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傲慢なお姫様と孤独の少女  作者: 白ヤギ
6/15

6 蒼悶える

 暴走族が来なくなって1ヶ月。あれから平穏な日々が続いている。

あの日以来ハンナのお風呂好きには参ったもの。

ご飯同様何故か一緒に入るのが、ルールになった。まぁお湯の節約にもなるから文句は無いけど。


 ハンナはあの日から、あまり魔法を使わない。困った時はたまに使うが、会った頃のように、なんでも魔法じゃなくなった。

今日も朝早くから、散歩に出て空を光らす。なんか魔力を放出し無いと良くないらしく毎朝空に向かって撃ってるみたい。意外と大変なんだね。たまにプカプカ無意識で浮かんでるし。

何かドタドタ大きな足音が聞こえる。ハンナ、トイレかなぁ……

乱暴に玄関を開け入ってくる。


「蒼! 大変じゃ。芽が出てたぞ!」

「何が大変なのよ? すごく生育良くて、もう収穫出来てるじゃない?」

「違うのじゃ! 蒼の畑の方じゃ!」

「え、嘘? ハンナこれお願い」


 私は作りかけの味噌汁を、ハンナに任せ走り出す。無理なのじゃ〜と聞こえたが、心の中で謝りつつ、無視をした。

ハンナの畑は、ものすごく生育が早く、植えた翌日には芽が出て、すくすく育っていった。もう収穫出来てる野菜まである。

だけど私の方は、相変わらずさっぱりだった。山田さんにアドバイスを貰い、土作りを一からやり直した。


「ほんとに芽が出てる」


 嬉しい。いつもみたいに、しなしなの芽じゃない。青々とした芽だ。

あぁ〜可愛いなぁ。ずっと見ていられる。

寝転がってでも、上からでも下からでもどこから見ても可愛い。風にゆらゆら揺れてる姿も健気だなぁ。

ふふふ。ちょっと離れて見たらどうだろうかな? あ! やっぱり可愛い。野菜界のモデルかも。

また風が吹く。その風に混じってハンナの声が聴こえてくる。


「蒼〜蒼〜早く戻ってきておくれ〜焦げてしまうぞぉ〜」


 あ、すっかり忘れてた。ハンナが風の魔法で声を乗せたんだ。魔法ってほんとに便利。


「ハンナごめん、つい可愛いくて夢中になってた」

「むぅ、早く変わってくれ! どうしたらいいのじゃ? グツグツなっておるぞ? 」

「ぷ...... ぷふふふふふ」

「な、何を笑っておる、早く助けるのじゃ〜」

「ぷぷぷ、ごめんごめん、なんか慌ててるハンナが可笑しくて」

「むぅ! 」

「すぐ変わるよ〜♪ 」

「機嫌よさそうじゃ♪ 良かったのぉ〜蒼」

「あ、うん、ありがとっ」

「じゃあ今晩はお肉じゃ ♪」

「野菜よ」

「むぅ」


 野菜の芽が出ただけでこんなに嬉しいなんて。あ、山田さんのの所へ御礼に行かなきゃ。


「ハンナ、後で山田さんの所に行くけど行くよね?」

「爺の所へ? 何しに行くのじゃ? 」

「ほら、畑のアドバイスもらったし…… 」

「なるほど、もちろん行くのじゃ♪ 」

「いや、なんか1人で舞い上がってたけど、良く考えてたら迷惑よね? 」

「何を言っておる? 喜ぶに決まっておるじゃろ」

「そうかなぁ…… 」

「蒼はすぐ、へなへな虫になるのぉ」

「何よ、へなへな虫って! 」

「蒼の事じゃぁ~♪ 」

「もぉ! 」


 私達は野菜の世話をしてから山田さんのところへ行く。


「ハンナ~? なんかお土産要るかなぁ? 」

「う~む…… 妾達の笑顔があれば充分じゃろ♪ 」

「どこから来るのよ、その自信…… まぁハンナは可愛いけど」

「何を言っておる、蒼も可愛いじゃろ」

「はぁ~、はいはいありがと」


 何を言ってるんだ、ハンナは。私が可愛いわけないのに……


「でもまぁお土産といっても何もないし…… 」

「もぉ! 早くいくのじゃ! 爺達のご飯が終わるぞ! 」

「ハンナ! ご飯が目当てじゃないでしょうね? 」

「な、ななな、何を言っておる、わ、妾は純粋に蒼が心配で」

「じゃあご飯勧められても断るの? 」

「むぅ」


 手ぶらでいいのか不安に覚えつつ、ハンナと山田さんの家へ行く。

一人の時では考えられない事だ。ハンナはルンルン気分だ。

そんなにうれしいなら一人で行けばいいと思うのだけど行かないんだよなぁ~。

私に気を遣ってくれてるんだろうな。


「じぃ~! 蒼と来たぞぉ~ 」

「こら! 山田さんでしょ! 」

「おぉ! 蒼ちゃんとハンナちゃん、今日はどうしたんじゃ? 」

「うむ、蒼がじぃにお礼を言いたくてのぉ。妾は付き添いじゃ♪ 」

「あ、あの、えと…… 芽が出て」

「むぅ、何をもぞもぞ言っておる? ハキハキしゃべらんか、お腹空いてるのかのぉ? 」

「なんだ、蒼ちゃん、お腹空いとるのか? おーい、昼ごはんの用意出来とるかぁ~! 」

「あ、いえ、違います、こらハンナ! あの畑のアドバイスのお礼を言いに来ただけです。ありがとうございました」

「んなこたぁいいんあだよ、それより飯食っていくだろ? のぉハンナちゃん? 」

「むぅそこまで言うなら仕方ないのぉ」

「こら、ハンナ! 」

「じぃが食べてけと言っておる」

「そだそだ、ちょうど鶏〆たとこだ、鶏鍋くってけ」

「うぬ頂こぉ! 」

「あ、ありがとうございます。頂いて帰ります」


 結局ご飯を頂いていくことになる。

それでも山田さんがニコニコ笑っているのを見ると、嫌な気分はしない。

奥さんのご飯は本当に美味しい。

ハンナは無駄に蒼の飯もうまい! と、必要の無いフォローをしてくれているが全然足元にも及ばない。


「肉じゃ♪ 肉じゃ♪ 」

「なんだハンナちゃん、お肉好きなのか? 」

「うむ、蒼が意地悪で野菜ばっかだけど」

「もぉ! たまにはお肉も使ってるでしょ! 野菜は多いけど」

「蒼ちゃん、鶏飼うかい? 卵も産むし、肉も食えるし」

「はぁ~でもまだその、余裕無いですし…… 」

「金の心配ならいい、鶏小屋も村の男たちが作ってやる、遠慮するな! 」

「え、あ、でも」

「蒼ちゃん、もらってあげてよ。主人も喜ぶし」

「蒼! 毎日卵じゃぞ♪ 天国じゃないか♪ 」

「本当にありがとうございます」

「遠慮するな! 」


 山田さんは、頭をグシグシ乱暴に撫でる。

ハンナは妾も撫でろと、頭を突き出してる。

最近は本当に自分の周りで笑い声が溢れている。

自分の周りというか…… ハンナの周りだけど。

それでも私はうれしい。


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