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幽霊少女と俺の平和な同居生活  作者: 海 きいろ
第一章 幽霊少女と俺の平和な同居生活編
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第1話 のばした手

 

 夜の住宅街は閑散として人通りは無い。

 男はふらふらと何処に行くでもなくただ歩いていた。

 ポケットの中で握りしめた硬い感触は男を高揚させる。早く使いたくて仕方がない。早くこれを早く早くーーーー。




 男はただ待つ。男の愛しい獲物を。憎い獲物を。



 最初にその獲物をみつけた時は友達と歩いている時だった。


 純粋そうで柔らかそうで笑顔が可愛いかった。今時の派手な学生とは違い清潔さがあった。化粧もしていない。


 獲物は友達と楽しそうに話しをしている。男には気付いていない。




『それって恋だよ!絶対そう!』


『そんなんじゃないよ~。やだなぁ、直ぐそっちに話しがいくんだから、、』




 恋ーーーー。


 やっとみつけた獲物が恋をしているという。

 男の中に言葉にならない怒りが充満する。





 ーーーー俺のものなのに、お前は俺がみつけたのに、お前は俺のものなのに、他の男を好きになった、、、?






 許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、、、、。




 俺以外の男を好きになるのは許せない、許さない。お前は俺だけをみていればいいんだ。俺だけを、俺だけを。それがお前にとっての幸せだろうーーーー?


















 ーーーーーー



 ーーーーーーーーーーーー









 一人の少女は静かな住宅街をきょろきょろと見渡し眉をひそめる。




 ここ数日探してやっと見つけたのだまた見失ってしまえば次に会えるのはいつになるか分からない。


 友人からは恋の始まりだとか何だとかさんざん茶化されたが、これとそれは別。返す物は返さなければならないし、それがお世話になった人の大切な物ならば尚更だ。




 それに明日からは天気が崩れるという。傘をさしている人の顔を覗き込みながら歩くのは大分気がひける。というか周りから見ればおかしな子にしか見えないだろう。だから今見失うわけにはいかない。あの人の為にも自分の個権の為にも、、、!




「確かにこっちに行ったと思ったんだけど、、、。おかしいなぁ、、、。あっちかな?」



 路地の先に少女が探していた後ろ姿が見える。

 少し距離はあるが走れば見失う前に捕まえることができる。

 少女はほっと胸を撫で下ろした。




 刹那、ドンと後ろに何かがぶつかる。

 近くに誰か居ただろうか、それとも自分が何かにぶつかってしまったのだろうか。

 確認しようと後を振り向こうとして体がぐらりと崩れる。



「、、、あれ、、、?」




 少女の体は何故か地面に倒れた。腹部に重く鈍い痛み。そこから血が出ているようだった。状況をのみこめない少女は近くに人が立っていることに気付く。



「やぁ、こんばんは。こんな夜道に一人で危ないよぉ~。」




 少女を見下ろす男の姿。

 顔は暗くてよく見えない。



 男の手にナイフが握られているのは分かった。

 街灯の灯りにぎらりと刃先が光る。ナイフには赤い液体が滴り男の手までが赤く染まっている。




「、、、うっ、、」




 激痛が少女を襲う。腹を押さえた手にはべっとりと生ぬるい感触。


 男が苦しむ少女の顔を覗き込み笑みを漏らす。




「苦しい?痛い?ねぇねぇ、気持ち良い?俺がやったんだよ?良いでしょ?」




 男は完全に狂っていた。

 少女には聞き取れない早さでぶつぶつと言葉を並べる。





「君はついてるよ!だって、だって俺と出会えたんだから!ねぇねぇそうでしょ?

 君も嬉しいでしょ?俺も嬉しいよ。君みたいな可愛い女の子と知り会えてこうして触れ合って、見つめられて、、。

 今、君の目には俺しか写っていない、、。こんな素晴らしいことはないよ!

 俺も君に釘付さ!見つめ合っているんだよ、僕らは!」




 ーー怖い、怖い。痛い。




 少女はなすすべもなく地面に倒れたまま震えた。ただこの恐怖の時間が早く終わって欲しいと祈る。




「でも君は酷いよ、俺というものがいながら他の男を見ているなんて、、、」



 男の声が、低く変わる。



「君は俺のものなのに、許せない、。君は俺の女の子、獲物、可愛い獲物。どうして裏切った」




「、、、私、知らない、、。ごめんなさい、、私、覚えてないんです、、。」





 少女は見知らぬ男に怯えながら謝った。本当に分からない。初めて会う男だった。




「俺を知らない、、、君もそんなことを言うの、、?」



 少女は必死に記憶の中で男を探したが全く見つからなかった。



「傷つくよ、俺はこんなに君のことを想っているのに、、、。

 こんなに愛しているのに、、、!!」



 男がナイフを振り上げる。


 少女は悲鳴をあげる。



「あははっ!君が悪いんだよ!怖い?怖いでしょ?あははははは!

 ねぇ、俺がこれをもう一回刺したら君どうなると思う?ねぇ、きっとすっごく痛いよ。

 痛くて痛くて死ぬよ。」



「、、、、。」




 少女の目から自然と涙が溢れる。

 怖くて怖くて仕方がない。足が、がくがくと震える。手はもう自分の血で真っ赤だ。体がどんどん冷たくなっていくのが分かる。意識も朦朧とする。




 こんなところで私は死ぬんだ。

 こんな知らない男にいきなり刺されて、意味も分からず死ぬんだ。



 少女はまた涙を流す。歯を食いしばりながら。

 今の涙は悔し涙だった。



 最近通り魔が見境なく人を襲っているのはニュースになっていた。

 ただそれはここから離れた街だったので大丈夫だと思っていた。クラスでは、自分達が知っている街の名前がニュースになっていることで少し嬉しいなんて声もあった。そんな声を聞いて不謹慎だと思ったけど、自分もちょっと嬉しかった。



 馬鹿だ私ーーーー。



 そんな風に思っていたから神さまが怒ったんだ。

 自分は関係ない、自分は絶対大丈夫だって。





「泣いてるの?良いね、すっごく

 可愛いよ!そうだ!キスしよう。俺たち愛しあっているのにまだキスもしていない」




「ーーーーっ!?」



 倒れている少女に男が覆い被さる。少女は手足をばたつかせ必死に抵抗する。




「おやおや、恥ずかしがらなくて大丈夫だよ、、、」



 男は笑いながら少女の両腕を掴み拘束して動けなくする。

 段々と男の顔が近づいてくる。




 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、、、、。




「いやぁーーーーーーーーっ!!」




 少女は思い切り頭を振り上げた。ごつっという鈍い音と共に男の呻き声がして腕の拘束が解ける。


 男は少女から少し離れて鼻を押さえている。鼻を抑える指の隙間から血がぼたぼたと垂れている。


 ギロリと少女を睨む。



「痛い、、、。痛いよぉ、、。

 、、、、そんなに、あの男が良いのかい、、、。

 俺よりも、、、。あの男が、、、。」



 男は少女の顔を踏みつける。

 少女の口内が切れて血が流れる。

 少女は痛みに耐える。耐えながら良かったと思う。男にキスされなくて良かった、と。あのままキスしていれば痛ぶられることはなかっただろうが、この男とキスするくらいなら痛みを選ぶ。例えそれで死んでも。心まで男にやることは出来ない。絶対嫌だ。



「、、、うっ、、、」



 段々と体の感覚が無くなっていく。

 はっきりしているのは痛みだけ。




「分かったよ、分かったよ。そんなにあの男が好きなら俺の方が強いって証明してあげるよ。」



「、、、!」



「俺が勝ったら君は戻ってくるだろう?

 俺を好きな君に、、、」




 男は不気味に笑う。



「おやおや、そんな曇った顔は君には似合わないよ。あの時みたいに笑ってよ。俺は君の笑顔が一番好きなんだよ。」



「、、、、か、、ら」




 少女は声を絞り出す。ぜぇぜぇと息が乱れる。



「な、、でも、、、きくから、、、。

 あの人、、、には、、、お、、ねが、、い」




「男の命乞いかい?素晴らしいよ!君は!流石俺の恋人だ!

 ただ聞いてあげられないよ、ごめんね。じゃあここでちょっと待ってて、後ろから何回か刺して終わりだからさ!その後ゆっくり愛し合おう」



 男は血で汚れたナイフを回しながら上機嫌で歩き出す。


 しかし数歩進んだ所で歩みがとまる。


 少女が男のズボンの裾を掴んでいた。




「、、離せ」



「いか、、、せ、ない、」




 男が足を振って少女の手を振りほどこうとするが少女は手を離さない。


 男は逆上しナイフを持った手に力をこめる。




「離せ!離せ!離せ!」




 感覚が無くなりかけた少女に再び訪れる痛み、痛み、痛みーーーー。


 飛び散る血。


 血が流れて道路が赤くなる程少女は弱っていった。


 感じるのは寒いということと痛いということ。







 あれ、私なんでこんなに必死なんだろうーーーー?




 薄れていく意識の中で少女は思う。考えて少し笑う。




 そっか、私あの人のこと、好きなんだーーーー。













 少女の鼓動は止まった。









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