未熟な自分
初めての女子の唇は温かかった。雨でぬれていたのに温かく、優しく。
言葉以上に俺を慰めてくれているような気がした。
亜夜さんは俺が話した以上のことは聞いてこない。
ただ俺に肩を貸して、ずっと手を握ってくれた。
「雨、止まないね。」
そういう彼女の目はこんなにも近くにいるのになにを見ているのかわからない。
「少年、家来る?」
彼女の提案に戸惑った。だが、一人暮らしの女性が男を家に呼ぶ理由なんて一つしかない。
「行きます。」
彼女の家は公園からそれほど遠くはないアパートの二階
彼女に招かれるまま部屋に上がった。
「びしょ濡れになっちゃったから、シャワー浴びておいで。
あ、それとも私と一緒に入る?」
亜夜さんはいつもみたいに困った顔をする俺を見て小悪魔のような笑みを浮かべている。
茅野のことがあったばかりだからか、キスをしてしまったからか。
亜夜さんがかわいく見えて仕方がない。
しばらくして亜夜さんが俺のことを急かすようにお風呂場に押し込む。
ここが亜夜さんがいつも使っている浴槽。
……健全な男子高校生なら仕方ないよね。なんて誰に対してなのかもわからない言い訳をしてみた。
なんだ今の状況は、俺はついさっき彼女の浮気を目撃して、
今は俺が浮気をしようとしている!?
てか、キスされたうえで女の人の家で風呂入るってことはそういうことだよな?
いやこれは俺の早とちりか?だが早とちりじゃないとしたら?
ええい、男だろ瞬!覚悟を決めろ!!
「お、あがってきたか少年。」
そこには濡れた服を脱いで、部屋着でベッドに腰掛ける彼女の姿が。
ほら亜夜さんだって待ってくれている。
俺は亜夜さんの肩に手をかけ押し倒した。
「え、え!?どうしたの少年!?」
「俺のこと招きこんでシャワーを浴びせたってことはそういう事ですよね?」
彼女の何とも言えない表情
「そ、そういうつもりじゃなかったんだけど……。」
え?まさかの勘違い??さっきの葛藤は何だったんだ。
「少年ってそういうことに興味あるの?」
「ま、まあ。俺なんも経験ないので。」
「なんもって、キスぐらいは普通にあるでしょ?」
亜夜さんはバカにするように言ってきた。
「キスもさっきのが初めてですよ。」
亜夜さんは豆鉄砲でも食らったかのような顔をしている。
そんなに経験がないのは貴重なのか?俺がそうだったのは珍しいのか?
そんなことを考えていると
「じゃあ私としてみる?」
いつもみたいな意地悪な顔。でもどこか目が本気なようにも見えた
もしかして今のまま首を縦に振ればこのまま亜夜さんと……
「でも、少年はそれでいいの?」
その言葉を聞いて、茅野の顔が浮かんだ。
なんで今更、もう忘れようとしていたのに、
亜夜さんの質問を答えようとすれば彼女の顔が頭から離れない。
そんな俺を見る亜夜さんの目はもの言いたげに見えた。
いくら無頓着な俺でも気づいてしまった。亜夜さんの気持ちを
本気で俺のことを考えてくれていたんだと思う。
それなのに俺は茅野のことも忘れられず、亜夜さんの気持ちを考えることもできなかったんだ。
さっき自分の情けなさを痛感したばかりなのに。
「すみません。俺帰ります。」
今ここに居続けることに耐えられない
もう門限だから、なんて適当な言い訳をつけて俺は亜夜さんの家をあとにした。
あんなに降り続けていた雨はもう止んでいる。




