コミュ障勇者は遣い走り
(まぁ、こうなるだろうな)
普通に美女でもヒロインでもない普通の魔王を討伐して、魔王並みに強いとされた勇者の末路と言えば、仲間から裏切られて伝説に記される、だけだろう。
そういう創作物を読んできたし、そのどちらの主張も納得出来てしまったのだ。王様たちからすれば、俺はいつどんな状況で爆発するか解らない不発の核弾頭の様に見えるだろうし、俺だってこうしてこの勇者の力を精神面で制御出来るかどうかは解らない。
なにせ、俺が殺した魔王は自分の力に精神が蝕まれて自我が遠退き、それでも異常な精神力でもって俺たち勇者パーティーを何度も危機的な状況へ追い込んでいるのだ。
そんな存在と前衛で真っ正面から戦ってた俺を後ろから補助付与、回復、援護射撃をしながら見ていた奴らの印象はおおむね俺が魔王へと抱いたものと一緒だろう。
『化け物』
ありふれた表現でありながら、俺、いや俺たちを表すには相応しい言葉だ。なにせ、勇者というだけで岩をも砕く腕力に音速を叩き出す脚力、昼間ですら光の強い星なら見える視力を得ているのだ。さらに言えば、これらに劇的な成長力が加わって今や、空気を破裂させる腕力に、単なる速力だけで残像を残す脚力、視力に関して言えば魔法の式や他の感覚から読み取った一時的な未来予知すら可能となっている。もはや、職業:勇者ではなく種族:勇者と言い替 えた方が良いくらいの別次元っぷりだ。
そんな馬鹿げた力を持つ人間が、口下手で、容姿は普通で、異世界から来たので鎖もなく、欲求もこの世界に持つことがないのだ。
つまり、言ってしまえば、今の勇者つまり俺は、前述の通り不発の核弾頭並みの破壊力を持っているだけでなく、配線が奇跡を数十回起こさないとほどけないし下手に弄ることすら出来ないので処理すら出来ない危険物なのだ。
ならどうする?
宇宙のごみにするか、いっそのこと壊すか。
の2択しか取れず、まして宇宙なんてモノを観測出来ていないこの世界では、壊すしか無いのだ。
だから、こうして魔王戦の後の疲労したすきをついてくるのは解っていたし、わかっているから合わせて五つの攻撃を俺の弱点ともいえる心臓、脳、両目、左手の甲の勇者紋へと攻撃を誘導させることもできたがーー
「おいおい、マジかよ。こんだけの攻撃されたんだから少しは期待したんだけどなぁ」
傷どころか痛みすらない。
というか、魔力を持っているものなら常時張っている魔力障壁すら越えられないって…………。
いや、俺のコレは莫大な魔力が勝手に現象を発動させないように凝縮して俺の中に閉じ込めているから硬いのは解るけどさぁ……。
痛む頭に手を置くついでに嘲笑で歪む表情を隠す。
「ば、化け物!!」
「言葉でなじるのもいいが、貴様らこれからどうなるか解っているんだろうな?」
別にこの程度で怒った訳ではないが、この三年と少しの魔王討伐遠征でまるで絆とか友情とかが進展しなかったのだ。一応、第六王女とか街中で拾った聖女とか暗殺者とか天才魔法使いとか、テンプレなヒロイン枠も居なくはないが、全員に護衛が数人ついた大所帯になっている。当然、派閥はあるが勇者派閥は俺一人しかいないし、勇者派閥になれそうなものは平民や商人といった戦闘能力のないものばかり。むしろ、コイツらがいるせいでそう言った者からの支援が俺に届かなかったりしているので邪魔だ。
というか、そのせいで俺の装備はただの鉄の剣と手足を守る手甲・足甲位で前衛で敵を倒していたんだ。
神様から貰った『御都合第一主義』がなけりゃ何回死んでたことか。
それはともかく、俺がこいつらを許さない理由?
異世界に誘拐されたことも、戦争に巻き込まれたことも、援護射撃?なにそれ美味しいの?な対応されたことも、恨んでないのにどうして許さないかって?
「バカすぎるんだよ、てめぇら」
苛立ちで魔力制御が乱れて、さっきの魔法で耐久力が下がった鉄の剣と籠手と足甲が崩壊する。
同時に、その鉄の武具に施していた高すぎる能力値が周囲に与える影響を制御する術式(自作)も粉々に砕けた。
俺は術式の補助を必要としなければ魔力を制御しきれないので魔王と同じように精神汚染が始まった気もするが正直止める気もあんまりない。
「どうして魔王と同程度の能力値で抑えて闘ってた俺があっさり魔王を殺せたと思ってるんだよ」
精神汚染と共に始まった肉体の変化は顕著だった。
まず、手足が鉄の武具では比べ物にならない強度を誇る黒い鱗で覆われた。
俺から視覚する世界がさらに広がり、恐らく眼球は赤く変色しているだろう。
体の大きさは変わらないが、自然への影響を及ぼす魔力が俺自身に影響を及ぼし始め、背中から龍の翼と尾が生えた。
この分では内蔵や代謝も変容し始めているだろう。
「それはヤツに知力がウシなわれてたカらだ」
尋常でない精神力を持っていた魔王ですら、その尋常でない魔力に精神を蝕まれて俺たちがたどり着くまでに知性を失い、破壊衝動でも狂気でもなく、意志そのものが多すぎる魔力に変容させられ、もはや自然の一部となっていたから、簡単に勝てた。
これはこの世界の魔力を持つものに言えることだが、普通の器にあった魔力ならそれこそ代謝と同じレベルで意識しないでも制御出来る。そもそも魔力は器の成長に合わせて、というか魂の器に世界に溢れる魔力が供給されるので器の大きさで多さが決まるものなのだ。魔王だって、突然変異で大量の魔力を集める特性を得てしまったものの、器の成長が吸収する魔力に間に合っていたからこそ今までどうにかできていたのだ。特例として処理しても良いくらいだし、精神が自然の一部と化して暫くたてば肉体も魔力に蝕まれて自然へと還元される。
俺としては、そういう話をしようとしたつもりだが、召喚される前からコミュ障だった俺にはうまく説明できていなかったらしい。
そこそこな研究もして結果も報告しようとしたんだが、なぜか仲間(笑)が回収して破棄していたらしい。
「ハー、ホントウニバカだよなぁ?コイツハちゃんとチュウコクマデしてたってのに」
おっと。先に自然に還元されてた魔王の残留思念を拾っちまった。
この状態になると魔力が全く外へ放出されないから、吹き出た魔力が天災になってるなんてことにはなってないが、魔力障壁の強度が凄まじい速度で強靭になっているのか察しているのか、仲間(笑)が膝を折って泣き始めたよ。周囲の魔力が俺に吸い込まれて激減したせいで気絶したやつらもいるけど、それ以外の奴らは逃げ出すか命乞いを始めた。
「イマサラ命ゴイなんておせぇよ。そもそも俺だって、コノバか魔リョクを人間の領土でブッぱなすために前線にデテタンダ。オレヲタオシタせいで俺の分の魔力マデ吸収したカラ、コイツの意思じゃ止まらねぇよ」
もう大半の意識が失われてるのでどうにもならない。
体も手足からジリジリと鱗が現れていて、後は魂の器にもっとも近い心臓を残して侵食が終わっている。
「カカカ、世界が残って、来世ってモンガアルナラまたあおうぜ?」
◇◆◇◆◇
「おぉ、またここか」
気付いたら『御都合第一主義』を貰ったなにもない白い空間に来ていた。
前の時と違うのは俺が魂の器だけでここにいる点か。
「まったく、君にあげた『御都合第一主義』ならあの状況からでもなんとかなったろう?どうしてそうしなかったんだい?」
いつの間にか目の前にいて、当たり前のように話始めた神様的な何かが聞いてきた。
「まぁそうなんだけどね。けど、あの状況で使ったら俺が精神世界で世界の意志と闘うことに成ってたろうし、そんなことまでしてあの世界を救いたかった訳じゃないから」
それに、いくら俺にとって都合の良い結末を呼び込む『御都合第一主義』でもその結果を構成する要因がないと完璧な結末は呼び込めない。例えば今回の場合だと、俺には及ばないものの自然に還元されるだけの魔力の持ち主が共闘する要因があれば、俺とそいつの魔力が相乗効果で世界の意思から一時的に逃げ出すことができて、精神世界なので融合とか合体とかして世界の意思を吹き飛ばす、みたいな。単独で戦ってたら新しいスキルにゼロから目覚めるという過程を踏まなきゃ倒せないが、発現した能力は必ず敵にとって最悪な相性であることが確定する。
「片方は不可能だし、もう片方はめんどくさい」
取り敢えず、『御都合第一主義』が魔力を物質に変換する能力を発現させたらしいので肉体を新しく構成して試しに動かす。
勇者やってたころとなんら遜色のない肉体な上に、自然から引っ張ってきた魔力で構成しているので魂の器も俺の魔力を受けいられる位になっている。
うーん、多少神様に手を加えられた勇者ボディでも壊れスペックだったのに、こんなんになって大丈夫かな。
「で?わざわざこんな体まで与えてなにさせるつもりだ?」
さっきも言った通り『御都合第一主義』は最低限の要因がないと発動しない能力だ。だから、こんなただの白い空間で発動する能力ではない。あるとすらならば、俺がこの空間から抜け出すために死力を尽くしていたら発動するだろうがそんなことはなかったので、目の前にいる他称神様がなんかしたんだろう。
「いや、君と魔王の能力がさ?思ったよりよくってさー、もう一回行ってくれない?」
「えー」
ふむ、そもそも、どうして他称神様が力使ってまで俺には破格すぎる『御都合第一主義』を、魔王には魔力吸収体質+成長する魂の器+それを扱える体を与えたのかを教えよう。
ぶっちゃけダイエットだ。
正確には世界に満ちすぎた魔力を消化するために、破滅の未来と引き換えで破格すぎるスキルを与えたらしい。
この他称神様はもともとこの世界を統治する神様じゃなかったらしく、このちっぽけな世界では神様の力が行き渡りすぎるのだ。
そのお陰で人類は石器時代レベルの文明でも魔法が絡むことで世界を抑えてるともいえるのだが、そのせいで神様を受け入れる器の惑星に負担がかかって魔物が沸いたり、気候が乱れたり、乱れてるのに無理矢理安定させるから概念的存在が具象化したりと、かなり神様事情的にみっともない世界になっている。
それこそ、元の世界に戻れよって話だが、そもそもこんな世界に来たのはもとの世界の住民に追い出されたのが原因で他称神様がいなくなったから勝手に滅んだ上に、滅んだときの余剰エネルギーが支配者パスを通してこの神様に回ってきたとか、なんとか。
その時まではギリギリ気候が変動して知的生命体を中心とした存在の強化で済んでたのがそれが来てから、気候が壊滅的に乱れて、知的生命体に限らず生態系が超狂化されちゃったらしい。
んで、どうにか手を加えようと弄くってたら更に悪くなって、それを直そうとして更に悪くなっての繰り返しでどうしようもなくなったらしい。
見るに見かねて、他称神様の友達である俺が住んでた世界の神様が異分子にその余ったエネルギーを押し付ければ良いんじゃない?ってことになって適当に俺と魔王が選ばれたんだってさ。
その余った能力で俺と魔王の魔改造が施されて召喚させて今に至ると。
「てか、それを召喚一日目に暴かれるとは思わなかったよ」
「当たり前だろ?そのための『御都合第一主義』だし」
まぁ、黒歴史ノートは作ってないけど黒歴史設定なら考えたことある厨ニ脳みそなんで、最初は召喚されてから王族貴族用の『隷属拒絶』と『洗脳返し』と『状態異状無効』が発現すれば十分かな?って思って、要因ないかなー、って辺りを調べるために『鑑定』を発現させようとしたら規模が違ったんだよね。
うん、『次元解析』なんてもんが発現するとは思わなかった。
勝手に発動し続けて世界を越えた次元を解析し始めたと思ったら直接脳内にその情報を叩き込んでくるもんだから一日は頭痛で苦しむことになった。
その頭痛に次元が広がる度に悩まされるのも面倒なので、解析された情報を他者には見えない本の形に構成する能力をその状態で頑張ってつくってなんとかした。
んで、あの世界の歴史を読んでたら初っぱなから大体の原因はこの他称神様のせいで、魔王も勇者も舞台装置ということがわかり、なんかやる気なくして隷属させて旨い汁を吸う気しかない貴族とか仲間(自称)どもに把握できる程度の情報を流したり、適当に魔物とか四天王とか魔王よか弱い魔神とか自然から出現した神様的なナニカとか四方を司って結界を張ってた守護龍とかを仲間(自称)と貴族と農民と領主(狡い)の懇願(下心ォ)に従って殺したり、倒したり、殺すフリして安全な世界に移住させたり、倒すフリして安全な世界に移住させたりしながら魔王城へ檜の棒よりかはマシな鉄の武具と適当体術で向かってた。
いやぁ、頼んだ能力が『御都合第一主義』みたいな万能な上に全ての面で役立つ便利でチートな廃スキルでヨカッタナー。
「んで、また俺に死んでこいと?」
「いや、どうせ僕の世界の住民はまた新しい勇者を呼ぶだろうからさぁ、その勇者の代わりってことで、お願い」
見た目ショタだからまだましだけどその猫なで声はウゼェ。
それはともかく、この改めて魔改造が施されたコレで召喚されるのはなぁ………………、前以上のヌルゲーになるよ?
「あ、それはね。君に新しく神様的な存在に近い存在になって欲しいのさ!」
「はぁ?」
「言い方を変えれば貯蓄タンクともいう。友達からも改造を施されてる君の魂の器は結構僕から見てもバカに出来ない大きさだ。だから、取り敢えず世界中に溢れちゃってる魔力を吸いとって消化して欲しいんだよねー」
「………魔力って、消化すんの?」
「僕から見たらこの魔力だって消耗品だよ。それに、僕たちは過不足なく惑星を発達させて適当なところで回りに影響を与えないように消えるのが目標なんだ。そうそう消えはしないから不毛なんだけど、やっぱり目標があった方が良い。だから、今のこの状態はとてつもなく恥ずかしい。もとの世界から除け者にされた上に、別の世界に渡りに船で乗っかれたのは良いけど、その世界を多すぎる魔力で暴発間近なんてもう恥ずかしすぎる。とはいえ、回りの連中も事情を知っているから、この方法でどうにかするのも目をつむってくれるさ」
俺はここに来る前に魔改造されまくるから元の世界には帰れない、済まない、的な忠告はされた時には特になんとも思ってもいなかったけど、アレはこっちの世界に完全に適応させるためもあったらしい。
「ってもまたあの召喚陣使う気なのかね?」
あの酷い召喚陣を思い出しながら聞いてみる。
「あんなごちゃごちゃした塵術式でも彼処にはあれしかないし、ごちゃごちゃしすぎて他のやつが解読できないから発展もしないし、そこら辺どうなの?」
俺んときは多分神様の助けもあって成功したんだろうけど、『御都合第一主義』が知らぬ間に補助をかけていたかもしれない。
だってあれ、基本的にオートで発動してんだもん。
「でも僕が手伝うしか無いんだよね。この話をして縁が繋がってる友達の世界から被害者出るし、中断できないから僕が手伝うしか無いんだよね」
「しかも、その友達が縁を切ったら無作為にそこら辺の世界から対象を見つけてミンチにする最悪の魔法だよな」
そうなったらマジで惑星が無くなるので手伝うしかないらしい。
まぁ、『御都合第一主義』だってこの他称神様からすればまさに紙の中の出来事だ。住んでる次元が違うし、登場人物はあくまで人形な扱いで、余波で間違って干渉することはあるけど、意識して手を伸ばすには具象化しないといけないのでしないらしい。
ここだって、他称神様が住んでる次元よりに俺の魂を引っ張ってきただけみたいだし。
「ま!、その体になった時点でもう向こうの世界に引っ張られ始めてるし、頑張ってね!」
「せめて、女子が良かった」
いやマジで。久しぶりの、互いの意見を問い合わせるような会話だし、ぐだぐたした雑談でもあるから。
はぁー、まぁ、しょうがないかー。
既に白くておかしな空間から宇宙的な黒さをもった空間にあるあの惑星へと、懐かしくもない世界へと落ち始めていた。
「じゃ、パシられてやりますか」