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傲慢なお姫様と孤独の少女  作者: 白ヤギ
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5 ハンナは嘘をつく

「私に誇れるものなんてないよ…… 」

「何を言っておる、この畑や蒼の料理は誇れるじゃろ!」

「畑は枯れちゃうし、それに料理は作っても汚いって言われるし」

「妾は蒼の料理は大好きじゃ! 誰も汚いなんと言っておらぬ! 畑は…… まぁ枯れておるのぉ」

「料理はハンナの事じゃない…… 」

「むぅ蒼の言ってる事は難しくてよぉわからん」


 蒼の話は難しい、今は爺もおらぬし。

妾は考えるのが苦手じゃ。父上からは妾は考える必要ないと言われた。

妾は産まれた頃から姫じゃった。

魔力もあった。人には無い才能もあった。

強い者は考える必要はないとそう教えられてた。

領地を守り、他者から奪う。それが全てじゃと。

でも今は、蒼が言ってる事を少しでも分かりたい、そんな風になんで妾は思うのじゃ。

どうしたら蒼はもう一度笑ってくれるのじゃ。


「妾の言葉が蒼をどんだけ傷つけたかすまぬが想像がつかない」

「ハンナが謝る事無いよ…… 弱い私が悪いし」

「むぅ、確かに妾がそう言った…… 」

「私が弱いのが悪いんだし、むしろ私こそほんとにごめんなさい」


 だからそんな顔をしないでくれ、涙を止めるのじゃ。


「その通りじゃ! 蒼が弱いのがいけないのじゃ! 妾は強い。なのになぜ蒼がそんな顔すると妾は泣きそうになるのじゃ! 心が悲しくなるのじゃ! 」

「違うの、私が泣いてるのはハンナが泣いてるからだよ…… 私が酷い事言って泣かせたんだー!」

「な、何を言うか! 妾は泣いていない! ば、ば、バカなことを言うな! 」

「泣いてるじゃん」

「これは汗じゃ! 」

「嘘つき、泣いてるぅ~! 」


 なんじゃなんじゃ? 妾が泣いてるじゃと…… 嘘じゃ!

さっきから、鼻がつーんとしてるだけじゃ。 

泣いていたとしても、蒼が泣く理由にはならぬ。

今はワーワー泣いて口調も子供っぽい。どうしたら泣き止んでくれる。


 いつも蒼は下を向いておる。

蒼を見てると思いだす。

魔力を制御できず何度も暴走を起こして塞ぎ込んでた妾そっくりじゃ。

妾はどうして今があるのじゃ?

むぅ…… ふむ、母上のおかげじゃ。


「妾がまだ小さい頃、自分の魔力に恐れて塞ぎ込んでた時期もあった、その時母上は妾の手を、こうして握ってくれた。ただそれだけで妾は立ち上がれたのじゃ」


 蒼の手を取り包みこむ。 

蒼が初めてこっちを見てくれた。手の震えも治まる。

なんでこんなことがうれしいのじゃ。

妾は姫なのに…… 蒼は何様じゃ!


「母上は魔法なんてかっらきしで、回復魔法も使えぬ。不思議じゃ。妾が蒼にこんなことをしても意味ないか?妾じゃ力が足りぬか?」

「ハンナ…… ごめん、落ち着いた」

「ほんとに大丈夫か?こう母上はなんかモミモミしてくれたぞ」

「ちょ! ちょっと、痛い、痛いってば」

「蒼はすぐ泣くから妾が鍛えるのじゃ♪ 」

「ハンナだって泣いてたくせに!」

「泣いてなどおらぬ、汗かいてただけじゃ! 」

「ハイハイ、でもハンナ本当にごめんなさい」

「妾も言い過ぎたのじゃ、蒼が笑っておるならそれだけでいいのじゃ」

「ありがと」

「うむ領地を守るのは妾の役目だから気にするな」

「それだけじゃないけど…… あ、ハンナおおむすび食べる?」

「食べるのじゃ♪ 」

「あの、ハンナ手を放して、おむすび取れない」

「むぅ、もういいのか? 遠慮する出ないぞ? 」

「遠慮じゃない。はい、1個ずつ」

「うむ♪ 」

「あ、後でわらび餅もあるよ」

「そうじゃった! 黒蜜というものをかけたらうまかったのじゃ♪ 」

「やっぱり食べてたじゃん」

「…… 食べてない」

「嘘つき」


 うむ、蒼が笑っておる。妾のもうれしい。

妾の力は間違っておったのか?

弱いはずの蒼が、妾に力をくれる。不思議じゃ。

強いとはなんなんじゃ。

もし間違っていたなら妾は姫として…… ふむ、考えてもわからぬ。

まだどうせあっちには戻れないのじゃ。気にしてもしょうがない。


「あ、そうだ。ハンナそんなに泣いたんだからお風呂入る? 」

「むぅ? クリーンじゃダメなのか? 」

「う~ん、お風呂入るのも気持ちいいよ? トイレよりもすごいよ」

「なぬ! なら入ってみようかのぉ…… あと妾は泣いてない」

「はいはい、じゃあお風呂入ってからわらび餅食べよ」

「うむ、一緒に入るのじゃ♪ 」

「え? なんでよ。一人で入りなよ」

「妾は一人で入ったことないのじゃ、よろしく頼むぞ♪ 」

「なんでそんなに偉そうなのよ」


 蒼の家のお風呂からは、悲鳴や笑声が夜遅くまで聞こえてきた。



 蒼の日記 4月○日


今日はいろいろあった。昨日会ったハンナは、ほんとは帰るはずだったのに帰れなかったみたい。

少しほっとしてうれしかった。

それなのに、朝ハンナの魔法で耕された畑を見て心が荒んだ。

そのあとのわらび餅の時も。

でも、山田さんにきっぱりと友達と言ってくれたのはうれしかった。少し恥ずかしかったけど。

それにハンナは私と一緒に食べたほうがおいしいと言ってくれて、わらび餅を持ってきてくれた。


晩御飯の時、暴走族が来た。ハンナとケンカした。

多分原因は、意気地の無い私がハンナを呆れさせてしまった。

そしてハンナに「汚い手」 と言われ、空気を悪くしてしまった。

それなのに、いじめられている時怖くて何もできなかった私が、暴走族のところまで走りハンナを守ろうとしたことにはビックリした。

結局役には立たなかったけど。

ハンナの魔法はすごくて怖かった。

血も沢山出てたし、足もとんだ。

でも怖がったらハンナを傷つけてしまうと思った。

そのあと私自身の言葉で傷つけたのだけど。

ハンナは私の事を『蒼』て呼んでくれる。

決して、「おい」「それ」「あれ」などでは呼ばない。

ちゃんと蒼って呼んでくれてるのに…… 

私は「あんたなんか大っ嫌い」て言ってしまった。

ハンナがとても悲しそうな顔をしてた。

謝ろうとしたけど拒絶されるに決まってる。

私は謝る事無く卑怯にも逃げ出した。

ハンナが戻ってこなくて不安になる。もう会えないかもしれないと……

することもなく部屋の中でただ泣いてる。どうしてもわらび餅が目に入る。

様子を見に行こう。それでも卑怯者の私はおむすびを作り口実を作る。

いつもは簡単に三角になるのに今日は出来ない。

こんなおむすびじゃあ汚いと思われるかも、嫌われたくないと思った。

ハンナのところへ戻ると驚いた。

泣きながら鍬を持っていた。

おむすびを渡したら断られた。

やっぱり、と思って逃げた。

私は逃げてばっかりだ。

逃げたいのにハンナは逃がしてくれない。

ハンナは私の手を誇りだと言ってくれた。

私は何一つ誇れない。野菜は枯れるし、家庭科で料理を作ったときは汚いと言われ捨てられた。

ハンナは勘違いして、料理はおいしいと言ってくれた。畑のほうは正直に枯れてるって言ってたけど。

ハンナはいつもまっすぐこっちの目を見てくる。

そんな目をして私に謝ってきた。嘘を言ってないのが伝わってくる。

ハンナは何にも悪くないのに……

ハンナの涙を見て私はまた泣いてしまう。

ハンナが泣いてるから泣いてるて言ったら、泣いてないと言い張った。

なぜか分からないけど、子供の頃みたいに大泣きしてしまった。

そんな私の手をやさしく包み込んでくれた。

私の心が暖かくなってく。ハンナの優しさだ。

なかなか手を放してくれなくて恥ずかしかったけど。

ハンナの優しさで仲直りできた。

私にハンナみたいな強さや優しさがあればと思う。

そのあとはおむすびを食べてお風呂に入った。

お風呂の事は…… う~んやめとこ。

わらび餅もおいしかった。今度私も勇気をもって山田さんに畑の事を聞いてみよう。

ハンナは泣いてないとかわらび餅食べてないとか嘘ついてた。

でもハンナの嘘は優しい嘘だから好きだ。

私もハンナみたいに強くなりたい。



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