010話
100騎からなる騎馬武者たちが縦横無尽に駆けファングドック、そして後続のファングウルフを駆逐していく。
「ふ~」
一息漏らし不意に視線を落とせば小太刀が最早使い物にならないくらいボロボロであった。アスカは当初、逃げ遅れた者たちに声を掛けながら第三陣まで引かせると言う伝令的な役割をしていた。だがそんなアスカの目の前でアスカの指示に従わずに
「そんなの信じられん! 当初のギルドの指示は『危なくなったら南へ逃げろ』だっ!」
「そうだそうだ!」
「嫌でも南からもファングドックが来ているわけだし・・・」
「そいつと共に行きたきゃ勝手にしな」
4人パーティーだろうか1人はこちらの指示に従おうと意見を述べたのに対し盾を持つ青年とそれを指示する斥候焼くであろう身なりの青年、槍を持つ性格のきつそうな女性が反対意見を述べ南へと駆けて行ってしまった。従おうとした青年もアスカに頭を下げその後を追う・・・
「やぁぁ!!!」
「ぎゃぁ!」
「わっ! 何でこんな数が!」
悲鳴や叫び声にアスカは咄嗟に反応してしまった。
「くっ! 僕がもっとちゃんと説得できていれば・・・」
そして助けに入ったアスカは彼らに押し付けられるような形でファングドックの群れを相手にしだす。次々と襲い来るファングドックを華麗に躱しながらその数を減らして行く。ピシリと嫌な音が聞こえ、ファングウルフも混ざりだし、警戒からかその動きを止めてくれ、騎馬軍団が駆けつけたことで九死に一生を得たのである。
辺り一帯のファングドックとファングウルフを駆逐した騎馬軍団から初めに号令を上げた鎧武者がアスカへと近づいてくる。
「・・・貴様のお蔭で被害が少なく済んだ礼を言わせてもらう」
「いえ・・・そんな事はありません。ただ判断を誤り取り残されただけですから・・・」
鎧武者へと別の鎧武者が近づき
「御屋形様、別の群れが接近しております。一先ずここは第三陣まで引きましょう」
小声ではあったがその声はアスカへも聞こえていた。鎧武者はアスカへと顔を向け
「カンベイの背に乗れ、後続が来るそうだ。急ぎ離脱をするぞ」
「はっはい」
アスカは先ほど伝えに来た眼帯を付けた男カンベイの背に乗りしがみ付く
「ふむ、男であったか。貴公の働きで我策が失敗せずに済んだ。陣へ戻り次第屋形様にお願いし褒美を取らせよう」
「いえ、先ほども申し上げましたが自身のミスにより孤立し、武器も使い物にならなくなり危ないところでしたので、褒美をもらう訳には・・・」
「ふっあれだけの数を相手に魔物どもに警戒を抱かせる実力それだけでも明日以降期待できると言う物よ」
カンベイはそう言い捨てると手綱で馬へと指示を出し物凄い速さで駆けだす。
陣へと戻りカンベイへとお礼を言って馬を降りたアスカの下へカリナとシズカが駆けてくる。
「大活躍だったそうだな」
「すっ凄く魔物を倒したとか・・・」
そんな2人の声にかぶせるように大声が響き渡る。
「あいつが嘘を言って回るから俺らが死に戻ったんだ!」
「そうだそうだ!」
その声に同調するかの如くざわざわと声が上がる。
「済まない」
そんな声とざわつきの中、アスカへと謝りに来た1人の男性が気の強そうな女性と共に謝りに来ていた。
「彼らはあんたに助けられた後別の群れに当たり死に戻り鎧や盾を失ったんだ・・・」
「それって逆恨みだろ? 貴方たちは彼らの風潮する話を止める方が先じゃないのか?」
気の強そうな女性の言葉にカリナが反論の声を上げた。
「そっそうですよね」
青年と女性は互いに頷き合い意を決してその人込みへと駆けて行く。
人ごみの中で、にやつくのを堪え誇らしげに語る男とそれに追従する男が居た。そんな彼らに同情する声やアスカを許せないと言った声が上がる中
「彼等2人の言っていることは嘘です!」
「そいつらと同じパーティーを組んでいたが、あの子の言葉を無視し南へと向かったのはそいつらの判断だ!」
「なっ! 貴様ら! 俺は鎧と盾を失ったんだ! あいつがちゃんと指示していれば!」
人混みが割けるように別れ、先ほどの男女の2人組が男たちの前へと出る。
「あの子はちゃんと『第三陣まで退いてください』と言ったんだ」
「それを君たちが『ギルドからは危なくなったら南へ逃げろ』としか言われていないと言って南へ行ったんじゃないか!」
男たちは慌てふためく
「だっだがっ! 俺は死に戻った! なのに彼奴が称えられやがって・・・」
「それは俺達が彼に魔物の群れを押し付けたからだろうが!」
すると周囲で会話を聞いていたプレイヤーから声が上がる。
「押し付けたってMPK? うわぁっダッサ~」
「ないな。ない」
「MPKってなんだ?」
「モンスターを別のプレイヤーに押し付け、押し付けたプレイヤーをキルする・・・殺すって事。迷惑行為」
「ええ~何それ~最低~」
「えっ!? MPKが死に戻ったから押し付けたプレイヤーが英雄視されるのが気に食わないって・・・人としてどうなの?」
「だから皆が白い目を向けてるわけだよ」
「ああ~そっかプレイヤーとしても人としても最低な人たちなんだ」
最早そこには彼らを同情する物は1人も居なくなっていた。寧ろ非難の声が上がり始めたことで逃げるようにその場を後にした。後日彼らは虚偽の流言を行ったとしプレイヤーのみならず現地人の間にも知れ渡り甲斐の国からその姿を消したのはアスカには関係のない話であった。
そんな騒ぎの後に、再び男女2人組に謝られた。アスカは謝罪を受け入れ気にしないことにした。
そして領主の使いと言う者がアスカの下を訪れ、カリナとシズカと共に中央の躑躅ヶ崎の館へと訪れることになる。
館の門前には1人の陣羽織姿の女性ミカゲが待ち構えていた。
「来たな。新しき英雄殿」
ミカゲはアスカを揶揄う様に笑みを浮かべながら声を掛ける。
「やめてください。アレは僕にとってミスですから・・・」
「フフフ、まあ良い。それでも君に我々が助けられたのは事実だからな。軍師殿からは武具を与えるようにと言われている。それで良いか?」
「ええ、このように装備は使い物になりませんから」
ミカゲへ小太刀を見せるとミカゲは納得したと言わんばかりに頷く。
「あっあの私達も頂いて宜しいのでしょうか?」
「ん?構わんよ。パーティーを組んでいての活躍はパーティーに与えられる。例え個人がなしたとしてもパーティーを組んでいるのであればそれはパーティー全体の功績となる」
それでもカリナとシズカは遠慮がちな雰囲気である。
「まっ貴様らに期待するっていう部分もある」
ミカゲの後ろから大柄な鎧武者トラオが顔を出す。
「トラオか・・・もう出るのか?」
「いや、御屋形様がそこの者をいたく気に入ってな」
「えっ!? 僕男ですよ?」
心底いやそうにアスカが口にする。
「ぷっあはっははっこいつは良い。ん何じゃね~ぜ。その腕を気に入ったってこった。だから馬を1頭与えるってよ」
「なるほど。彼女たちを含めパーティーに武具をそれぞれに一式、その中でも活躍が著しい彼に【タケダウマ】をお与えになると言う事だな」
「そう言うこった。だから武具を選び終わったら厩の方へ連れてきてくれ」
【タケダウマ】駿馬や名馬言った物を超える馬・・・魔物の馬【バトルホース】であり、それを飼育することで人に乗られることになれた馬とは言え、気性は穏やかではあるが元が魔物であるためある程度の実力が無い者は乗せないことで有名である。この【タケダウマ】によりこのVR世界でも日本サーバー最強の騎馬軍団となっている。