011話
一方その頃、八王子の城下町から出発した【白虎隊】。その【白虎隊】の先行する騎馬6騎、トウシロウを先頭に全力で馬を掛けさせていた。
八王子から躑躅ヶ崎までの街道を小高い岩の上から見つめる黒ずくめの一団が居た。
「ターゲットが来た。のろしを上げろ!」
指示に従い部下と思しき男がたき火へと球状のしっかりと紙に包まれた煙玉を投げ込みモクモクと空へと一直線に立ち上る。
トウシロウ達【白虎隊】が進む街道の先・・・
「タダトラさん! 狼煙が上がりました。もうすぐターゲットがこちらへ来ます!」
「良し魔笛を吹け! 【白虎隊】の足を止める!」
部下の1人が犬笛に似たものを懐から取り出し口に付け息を吹き込むピーと甲高い音が鳴り響くと街道脇から無数のファングドック、さらにファングウルフ・・・大きな熊のような姿も見受けられる。恐らくは熊の魔物【デスグリズリー】であろう。トッププレイヤーであってもパーティーを組んで挑まなければ後れを取るような存在である。そんな存在が2匹・・・
トウシロウの耳へと甲高い笛の値が鳴り響く
「何かくる! 警戒しろ!」
それぞれ槍やポールアクスなどを構える。
「隊長! 前方犬の群れです!」
「時間が惜しい突っ切るぞ!」
「「「はっ!」」」
速度を維持したままトウシロウたちはその群れへと突入する。手に持つ武器を巧みに使いながら飛び掛かりファングドックを蹴散らしながら進む。
「ちぃっ! ファングウルフも出てきやがった」
隊員の1人が愚痴をこぼすとその後ろから2騎の騎馬が勢いを増し飛び出した。
「隊長たちは先に行ってください! ここは我々が抑えます! うをぉぉぉぉ!!!」
雄たけびを上げ突撃し、その場で足を止め蹴散らし始める。
「すまん! 先に行く!」
トウシロウは言い捨てると、そのままその場を後にした。
ファングウルフの群れに対し仲間を残すことにでやり過ごしたトウシロウたち3人の前に下卑た笑顔を浮かべる一団がぞろぞろと姿を現しその行く手を遮る。
「どう、どう、どう」
トウシロウ達はひき逃げするわけにもいかずに、すぐさま手綱を引きその場に馬を止める。
するとその集団の中央より
「会いたかったぜ! 【白虎隊】隊長トウシロウ!」
トウシロウは声を上げた男タダトラを睨み付け
「そこを退け! 我々は躑躅ヶ崎への援軍に行かねばならんのだ!」
タダトラたちは大声で笑い出す。
「何が可笑しい!」
「クククック、これが笑わらずにいられるか! これはイベントなんだよ! 領主同士の戦!・・・戦で俺たちは躑躅ヶ崎とは別の領主に雇われているわけ」
タダトラの言葉にトウシロウたち3人は驚きの表情を浮かべ
「さぁ雪辱戦と行こうか!」
「くっ! やるしかないのか!?」
迷うトウシロウの後ろに控えていた2人が断末魔ともとれる叫び声をあげ地面へと転げ落ちた。
「なっ! お前たちど・・・」
振り返ったトウシロウへデスグリズリーの前足が振り下ろされる。
「くっ!」
間一髪トウシロウは馬から飛び降り逃れるが乗っていた馬が切り裂かれ、粒子の光となり消える。
「よそ見してていいのかよっ!」
デスグリズリーへと注意を向け自分達への警戒を怠っている【白虎隊】の隊員へ向けタダトラの槍が襲う。
「ぐはっ!」
「ぐふっ!」
タダトラの振るう槍が倒れ込む部下2人を一瞬で突き刺し粒子となり散る。
「貴様! よくも!」
トウシロウは腰のサーベルを抜き放ちタダトラとデスグリズリーを視界に入れながら構える。
「ふっ、何時でもかかって来いって言ったのは貴様らだぜ! このまま死んで悔しがるんだなっ!」
タダトラの槍がトウシロウへと迫り、それをバックステップで躱す。するとそこへデスグリズリーの爪が襲った。
「しっしまった!」
ガゥン!!!
もはやこれまでかと思われたその時、トウシロウに迫るデスグリズリーの眉間から血が噴き出す。
北部に広がる山脈の中腹
「・・・次!」
撃ち終わった【種子島】を兵士へと渡し、別の【種子島】を受け取るとカズミは遠く離れ、最早人の目には捉えられないような距離を見つめ
「狙い撃つ!」
再び引き金が退かれ「ガゥン!!!」と大きな音と共に弾丸が放たれる。
「次! 急ぐ!」
再び弾の込められた【種子島】を受け取り構え放つを繰り返す。
突如として眉間を打ち抜かれ倒れ込むように粒子となるデスグリズリー・・・更に轟音が鳴り響きもう一匹の眉間からも血が噴き出す。
「どっどっからの狙撃だ! 火縄の匂いなんてどこにもないぞ!」
驚き慌てるタダトラへトウシロウのサーベルが迫る。
「ちぃっ! くそっ! くそっ!」
間合いの内へと入られたタダトラはトウシロウの繰り出す突きを何とか槍の柄の部分で防ぐのに手一杯となる。
「どうした? 俺を悔しがらせるんじゃなかったのか?」
トウシロウの突きがタダトラの右肩口へと突き刺さり、タダトラはその痛みから思わず槍を手放してしまう。
「死合の最中に武器を手放すなど・・・愚かな・・・」
再びサーベルを構えたトウシロウがタダトラの心臓へと向け突きを放ち、タダトラは心臓を貫かれたこと(急所攻撃)により粒子となりながら
「くっそぉぉ!!! 覚えてろ! 次はか・・・」
叫び半ばで完全に粒子となり消える。トウシロウは残りを倒そうと思い振り返る。するとそこには次々と粒子と消えるプレイヤー達の姿があった。
これほどの射撃・・・射撃オリンピック代表のタキガワ選手か? だとしたら【天下不武】は【葵】の動きを読んでいたと言う事か・・・借りが出来たな
トウシロウの下へファングウルフを蹴散らした部下2人が駆けてくる。
「ご無事ですか隊長!」
「ああ、悪いが後ろに乗せてくれ」
「はっ! どうぞこちらへ」
部下の馬の後ろへと跨ったトウシロウ達は戦いの疲れもそのままに目的地である躑躅ヶ崎を目指し駆け抜ける・・・
山の中腹
「私が出来るのはここまで・・・後はヒデミとシバタの仕事・・・」
岩場に腰を降ろし【種子島】を突き立て呟く。辺りを見ればカズミの部下であろう弾込めをしていた者たちが5人仰向けに倒れていた。そんな彼らを一瞥しカズミは
「やっぱり【種子島・改】を早く完成させないと・・・」
呟き尾張の空へと顔を向けた。
 




