第18話 初めてのお見舞い ( 後編 )
「むむ、電気は点いていますね。取り敢えず、おじゃましますなり」
男は綺麗に靴を整えるとどんどん部屋の中に入っていく。
花千代は慌てて物陰に隠れた。天羽以外には洋服が浮いているようにしか見えないだろう。
、、どうしよう。
天羽は寝込んでいるし、男に花千代は見えない。しかしこのまま行かせて良いとは思えない。
一に容姿、二に不法侵入だ。百人が百人警戒するだろう。それに加えてこの時間、既に日付けが変わっている。花千代はぎゅっと手を握り締めた。
、、この人には悪いけど、今日は帰ってもらおう。
しかしどうやって伝えればいいのか分からない。
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天羽の部屋はチリ一つ落ちていなかった。男の一人暮らしとは到底思えない。
坂本は部屋を見渡しふむふむと頷く。
幽霊さんがやってくれたとメールにはありましたが、どうやら本当のようですねぇ。
数回天羽の自宅に来訪したことはあったがここまで整えられていたことはなかった。だからと言って汚いわけでもない。普通の男の部屋だ。適当に散らばっている、その位だ。
と、リビングの隅に布団が一セット畳まれているのを発見した。
この布団、、幽霊さん用でしょうか。
もしそうだとして現在使用していないということは起きているということになる。
「つまり、この部屋の中で吾輩のことを見ている、ということでしょうか。ぬふふ、、良いですねぇ興奮の極み」
坂本は鞄の中を引っ掻きまわしラジオのような小さな機械を取り出した。
「吾輩特性幽霊発見機です。これで位置を特定しましょう」
アンテナを伸ばしスイッチを入れる。ザザザとノイズが鳴る。
世界の科学者やマニアの間では幽霊が近くにいる際は部屋の気温が下がったり、放射能の値が周りより高くなったりすることは有名だ。この機械はそれらを測れるようになっている。変化があれば反応するように設計した坂本自慢の一品だ。
「良いですぞぉ良いですぞぉ〜、反応ありですね。この胸の高鳴り、、まるで初恋!!我が愛しの幽霊さん何処に居られる」
坂本はうきうきと部屋を探索する。すると廊下の辺りで発見機が鳴りひびいた。
「こ、この強い反応は、、、そこ、にいるのですか、、?」
坂本は誰もいないガランとした廊下をみつめる。この機械が鳴ったのは初めてだ。坂本がこの世に生を受けてからずっと追い求めてきた超常現象的なオカルト的な何かが直ぐそこにいる。
早まる心臓。荒くなる呼吸。聞こえるのは坂本の荒い呼吸と鳴り響く機械だけ。坂本は暗闇に包まれる廊下をじっとみつめる。そこに何かが、誰かがいるはずなのだ。些細な痕跡も見逃さない、見逃せないとばかりに食い入るように見つめる。
すると背後に何かの気配、、、、
ばっと振り向くとカタンと何かが物音をたてた。
天羽が寝ているであろう寝室に繋がる扉の前に紙とペンが置かれていた。ペンは今しがた使い終わったかのように少し転がって止まった。
坂本は紙を手に取り書かれた内容に目を通すとぬふふと笑った。
「これはこれは、、」
すると寝室の扉がガチャリと開く。
「俺の家で何やってる、、、」
げっそりした顔の天羽に坂本はコンビニ袋を差し出す。中にはゼリーやヨーグルトと共にチョコレイト・こんぶ・オレが入っていた。
「もちろんお見舞いですよ天羽氏。ぐふふ」
「俺の目にはそう写らないけどな。、、その紙何だ?」
天羽は坂本が持っている紙を不審に見る。坂本はにやりと笑う。
「何を言うんですか天羽氏。今しがた貴方が吾輩に書き残してくれたものじゃありませんか」
「、、、は?」
坂本は紙切れを天羽に渡す。
『体調が悪く今は会えそうにないです。申し訳ありませんがまたきてください。天羽』
紙には可愛い文字でそう記されていた。
後書き
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海 きいろ