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9話

 気がついたら、自分の家の自分のベッドの上だった。


「サーラ、居る? 私どうやって帰ってきたのかしら? ニコラスの格好してないんだけど大丈夫だったかしら?」

「何をすっとぼけたこと言ってるんですかい。大変だったんですからね!」


 第六騎士団から使いの者がやってきて、サーラともう一人侍女を、男性の使用人を二人、合計四人と馬車、それと女性の服一式を持って指定された酒場に来るように、との連絡があったそうだ。


 女性の服と言われた瞬間に変装がバレたことは解ったらしく、慌てて向かったら、酒場のベッドに素っ裸の私が寝ていた、というのがサーラの目撃情報だ。


 その場にいた団長にサーラが詰め寄ったらしいが、最初にスパイ容疑があったので、洋服に情報が隠されていないか確認しただけで、私には無体な事はしていないから、と説明を受けたので、しぶしぶ現場を後にした、とのことだった。


「お嬢様に万一のことでもあったら、あの男に責任とってもらうことになってますから。全くお嬢様と来たら、ヒヤヒヤさせないで下さいよ、傷者にでもされてお嫁に行けなくなったら、テイラード家が晒しものになるんですよ?」


 言われて、サーっと血の気が引いていくのがわかった。

 そう言えば私、団長に無体な事、というか唇を奪われちゃった。


「ぎゃーーーーっ!」

「どうしました、お嬢様? やっぱり何かあったんですか?」


 ヘナヘナとその場に崩れ、蒼ざめた顔をサーラに向けた。どうしよう、もしかしたら赤ちゃんできちゃったかも。

 だって私ってば、裸で一晩男性と一緒に居て、キスまでしちゃったんだよ? 確か今まで読んだ本は、これでしばらくすると赤ちゃんが出来てたはず。


 ということは、婚約者でも旦那様でもない人の子供を産むってことになる。

 ああ、どうしよう、私一人で産んで育てるのよね、そんなこと出来るのかしら……


 サーラに言うべき? いいえ、ダメだわ。だってこれだけ怒ってるんだもの、これ以上怒りに火を点けるワケにはいかない。

 とりあえずサーラを安心させるべく、引きつった顔のまま「何でもない、びっくりしただけ」と言って少し寝かせてもらうことにした。


 一人になってこれからのことを考えないと。


 涙が出そうになるのを堪える。どこまで一人で耐えられるだろう。団長には迷惑かけられない。だってあの人は王族だもの、国の為に動く人だから私だけ占有していい訳がない。


 出産までどのくらい期間があるのか想像もつかないが、フィオナちゃんの実家にお願いでもして匿ってもらおう。


 その前に、ひと目会ってから……ダメだ、泣いちゃうかもしれないし、このまま会わない方がお互いの為になると思う。その代わり手紙を書いてニコラスに持って行ってもらえばいいか。詳細を聞きたいって言ってたけど、全部ニコラスに説明をさせるのがいいね、何てったって当事者だし。


 次の日、私は旅に出る準備をした。


 今日の夕方にはニコラスが帰ってくるし、明日は団長に手紙を持っていってもらえれば問題ないと思う。

 サーラには、騎士団で一週間頑張った自分へのご褒美として、近くの避暑地に一人旅をしてみたいと言った。

 生まれてこのかた、一度も旅なんてもの、した事ないので、もの凄く心配されたのだが、私のワガママにとうとう折れてくれた。


 お母様は三日前から保養地にお友達とお泊まり旅行だし、お父様は一週間の出張だ。二人には、サーラから私の旅について報告してもらうことにした。


「行ってきます」


 サーラに挨拶してフィオナちゃんの実家がある地域を目指した。馬も元気だし所持金も充分ある。ちょっとした冒険者になった気分だった。


 しばらく馬を歩かせて、最初の村に到着。お茶をいただいて休憩をとってから今日泊まる予定の村まで馬を進めた。


 宿屋を聞いて、一泊のお願いをしたら部屋に案内された。食事を済ませ、あとは寝るだけのところで事件が起きた。


 私が寝てしまっているだろうと思った泥棒サマに部屋の扉を開けられてしまったのだ。旅の初日だったし、うまく寝付けなくて起きてたので、ガツンと殴って気絶させ、翌朝宿屋の人に突き出した。


 聞けば、休憩した村から金持ちそうな身なりを見かけて、後をつけていたそうだ。簡単に襲えると思ってた私に反撃を喰らい予想外の展開に歯噛みしている。


 旅ってこんな危険なこともあるんだ……ボーッとしてたら身包み剥がされちゃう。


 こんな物騒な村は懲り懲りだ、と呟きながらさっさっと次の集落まで進めようと心に決めた。


 そして二日目、旅の続きをする準備を整え出発。

 昨夜の事件もあり、寝不足だったため、途中ちょっと小高い丘で休憩を兼ねて仮眠をしようと考えた。

 そもそもこの考えが甘かった、と後悔したのは、仮眠と称するガチ寝から目が覚めた時だった。


 気づいたら夕方、もうすぐ日が暮れようとしている時間。慌てて馬を探すが見当たらない。マズいと思って腰のお金入れを探したが、これも見当たらない。

 そう、寝てる間に盗難に遭ってしまったらしい。ショックのあまり気を失いかけたのだが、グッと堪えた。

 今朝方、ボーッとしてたら身包み剥がされる、と自分を戒めていたとこじゃないか。 見事にその状況に陥った自分の情けなさに、ため息しかでてこない。


 呆然として座り込んでいたのだが、これではいけない、と自分を叱る。どんどん暗くなってくるし、泣きそうになりながらも、先ずはどこか泊まれる場所にたどり着かなければ、と思い直して立ち上がった。


 トボトボと歩きながら、足が棒になるかも、と感じる頃に集落らしき灯が見えてきて、じんわりと涙を滲ませた。幸いほんの少しだけ、別取りしていたお金があったので、それで泊めてもらおう。


 十軒あるかどうかの集落で、宿なんてものは無いようだ。一番近くの家を訪ねて泊めてもらえるようお願いしたが、断られた。次の家もその次の家もダメだった。

 諦めてどこかの軒先に寝ようかと考えたところで、若い女性から声をかけてもらえた。


「あなた自分がどんなに無謀なことしてるのか、わかってる?」


 ご飯を食べさせてもらいながら、そう聞かれた。言ってる意味がわからず、小首を傾げてその先を聞く。


 普通、女性は一人で旅や移動はしないものなのだそうだ。最低でも従者を一人付けるか、護衛を伴い馬車移動するのが基本だ、と言われた。


 へえ、旅って一人でするのが基本だと思ってた。旅する理由を聞かれたのだが、言い淀んでたら特に咎められることもなかった。


「いい人生経験したでしょ? もう充分じゃないの? お家に戻った方があなたの為になると思うわよ。周りの人があなたを心配する前に、元の生活に戻りなさいな」


 家に戻ることを進められたので、素直にそれに従おうとしたが、あいにく資金不足で従者や馬が準備できない。

 途方に暮れた顔をしていたら、しばらくここで稼いでお金を貯めるように意見をもらった。


「私はロレーヌ、ここで父と一緒に病気の人や元気のない人に薬草を飲ませて治療しているの。近くの村からも病人は来るから結構忙しいわよ? 今日は父は泊まりよ。隣村でおばあさんの看病に出かけてるからね」


 私、働けるんだ。ボランティアでもニコラスの代わりでもなく、自分で仕事をすることができるんだ。


 人生で初めてのお仕事に、期待に胸を膨らませ、泥のような眠りについた。


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