第12話 契約
「とにかく助けて戴いてありがとうございました。誰かと話したの久しぶりで楽しかったです。じゃあ、そろそろ行きますね」
そう言うと幽霊少女は立ち上がった。
「ちょっと待って」
ぱしっと幽霊少女の手首を掴む。
、、、、しまった。思わず引き止めてしまった、、。
手首を掴んだ状態で停止する。幽霊が出て行くと言っているのだ引き止めてどうする。
「、、、、、、」
俺が話さないでいると幽霊少女が「あっ」と小さく声をあげた。すると着ていた服を脱ぎ始める。
「ごめんなさい、服借りたままでした!」
ズボンがパサリと床に落ち俺はぎょっとする。
「違う!待て待て脱ぐな!!見えてる!見えてるからっ!!」
俺は咄嗟に下を向く。普段は注意して見ないフローリングが綺麗に輝いている。一生懸命掃除をしてくれたのがよく分かる。が、今はそうじゃなく、、!!
すぐ近くにはたった今脱いだばかりのズボンが落ちている。
幽霊少女の動きが止まったのが気配で分かった。
「わ、わた、わた、わた、私、、、」
声がわなわなと震えている。
「き、きゃあぁああああーーーっ!!!」
バチバチバチッ
部屋の照明が激しく点滅を繰り返し、至る箇所から家鳴りが響く。カタカタと食器が揺れる。その現象は幽霊少女の悲鳴に呼応していた。
俺は耳を塞ぐ。
「お、落ち着け!見てない、見てないから!それにほら、俺下向いてるから!」
見えた。見えたけど、今そんなことを言ったらやばいのは分かる。
部屋の怪奇現象が少し落ち着く。
「ほ、本当に、見てないですか、、?」
幽霊少女がおずおずと口を開く。俺は力強く頷く。
「見てない。だから早く服着て、そんで落ち着いてくれ」
「ご、ごめんなさいッ、、、」
目の前にあったズボンが持ち上がり、少女の透き通った足が通る。
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「うっ、うっ、、、、」
「見られてないことに慣れすぎだよ、、、」
リビングに戻り話を続ける。幽霊少女の顔は羞恥で真っ赤だ。膝の上に置かれた両手はぎゅっと握りしめられている。
「あんな、人前で、、しかも天羽さんの前で脱ぐなんて、私、、、」
幽霊少女はぐすぐすと泣いている。
人に見られないことに慣れてしまったせいで俺は見えることを失念してしまったらしい。
俺はどうしたものかと泣いている幽霊少女を見る。
「君が着ていた服はどうしたの?大分ぼろぼろだったし、もう着れないんだろうけど」
「シャワー借りたんですけど、その時に脱いだら消えちゃいました、、うっ、、うっ、、」
それで、俺の服を着てたのか。俺はため息を一つ吐く。
「じゃあ、君は今服を持っていないわけだ。俺の服は周りにも見えるわけだから君がそのまま外へ出て行けば服が一人歩きしていることになる。包帯も見えるだろうし、、。さながら透明人間だな」
「そう、、ですね、、」
「つまり君が誰にも騒がれずにいるためには、、その、、」
裸でいるしかない。
俺は言葉に詰まる。そんなセクハラ親父みたいなことは言えない。しかし幽霊少女は察したようだ。こくりと頷く。
「しょうがないですよね、、天羽さん以外には見えないんだし。それに死んじゃってるからもうお嫁に行けないし、外を裸でうろつくぐらい平気です、、」
「平気じゃないだろ」
平気なはずがない。俺に見られたと思っただけでこんなに傷つくのだ。
俺はがしがしと頭をかく。
「俺、掃除苦手なんだ」
俺の言葉に幽霊少女はきょとんとする。
「〜〜〜っ、だから、、自動で掃除する機械とか買おうかと思ってたけどあれって大体部屋自体が片付いてないとあんま動けないでしょ?だから俺の部屋にはむかないし、、、」
言葉を探しながら思いついたまま口にする。我ながらぐだぐだだ。
「、、、たまに掃除とかしてくれる人が家にいてくれたらいいなって思ってたんだけど、、三食昼寝付きで雇える人いないかな〜と、、」
そこまで言うと幽霊少女も気づいたようだ。テーブルに両手をついてずいっと前に出る。目がきらきらと輝いていた。
「私、私で良ければ何でもします!天羽さんっ、私を雇ってください、お願いしますっ!」
本当にこの子は死んでいるのだろうか、俺よりも輝いている瞳はきらきらとそれはそれは眩しかった。
後書き
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思わず万歳してしまいました(笑)
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