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わたしは黒猫である  作者: 葉留
始まりの街
3/8

2.黒猫、とりあえず生きてます

 熊らしき獣と戦ったあの日から果たして何日くらい過ぎただろうか。始めの2、3日は数えていたのだが、獣生活には必要ないと思い途中で数えるのをやめた。

 あれから数週間、最初に目覚めた丘から少し離れた川を拠点に近くの森を散策しながら情報を集めつつ手がかりを探した。

 そこでやはりわたしはこの姿になる前は人間であったと確定づけた。どうやらここは今まで住んでいた世界とは異なる世界のようだったから。


 理由としては第一に見たことあるような生き物が所々違う容姿で存在していること。しかもどの生き物も比較的大きなサイズ。


 第二に空想上の生き物でしかないはずのドラゴンが空を飛んでいたこと。いや、あれは見間違いだ。知らない世界に放り出されて野宿の連続に疲れてただけ。火を吹いていた気もするが、そう わたしは疲れていたんだと思い込んだ。


 第三にコレ。目の前にいるゼリー状の生き物がぶにぶに ぷよぷよと変な動きをしながら今にも飛びかかってこようとしている。それを横目に見ながら辺りを見回す。


 どうやら1匹だけのようだ。


 1匹の大きさはわたしよりも一回り程大きいサイズなのだが、コイツらは敵を自分の中に取り込んでじわじわ溶かしていくという厄介な生き物で、単体では雑魚なゼリー状の生き物も大量に現れると何倍もの大きさに膨れ上がり取り込まれると出るのにかなりの時間がかかった。何日か前にも一度、何十匹も同時に襲いかかってきた時は流石に溶かされて髭が短くなった。

 また仲間を呼ばれたら厄介なので核になる部分を爪で引き裂くと、パンっと弾けてゼリー状の生き物は跡形もなく消え去る。


 今まで見てきた生き物と違う生物にずっと肌で感じているこの世界の空気も到底今まで過ごしてきたあの世界とは異なるモノだった。



随分、この世界にも慣れてしまったな、と木の幹を巧みに避けながらいつもとは違う森の方へ駆けていく。すると木ばかりだった空間から一転して開けた場所に出た。


 そこはとても神秘的な空間だった。


 日差しでキラキラ輝いている綺麗な湖に澄んだ空気、湖を囲むように青々と生えている木々の葉。

 しばらく呆然としていたわたしは我に返って周りを警戒しつつ、近づいて湖を覗き込む。そこにはきょとんと目を丸くした銀色の瞳の小さな黒い毛並みの子猫がいた。手を上げたり、髭を触ったりすれば目の前でやはり同じ動きをする。薄々分かっていたことだが、実際にしっかり見るのは初めてだった。

 拠点である川で魚を取ったり、体を洗ったりしている時にぼんやりと見えてたシルエットは猫そのものだったし、日が出ている時に見えていた影も猫のようだったのだ。


 わたしはやはり猫になっていた。いや、それが分かっても根本的な解決にはならない。


何故わたしはあそこで寝ていたのか、人間だったはずなのに何故猫の姿なのか、わたしの名前はなんなのか。


わたしという存在(人間だった記憶も前いたであろう世界の記憶もある)のに何故か名前だけが思い出そうとしてもぽっかりと抜け落ちてるかのように思い出せない。これではまるで わたしは誰 ここはどこ? 状態な訳である意味記憶喪失だ。


 目の前に映ってる子猫がやれやれと首を横に振っているが、どう頑張っても違和感だらけで、体の動かし方はすぐに慣れたが、この見た目を見る度にきょとんとするのが眼に浮かぶ。

 結局、この先この場所でいくら考えても何の成果もなく、このまま何日もだらだら過ごすだけになってしまいそうだ。

 どうやらそろそろこの場所から動く時が来たのかも…



「グルルルル!!」

「……に?」



 聞こえた声に振り返ればいつのまにか凄い近くに涎を垂らした真っ赤な目の大きな狼の姿があった。

 デジャブを感じる。



「グガァァア!!」


 と考えるより先に

 近くに感じてた気配はコイツだったのか、と狼を見ながら一歩踏み出す。先手必勝とばかりに素早く狼の足元に飛び込んで下から横に向かって切りかかるとゴォッと風が巻き起こり狼を吹き飛ばす。


(あ…またやり過ぎた…)


 バキバキバキと盛大に倒れていく木々と砂煙により見えなくなった狼と体の中に入ってくる何か。どうやらここにいる獣を倒すと体の中に何かが入ってくるようだ。それは相手の強さにより流れ込んでくる量が違うようでゼリー状の生き物なんかは少しだけ。初めに倒した熊?は今思えばかなり多かった気がする。だとするとこれは経験値か何かのようなものだと仮定。

 あとはまるで魔法のようなこの力。わたしが意識して前足を振ると出てくる風の斬撃。まだ力加減が難しくて少しでも気をぬくと周りを破壊する勢いで飛んでいく。

 ついでに異常なまでの脚力と力。最近、やっと慣れてきたと思ったのに咄嗟の出来事だとつい力加減が疎かになりがちだった。

 目の前に広がる惨劇。神秘的な湖のほとりは見事なまでに一瞬でぐちゃぐちゃに荒れ果てた。


(見なかったことにしよう。そうしよう。)


 回れ右をして元来た道を引き返す。今日は何を食べようかな、と現実逃避しながら足取り軽くいつもの川へと向かおうとした。


「ガルルルル!」

(まあ、こうなるよね…)


 薙ぎ倒した木の間から沢山の狼たちが姿を現わす。先ほど倒した狼の仲間だろう。よく狼は群れで生活しているというが全くもってその通り。何匹いるのか気配だけじゃ分からなかったが、ざっと見積もって20はくだらない。その中の1匹がリーダーだろうか、3メートルはくだらない大きさをしている。

 また面倒なことに巻き込まれてしまった。

 本当にこの森の生態系はどうなっているんだろう。初めは熊、次はゼリー状の生き物、空飛ぶドラゴンに今回は狼。このうちの3つは団体でのお出ましばかりである。

 しかも何故こんなに小さいわたしを狙ってくるのだろうか。意味が分からない。


(て、考え事してる場合じゃないか。)

「グギャー!」


 一際大きい狼の雄叫びと共に一斉に飛びかかってくる狼たち。全部が全部を相手にしていたら埒があかないので脚力と力を総動員して必要最低限を蹴り飛ばし引き裂いて、そのままリーダー格目掛けて駆けていく。

 好機とばかりに牙を出してわたしに飛びかかってくる狼めがけて最大出力で風の斬撃を放つ。


「グルルルル!!」

(風刃!)


 勝負は一瞬でついた。地面に横たわる狼とその横に無傷で着地するわたし。生きていた狼たちは一目散に逃げ出していった。ひと段落した、と一息ついたのは一瞬ですぐに顔を真っ青にする事態に陥った。

 周りの木は先程よりもバラバラに薙ぎ倒されてあたり一面焼け野原のような悲惨な状態になっていた。まるでドラゴンでも暴れたかのような惨劇に頭を抱えたくなる。

 不可抗力だとしてもこれはやり過ぎたかもしれない、最大出力で放つのは金輪際やめておこうと密かに心に誓った。


(今日は帰ろ、う…)


 急に体の力が抜ける。ふらっと体が傾いて意識が遠のいていく。力使い過ぎたんだ、とどこか他人事のように思いながら意識を手放した。

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