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傲慢なお姫様と孤独の少女  作者: 白ヤギ
4/15

4 ハンナは泣かない

少しだけ残酷な表現はありますが、少しだけです。


妾は蒼を傷つけてしまったのか?

汚い手なんて言うつもりはなかった。

あんな手になるまで、毎日毎日鍬を握ってるのに我慢するじゃと……

なぜ我慢する! 国の民衆もそうじゃ。文句を言ったり嘆いたりするしか出来ない。

なら強くなれと、そう教わってきたのじゃ!

強くなれば自由だと! 強くなれば偉いんだと!

なら簡単じゃないか。出来ないのなら諦めればいいのじゃ!

結局この世界でもそうじゃ! 強くないから蒼はあんな顔をするんじゃろ?

なら悪いのは蒼じゃ、答えは簡単じゃ。

妾は悪くない! 

なのに妾はなぜイライラするのじゃ。


 畑につくと男達が騒いでおる。

こやつらのせいでこんな気分になるのじゃ!


「おい、女がおるぞ!」

「ほんとだ!可愛え~」

「ギャハハハハ、攫っち(さらっち)まう?」

「バカ、ここでしたらいいだろ」

「ギャハハハハハ」


 下品な会話をしてるのぉ~、まるで知性を感じん。

こんな奴に何をビビっておる、数を揃えなくては虚勢も張れぬ下種が。

妾を凌辱するつもりだと…… なるほど、ゴブリン並みの屑という訳か。

屑は屑らしく掃除をしなくてはのぉ……


うぬらはもぉしゃべるな。今から死ぬのじゃ、最後に祈りをする時間をやろう」

「バカかこいつ、顔はいいけど頭おかしい女か?」


 男の声に笑い声が続く。


「ふむ、祈りは、いらんという訳じゃな」

「おい!もうこいつここで犯っちまおうぜ」


なんじらに終わりなき苦痛を与える地獄の門よ、ハンナ・ヴァンデェルの名の元にここに開けよ」

『ヘルゲー…… 』

「ハンナー! 大丈夫?」

「ビックリして、最後まで言えなかったじゃないか、何しに来た?」

「わ、私の畑よ! ハンナには関係ない! 下がってて!」


 何を言っておる、蒼の奴は。

そんな震える手で、しっかり鍬が握れてないぞ、よく見れば足も震えておる。

なんか興醒めじゃ。

ふむ蒼の顔見たらイライラも消えた。

妾の魔法に男達も、本能的に恐怖を感じたのか?


「興醒めじゃ、見逃してやる、今すぐ去れ」

「ちょ! ハンナ!」

「蒼、行くぞ」


 む?なんであいつらは帰らないのじゃ?


「お、おい今の何だった?」

「さぁ、気のせいじゃないか」

「お前ビビったのか?」

「まさか! 女が2人になってむしろ好都合だ」


 は?なんじゃこいつらは?せっかく命拾いしたのじゃぞ。

蒼も蒼もじゃ、こやつも妾の後ろに下がっておれ、弱いくせに。

震えて、立っておるのも限界じゃろう…… 

ふう~馬鹿な奴らじゃ、男の足の前に線を風の魔法で引く。


「その線じゃ、その線を越えた者の脚を切り落とす、命を捨てる覚悟で足を踏み出せ」

「お、おい、なにいってるんだ?あいつは」

「さぁ~頭イカレタ女の言葉なんて真に受けるなよ」

「でもさっき」

「なんだこいつ、びびってるぞ」

「ハ、ハンナ! 逃げよぉ…… 」


 何を蒼はビビっておる。

男達はどうするのかのぉ…… まぁどっちでもいいのじゃが。


「ビビってんじゃねえぞ! 朝まで犯すぞ」

 

 リーダーらしき男が線を踏み越えた、その途端男の脚は宙を舞う。


「うむ、なるほど。部下の前で醜態は晒せぬという訳か」

「ギャアアアアアーあしがぁ&$&'%#%&'%」

「むぅ? 醜態をさらしておる、誇りをかけた一歩ではなかったのか…… 」

「お、おまえひゃ、お、おえのあひ…… たひゅへろ」

「ば、化け物だ、逃げろー!」

「仲間を置いて逃げるか、もう遅い始まってしまったのじゃ、皆殺しじゃ」

『アースハンド』


 地面から伸びた無数の腕が男たちの脚を砕く。こだまするのは男の悲鳴。


「うるさいのぉ」

『サイレント』

「ふむ、後は一思いに殺すだけじゃ」

「は、ハンナ?」

「むぅ? なんじゃ真っ青な顔して」

「何したの?」

「魔法じゃ」

「ちが、あれ治るの?」

「む、すまぬ知り合いがおったのか? 妾の早とちりか?」

「いないけど! 治るの!」

「むぅ?いないのか、なら安心せい、今片付ける」

「治せるか聞いてるの!」

「何を言っておるのじゃ、治せるけど奴らは、妾達を凌辱しようとしてたのじゃぞ? それが無くとも蒼も困っておったじゃろ」

「そうだけど、治せるなら治して! 今すぐに!」

「むぅ、妾は警告もした。覚悟を持って命を懸けたのじゃ」

「そんな覚悟、あんな奴らにあるわけないでしょ!」


 むぅ、何を言っておるのじゃ。よく分からん…… 

まぁよい。


「お前達、今から治してやる、誰か奴の脚を持っているのじゃ、急げよ」


 ふむ、恐怖で動けぬか、でも妾はあんな物持ちたくない。困ったのぉ…… 脅すか。


「お前、今すぐ奴の脚を持て、さもなければ首を飛ばすぞ、妾も死を生に戻す事は出来ぬぞ」


 うむ、ようやく持って来たか。何を震えておる。

自分らが覚悟を持って起こした行動の結果じゃろ。くだらぬ。


『ヒールサークル』


 うむ、切り離した脚も繋がったのぉ。

他の奴らも概ね治ったじゃろ。

ついでに記憶の改竄もしておくかのぉ。逆恨みは怖いしのぉ。

まぁ、こんな奴ら束になっても妾には傷つけれぬが、蒼もおるしのぉ。


『メモリークラッシュ&マニピュレイト』


 帰って行ったか。これで良し。

これで記憶は壊したし、街まで帰るように命令したから大丈夫じゃろ。

ただしこの山に近づけば恐怖がよみがえるじゃろ。

もう2度とここへは来れぬだろう。


「何したの今?」

「蒼が言った通り、治して帰したのじゃ。あとは記憶を壊して街に帰した」

「そーなんだ、怪我は無い?」

「あるわけないじゃろ、それより蒼は何しに来たのじゃ? 自分で家におると言っておったじゃろ」

「そうね…… 」

「結局来ても、何にも役に立たなかった訳じゃ。むしろ弱いのなら邪魔になるだけじゃ」

「ごめん…… 」

「ほんとじゃ、妾は強いのだから邪魔を―」


 パシッ

なんじゃ?頬が熱い、叩かれたのか?


「よ、弱かったら受け入れなきゃいけないの?」

「何を言っておる」

「弱かったら悔しく思ったらダメなの!」


 何を怒ってるのじゃ?まぁしかし

 パァン


「やられっぱなしは性に合わん、これでお相子(おあいこ)じゃ、飯に戻るぞ」


 むぅ?泣いておるのか、そんなに強く叩いてないぞ?


「すまん、痛かったか?」


 蒼の肩に手をやる。その手は振り払われる。


「触んないでよ! 汚いんでしょ!」

「何を言っておる…… 」

「ハンナなんかさっきのあいつらと変わらないわよ!」

「だからさっきから何を言っておる…… 」

「弱くて悪かったわね! 好きで弱いわけじゃないのに…… あんた(・・・)なんか大っ嫌い!」

「何を言っておるのじゃ…… ほんとに分からぬ、教えてくれ蒼」

「勝手にしてよ!」

「蒼…… 」


 なんでじゃ?なんで蒼は泣いておったのじゃ?

なんで妾を置いて走って家に戻ってしまったのじゃ……



 妾は強くなって国を守れと、民を豊かにするため隣国から全てを奪えと、それしか教えてもらっておらぬ。

言われた通りにしたのじゃ。蒼の領地を守ったではないか……

何も間違ってない、妾は強い。


 蒼は弱いから泣いておったのじゃ……

それでも弱いくせに、震えながらも、妾を守ろうとしてたのか?

なぜじゃ、分からぬ。妾は強いはずじゃ……

なのに妾の目からは涙が出ておる。

父上は言っておった。泣くのは弱い奴がする事だ。

妾は歴代最強じゃ! 龍殺しじゃぞ、なのになぜ涙は止まらぬ。


 なぜ涙が出るんだ、以前は母上が死んだからじゃ。それは分かる。

では今回は何でじゃ?

頬を叩かれて痛いからか……

大っ嫌いと言われたからか……

それとも、蒼にあんな顔をさせてしまったからか……


 分からぬ、分からないことだらけじゃ。


 足元に目をやる。

蒼が耕してた畑…… ゴミだらけじゃ。

今朝はゴミが無かったのぉ……

昨日は大雨だっらから。

ではそうじゃなかった日はどうだったのじゃ?

どんな気分であの暗い部屋で一人我慢して、夜眠り、朝を迎えたのじゃ?

分からん…… 妾なら殲滅して終わりじゃ。

家には戻れぬし、ゴミを処理するか…… 

魔力が乱れる…… 空間魔法が使えぬ。

妾は弱いのか? まぁよい。

手で拾うかのぉ。ライトボールくらいなら使えるか。

魔力がうまく練れぬ。

蒼と出会ったとき、あんな真っ暗の場所で掃除をしていたのぉ。

怖くなかったのか?弱いくせに。強さとは一体何なのじゃ。


 ふむ、手で拾うのにはなかなか大変じゃ。

でもゴミがあれば、明日蒼が見たら悲しくなるじゃろ。

ゴミが無ければうれしくなるかのぉ、妾の事見たら…… 悲しくなるのかのぉ。


 何をぐじぐじ悩んでおる。今は拾うのじゃ。

中々綺麗になったぞ、あと少しじゃ。

うむ、綺麗になった。


 蒼の奴大切な鍬忘れておるのぉ。

むぅ、中々重い。こんな思いで耕していたのか。

妾は魔法で一瞬でやってしまった。どんな気持ちで横にいたのじゃろ……

こんな苦労して耕した畑の、枯れた野菜を見たときは、妾は何度もあきらめずにいられるのか。

痛!少ししかしてないのに、もう手に豆が出来たのか。

情けない。


 おかしくなったのは、妾が蒼の手を汚いと言い放ったからか。

そもそも蒼は臭くもないのに、やたら気にしておる。

妾は言ってしまったのか。でも、あんな手になるほど頑張った畑じゃないのか。

あの手は誇りじゃろ。

妾は蒼に、この畑は大切だと思ってほしかったのか?

何にもわからん! なぜ爺はおらぬ! この大事な時に!


 む、誰かおる、蒼なのか?怖くて声もかけられぬ。

妾のところに来てくれたのか?


「ハンナ…… ごめんなさい。せっかく助けてくれたのにひどい事を言って」

「蒼、その、話しをきい」

「あの!おむすび、ここに置いていくから、その、布団も用意しておいたから」

「いらぬ!」

「あ、そか、でも手は洗ってから作ったよ? でも、汚いよね、ごめんね」


 蒼が行ってしまう。すごく泣いてた顔をしてた。

このまま行かれたらもう二度と戻れない気がするのじゃ。

急いで蒼の手を持つ、違うのじゃ。

蒼の手は震えておる。

料理が上手なはずなのに、おむすびとやらも形がいびつじゃ。

蒼は勇気を出したのに妾は怖いままじゃ。


 言葉が出てこない。蒼に誤解されたままなのが怖い。

いや誤解じゃない、妾自身が蒼を傷つけたのじゃ。

頑張ろうとしたのに、役立たずじゃったといった。

弱いから我慢しろと、戦えないなら震えていろと。

蒼を泣かしたのは奴らではない、分かっておる、だけどそれを認めるのが怖い。



 妾は分からない。強いのか弱いのか。

強くないなら妾はどうしたらいいのじゃ。

何も無い。

 

「違う! 手が汚いなんてことはない! この手は誇りじゃ。ご飯は一人で食べても不味いと言っておる、一緒に食べてくれ! 一緒に」


 それしか言えぬ。声が続かぬ。


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