009話
ファングドックがアスカへと迫る。アスカはそれを迎え撃ち、躱し際に小太刀で一閃・・・ファングドックの両足の腱を切り通り過ぎると、そこへ札が鋭い矢の様に襲い掛かり、止めとばかりに木製の矢がファングドックの眉間に突き刺さりファングドックの命を奪う。
もはやアスカ達には作業になりつつある行動ではある。しかしながらアスカ達が担当するエリアにしては魔物の数が多かったのである。
「最前列の奴ら手を抜いてるんじゃないだろうな?」
「いくら何でもそれは無いんじゃないかなカリナ」
カリナの愚痴にシズカが答える。そうアスカ達に与えられた場所は南部のその中でも一番南の第二陣に布陣していたはずである。そんな彼らの下へ頻繁に襲い来るそれが意味するところが分からずにアスカ達は迷っていた。引くべきなのかこのまま留まっているべきなのかを・・・
「次来たよ。今度は2匹」
アスカの声に反応しカリナは矢筒から矢を取り出し弓につかえ、シズカは袖口から札を取り出し魔力を流し込む。
「アヲォォォォォォォォン!!!」
遠く南の方から狼と思しき遠吠えが聞こえてくる。
「不味い! 二人とも退くよ!」
アスカは2人の方へ身体を向け告げる。すると2匹のファングドックがその行動を好機と感じ同時に飛び掛かる。
「なっバカ! アスカ後ろ!」
カリナが声を上げ、シズカは両手で自身の視界を隠す。
「はぁ~邪魔!」
アスカが呟くや否や刀を鞘に納め抜刀の構えを取り、左下から右上に切り上げ1匹を仕留めると同時に勢いそのまま回転し左上から右下へと振り下ろす・・・カチリ・・・再び鞘へと小太刀が収まる音がする。シズカが手をどかし視界を広げると、そこには何もなかったように小走りで駆け寄るアスカの姿があった。
「あっえっ? どうなったの?」
ゆっくりとシズカはカリナへと顔を向ける。カリナは瞳を見開き
「あははは・・・やるねぇ~」
乾いた笑いの後にその口端を釣り上げ呟いた。
「何してるんですか? 早く引きますよ? さっきレイドチャットで返事がきました。『第三陣まで退き防衛されたし』だってさ」
アスカはそれだけを言い捨て止まることなくそのまま駆け抜ける。2人はそんなアスカを追いかけながら
「どういうことだい?」
「ん? 何か南の街道からもファングドックとファングウルフが押し寄せてきているんだってさ」
カリナの言葉にアスカが答える。
「だっ大丈夫なんですか?」
「ん~もうじき領主軍が動くからそれ次第かな」
アスカの言う通り領主軍は動き出していた。当初討って出て対応しようとしていたのだが南からだけでなく西や北からも魔物が押し寄せている情報を入手し、都市の防衛準備ができるまで先行する東部の魔物を迅速に減らす策に変わっていたのである。
カンベイのとった策はこうである。まず冒険者達が抑えている隙にその抑えられた魔物に対し北から300騎、南から同数の300騎の騎馬部隊により挟撃し、その隙に冒険者たちを都市まで下がらせると言うものが第一段階の策となっていた。
だがここで思ったよりも南部から押し寄せる魔物の速度が速かったのである。それに対応するために下がった場所で南部の魔物も含め挟撃しようと言う事なのだが・・・南部に配置された人員の多くは新人・・・こう言った大規模戦闘、それも戦術ではなく戦略級の戦いには経験すらないと言えた。そしてこれがまたVRであることも思うように動かない原因となっていたのである。
防御柵など簡易的に建設された第三陣まで後退したアスカは2人と離れ戦場を掛けていた。
「さっこちらです。急いで引いてください」
アスカは逃げ惑うプレイヤーを呼び寄せるように声を上げ、こちらへと駆けてくるプレイヤーとすれ違いながら
「そのまま振り向かずに走って行ってください」
最後尾へと迫るファングドックをアスカは一太刀で切り捨て、切り捨てられたファングドックを飛び越えるかのように襲い来るファングドックを躱しながら一閃。止めどと無く襲い来るファングドックの群れを舞でも踊るかのように流れるような足運びで次々と切り捨てて行く。
あまりに一方的な光景に後続のファングドック達の足が止まった。丁度その時北側より地響きと共に蹄の音が鳴り響く。
ドドドドドドドド
「敵の足が止まっている俺につづけぇぇぇぇぇ! 侵略すること火のごとく!!!」
赤い鎧を纏い槍を大きく掲げた鎧武者が叫び
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」
雄叫びが鳴り響くと共に足を止めていたファングドックの群れへと突撃していくのであった。




