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4話

 やっぱ思ったよりハードな一日だったみたいね、気づいたのは朝だったし。

 しっかり着替えだけは済ませてるあたり、サーラたちに面倒みてもらったんだ、重かったでしょ? ごめんね。


 今日から出勤じゃん。

 少し早めに行かなきゃ。顏出しだけで今日は終わるけどさ。

 制服、制服っと。……の前に何よこれ、長い布の束。


「サーラ? 制服の他に布が置かれてるけど」

「ああ、それですか。ニコラス様に成り切るにはさすがにその体型はマズいと奥様が」

「確かにそれは注意すべきとこよね」

「この布で、ない胸と貧弱な腰をグルグル巻きにしてボディメイクしますから」


 ん? 今無視できない二つの単語が耳に届いたが? ギッとサーラをみても、思いっきりスルーされてしまう。そうだよね、哀しい事実は変えられない。

 もういいです、ひと思いにやっちゃってください、サーラさん。

 覚悟を決めた途端、サーラの目つきが変わる。お母様にまで声をかけて私をミイラに変身させる算段を始めた。何だろ、この二人のギラギラオーラは。朝からこのテンションはヤバいでしょ、サーラの鼻、膨らんでるからぁ。

 私の悲鳴の回数分グルグル巻かれ、見事なミイラボディの完成だ。これに制服着込んで、と。気分は人型ロボットだけどね。決して酒樽型じゃないから、そこ大事。

 そんじゃ出動。ニコル、行きまーーす!



「本日付けで移動になりました、ニコ……ラス・テイラードです。よろしくお願いします」


 扉を開けて、即行挨拶した。新人イジメに合わない対策だ。

 言ってから気がついた、何だこの部屋、汚なすぎやん……しかも誰もいないっつーのもどーよ?

 慌てて時計を探した。うん、定時だよ? 私は遅刻してないし、早すぎでもない。何で? どういうこったぃ?


 ゆっくりと部屋の中へ入り、散らばった書類をかき分けて机っぽいとこに荷物を置いた。


「うー……ぁぁ……」


 ひえっと声を出しちゃったのは不可効力だから。地の底から出てきそうな唸り声とソファの上に長靴の先が見える。それに向かってもう一度声をかけてみよう。


「あのー……今日から……」

「ぅぅ、煩いっ! ったぁ、自分の声が痛ぇ」


 相手はひどい二日酔いらしい、とりあえず水でも渡して会話できる状況まで持っていくか。水差し……も使わない方が安全っぽいし。ハア……とため息をついて、小さな声で「少し席を外します」と断りをいれて部屋をでた。


 何だよあの部屋。汚すにも限度ってもんがあるでしょうに。あの人がまともに話せるようになったら、まずは掃除だな。あとは備品を倉庫からもらってくるか。と、その前に水。


 わざわざ食堂まで出向いて水をもらって、部屋の住人に手渡した。酔いを醒ましてもらう間に備品調達をして、ついでに掃除道具まで確保した。申請とか必要なんかな? とりあえずお父様の名前で拝借した一覧を倉庫に貼り出して部屋に戻った。


 入り口近くを手早く片付け、住人はそこの一角に退去してもらうことにした。煩ければ廊下にもでれるだろうし、私も動きやすい。


 さあ、始めよう。窓を開け、床の書類集めから始まり、ある程度の目処がつく頃にはお昼もだいぶ過ぎた時間だった。


「お前、すげぇなぁ、この部屋の床が見えるなんて日が来るとは思わんかったぜ」

「まだ執務室としては機能しないよ? 何てったって書類の区分ができてないからね、あとは団長の仕事。って、ああ、もうお昼も過ぎてるし!」


 今日は団長の王子様も不在っぽいし、明日出直すってことでいいよね? ご飯食べて帰ろっと。一応この人に明日出直す旨伝えておいたし、手落ちはないね、そんじゃ帰る。


「おい、昼メシまだなんだろ? 片付けの礼だ、奢ってやるよ。ちょっと待ってろ」


 男が制服を羽織りながら髪の毛を軽く整える。あら意外、結構いい男じゃないか。目の保養も兼ねて食事を付き合ってやらんでもない。ちょっと上機嫌になりつつあった時、爆弾が投下された。


「ところでお前、女装が趣味なの?」


 ヒクッ……瞬間、顔が引きつり目が座った。

 ゆっくりと首だけで振り返り「あん? 何だと?」

 言っとくが私は正真正銘の女だ、ごるぁっ!

 口には出さなかったが心で叫んだ。


「いやあ、昨日のスリを捕まえた時のお前、なかなか本気モードの女装だったからなあ、俺らも騙されちまった。特にスレイなんか惚れちまうくらいいい女だったって言ってたからなぁ」

「昨日?」

「そ、会っただろ? 声かけたのがスレイ、俺はコソ泥捕縛してたから遠目にしか見えなかったけどな」


 おお、あの爽やかイケメン君はスレイという名前か。私をいい女っていうんだから、やっぱポイント高いわ。んで、コイツはもう一人の方な、オッケー。自分なりに納得したところで、ハッと気がついた。

 ヤバい、今の私はニコラスだ、ニコルで動いてた昨日と比べれば、女装と言われるのも仕方ないか……


「ああ、昨日街にいたのは二個上の姉のニコルだ。同じ顔だからよく間違えられるんだが、さすがに女装は姉に失礼だろ。それに」


 振り向きざまにヤツの腹に一発拳をいれてやった。グフッと唸り体を『く』の字に曲げるヤツに向かって一言。


「俺は女に間違われるのが一番嫌いだ」


 手をパンパンと払いながら、捨て台詞のように宣言した。


 決まった!


 と、同時に廊下からドヤドヤと人の気配が近づいてきた。ん? と顔を向けると、入り口付近で昨日の爽やかイケメン他数名があんぐりと口を開けて固まっている。


 なんだ、私の勇姿に惚れたか?

 しかし、爽やかイケメンことスレイ君から出た言葉は非常に恐ろしいものだった。


「……団長、あんた知らない小僧から何で殴られてるんスか?」

「い、いや……ちょっとした行き違いでな」


 へ? 君、今なんて言ったかな?

 団長、とか聞いたけど……まさかね。


「しかも今日は昼から集合なんスよねぇ、今いるってことは、また街の連中にどっか連れ出されてここ泊まったんでしょ。後で文句つけときますよ」


 ええ! 今日って昼からなの? 着任日だから定時だと思ってたんだけど。

 焦って辞令に再度目を通す。あ……


「諸手続きと顔合わせを兼ねて、当日は特別に午後のみの勤務となる予定……うわあーーーー!」


 書面を両手で握りしめながら絶叫した。

 どうするよ、私。上司殴り倒しちゃったんですけど。しかも勤務時間間違えた上に、上から目線で上司に向かって伝言係頼んじゃってるし。


 目の焦点が合わない状態で呆然としていると、どこからともなく、クスクスと忍笑いが聞こえてきて、やがてみんなが腹を抱えて笑い始めた。ひどいことに笑い涙を流したりする者までいる始末。


「あー、笑った。お前可愛い顔してんのに根性あるな、団長に挑むなんて。気に入った、街の見回りは俺と組もうぜ。弄りがいありそー」

「いや、組むのは俺でいこう。上司の俺に手をあげた罰で一カ月間専用のパシり決定」


 えー、パシりなんかやりたくないんだけど。不満顔で団長を見ると既に痛くもないであろう腹をさすりながら言い放つ。


「うう……腹が痛むなあ……」


 それ言われると何も言い返せないじゃない。歯噛みして両手を握りしめていると、団長が私に向かって手を差し出してくる。ジッとそれを見ていると、無理やり握手させられた。


「改めまして、私がこの第六騎士団を纏めています、ジェイク・グリフォードと申します。よろしく『ニコラス・テイラード』君」


 そして、と言いながら、入り口にいるみなさんを自分の後ろに控えさせて、紹介してくれた。


「ようこそ、我が『第三王子のお守り騎士団』へ」

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