音が北より鳴り響く・・・
「サナダ軍! 【六文】! 突撃してください!」
地響きと共にまず騎馬が突撃する。その突撃は中央で別れ左右から後方へと回り再び突撃を繰り返す。
「弓隊! 騎馬隊の進路を妨害しようとする魔物を優先的に狙ってください!」
騎馬や足軽兵の背に六文銭の旗を靡かせる援軍が来た瞬間であった。




