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傲慢なお姫様と孤独の少女  作者: 白ヤギ
3/15

3 蒼とハンナとわらび餅

「むぅ、何か怒っておるのかの?」

「怒ってないよ、力入れてるだけ」

「ふむ、そうか」


 ハンナの気遣いが私の、卑屈な私の心には眩しい。


「ふむ、暇じゃのぉ」


 暇と言われても…… ハンナって日本語しゃべってるし本も読めるのかな?

目の前であんな風に、一瞬で耕されたら魔法を信じるしかないのかもしれない。

私は声をかけようと、ハンナのほうに振り返る……


「え…… ? なんで(ちゅう)にに浮かんでるの?」

「妾ほど体内に魔力を宿しておるとたまには消費しないといけないのじゃ」

「だからって、なんでプカプカ浮かんでんのよ」

「これが気持ちいいからじゃ~♪ なんだ、蒼も浮かびたいのか?」

「私はいいよ、それよりハンナ本読む?」

「ちぇ、浮かんでいるだけで気持ちいいのじゃぞ? 本は翻訳魔法をかけてるから読めるのぉ」

「じゃあなんか読む? 持ってくるけど」

「読むのじゃ読むのじゃ、妾も一緒に行って選ぶのじゃ♪」


 やっぱり今まで退屈だったのかな?うれしそうだ。

ラジオと本しか娯楽無いから、ハンナが好きそうな本があるといいけど…… 


「ここにある本だけどなんかいいのある?」

「ふむ、なんじゃこれは!紙もすごいがなんとも綺麗な絵なのじゃ!」

「それは絵じゃないよ、写真だよ」

「しゃしん? なんじゃそれは? ふむ…… む!これには野菜と畑のしゃしんが沢山載ってるぞ」


 写真の説明なんて、出来ないなぁ…… まぁ興味が野菜にいったからいっか。


「畑で野菜をしっかり育てる為に買ったんだけど…… まだうまくいってないけど」

「妾はこれを読むのじゃ♪」

「え? そんなの読んで楽しい? まぁいいけど」

「きっと楽しいのじゃ」

「じゃあハンナ、大人しくここで本読んでてね」

「むぅ、妾も畑に行くのじゃ」

「え? まぁいいけど…… 私あそこでまだ耕すよ?」

「それでもいいのじゃ、行くのじゃ行くのじゃ♪」


 外で本読むのが好きなのかな?

でも一人でやってた時よりも、私はハンナがそばにいてくれるだけでうれしい。

今日のハンナのお昼ご飯は、豪華に作ってあげよう。


「何をにやにやしてるのじゃ? 」

「な、なんにもない!」

「そんなに大きな声出さなくても聞こえるのじゃ。変な奴じゃのぉ~」


 私は相変わらず、畑を耕す。何がいけないんだろ、うねなのかなぁ?

耕して、畝を作って、種を植えて、枯らしての繰り返し。

近所の人達も気になるのか、ちょくちょく見に来るがつい私は逃げてしまう。


「ふむふむ、土を耕したら畝を作るのじゃな」


 ハンナは本を読みながら、一人ぶつぶつ呟いている。

私は私で相変わらず鍬を振り続ける。



 ふぅ~もうそろそろお昼だね。


「ハンナ、ご飯食べよっか」

「む♪ 食べるのじゃ♪」

「あ、猫がいる」

「む?食べるのか?」

「食べないわよ…… 食べた事あるの?」

「あるわけないじゃろ、馬鹿者。 あ、猫がいる なんて急に言うもんじゃから、蒼が食べたいのか思ったのじゃ」

「そんなわけないでしょ!」

「なんじゃ、紛らわしいのぉ」


 こんなくだらない話を、同年代の女の子と話したのって久しぶりだなぁ。

家と畑、そんなに距離は無いけどただ歩きながら話すだけで、こんなに楽しいなんて。

なんかハンナには、あんまり怖がらずしゃべれる。友達って言ってくれるし。

嫌われたくないな。


 家につき、冷蔵庫を確認する。鶏肉と卵2個かぁ。

豪華に作るって言ってたのに、あんまり材料ないよね。でも頑張ろう。

ハンナのほうを見ると、まだ本を読んでる。

大人しいうちに作っちゃお。


「ハンナ、出来たよ。本は片付けて」

「む♪ おぉ、なんか豪華じゃ♪」

「うん、双子目玉焼きと鳥の照り焼き。畑作ってくれたお礼、ありがとね」

「気にしないでよい、ではいただきます」

「いただきます」

「む? 蒼はそんだけなのか?」


 私のほうは、朝ほとんどハンナが食べなかった朝ご飯を、レンジで温めたもの。


「ん? そうよ」

「ふむ…… むぅ、むむむむむ」

「なに? どうしたの?」

「むぅ! 全部食べたいけどこの目玉焼きと鶏肉、半分こにするのじゃ」

「いやいいよ、畑頑張ってくれたでしょ」

「一人で食べてもおいしくないのじゃ! 朝も、そう言っただろうに」

「そっか…… ありがと」

 

 私は半分に切り分け、自分は器が小さいなぁと思う。

そんな発想すらなかった。きっとハンナの立場だったら何も気にせず食べてたと思う。


「ごめん、お待たせ」

「ふむ♪ 食べるぞ、む! なんじゃこれは」

「だから鶏肉よ」

「うますぎるのじゃーーー♪」

「大げさな」

「ほんとじゃ! うますぎるのじゃ!」

「もぉ照れるからやめて!」

「何をにやにやして怒っておるのじゃ、気持ち悪いぞ」


 一瞬気持ち悪いと言われて、表情が曇る。

ハンナには悪気がないと思うまで、間が出来る。

少しだけ変な空気が流れる。


「どうしたのじゃ? お腹痛いのか?」

「ごめんごめん、考え事してた」

「ふむ、変な奴じゃ、御馳走様でした♪」

「御馳走様」


 ハンナも食器を片づけるのを、当たり前のように手伝ってくれる。


「お昼も畑かの?」

「そうね、少し休んでからまた畑」

「む? 誰か家に近づいてくるぞ」

「なんでわかるのよ?」

「そりゃ探索魔法に決まってるじゃろ」

「決まってないわよ…… 」

 

 きっとハンナの魔法は本物みたいだから、多分誰かもうすぐ来るみたい。

近所の人かな。少し憂鬱になる。


「蒼ちゃーん!」

「む、呼ばれておるぞ?」

「はぁ~ ちょっと行ってくる」


 この声は山田さんだ。一番私の事を心配してくれてる、お爺ちゃんだ。


「はい、今開けます」

「おぉ! 元気にしとったか? これ、うちで採れた米と野菜、卵や鶏肉だ、置いていくぞぉ」

「い、いえ、その、困ります」

「遠慮なんかしなくてええ! それと最近は物騒な奴うろついとるみたいだが大丈夫か?」

「いえ…… 」

「本当に大丈夫か?危ないならちゃんと言うんだぞ!」


 こんな親切、されても困る。私は何も返せないのに。


 物騒って言ってるのは、きっと暴走族の事かな。

晴れてる日の夜は、たまにこの山を走りに来る。

私の畑のそばを、彼らは溜り場にしてるみたいだ。

家が山の一番下にあり、町へ買い出しに行ったりするのが便利なためだと思う。

ここの家はずいぶん空き家だったし、バイクの音が聞こえたら電気を消して息を殺す。

多分まだ見つかってないから、翌朝ゴミを片づけるだけだし、問題はない。

変に相談して、心配されても困る。


「蒼、誰じゃ?」

「ハンナ!来なくていいよ」

「なんでじゃ?蒼の客なら妾の客でもあるじゃろ?」

「無いわよ!」

「わっはっは、蒼ちゃんも元気にしゃべれるじゃないか! してその綺麗な女の子は誰だ? 蒼ちゃんと顔が似てるから、親戚の子かなんかか?」


 確かに、ハンナは綺麗。笑ってる顔もすごい可愛い。

本当に絵本にいるお姫様みたい。

私はあんな顔で笑えない。それに私に似てるなんて、そんなわけないじゃん。


「あ、ハンナは…… その…… 」


 なんて紹介したらいいんだろ。親戚って言ってるし、親戚でいいかな?


「友達じゃ! 妾と蒼は友達じゃ♪」

「ほぉ~蒼ちゃんにもこんな元気な友達がいるんだなぁ~」

「うむ、ところで爺はいったい誰じゃ?」

「ばか! 山田さんよ、失礼でしょ」

「蒼ちゃん、いいっていいって、わしはもう少し上のほうに住んでおる『山田権三郎』 みんなには、権爺と呼ばれておる」

「ふむ、して権爺よ、何しに来たのじゃ?」

「なーに、うちで出来たもんを、蒼ちゃんにお裾分けに持ってきたのに受け取らんのだ。ハンナちゃんからも言ってやってくれ」

「なぬ♪ これをくれるのか♪ 蒼、やったではないか!」

「ハンナは黙ってて」

「何を言っておる♪ 権爺! 奥へ運ぶのじゃ♪」

「おぉ! 運ぶのじゃ運ぶのじゃ」

「ちょっと、その困ります、何も返せないですし」

「蒼ちゃん、気にしんでいい、わしが好きでやってるんだから」

「そんなこと言われても…… あのお金持ってきます!」

「蒼、爺は要らんと言っておる。ラッキーじゃな♪」

「そうだそうだ、ラッキーだ、蒼ちゃんお金は要らないよ」

「ありがとうございます…… 」

「蒼ちゃん、ハンナちゃん、うちのやつがわらび餅作ったから食べに来んか?」

「なんじゃ?わらび餅とはなんじゃ?」

「なんだ食ったことないのか? つるつるした食べ物でうまいぞぉ~」

「なぬ! うまいのか! 行くぞ~ 蒼も行くじゃろ♪」

「ごめんなさい、お昼から用事があるので、ハンナ一人で行ってきて」

「なんじゃ用事って?」

「蒼ちゃんは来ないのか?」

「ごめんなさい」


 私は逃げるように鍬を持ち、畑へ走り出す。

私ってホント嫌な奴だよね。あんなにハンナうれしそうにしてたのに……

山田さんもいい人なのに、そんな事分かっているのに。 

朝はハンナがいた分、いつもと違って楽しかった。

それが一人になった途端、また憂鬱な気分になる。

昨日まではこれが普通だったのに。

風や物音が鳴るたびに振り返ってしまう。

ハンナは今頃楽しくわらび餅を食べてているはずがないのに……

こんな気分になるくらいなら、最初から行けばいいのに。

でもそれが出来ない……


「何を暗い顔しておる?」

「え…… ハンナ、なんでいるの?」

「む? 爺に言って持ち帰らせてもらった、一人で食べてもまずいと、何でも言っておる!」

「…… 口のまわり黄粉きなこついてるよ?」

「なぬ! 拭ったはず…… ちがう!一人で食べてなどない!」

「うそ」

「ほんとじゃ!」


 ハンナは優しい。きっともといた世界でも、みんなに好かれてるのかな?

私…… 嫉妬してるのかな。ハンナの性格に。


「ハンナ、ありがと…… 」

「うむ! もっと褒めろ褒めろ♪ れーぞうこ(・・・・)に入れておけと、爺が言っておったぞ」

「もぉ、山田さんでしょ! 爺じゃない」

「爺でいいと言っておったのじゃ♪ 」


 ハンナはすごいなぁ。


「じゃあ冷蔵庫に入れてきて、分かる?」

「任せておけ、子供じゃあるまいし心配するな♪」


 それから夜まで、畑を耕す。

ハンナが横にいるだけで、凹んでた私の気分は晴れていく。

だけど、夜ご飯を作る時ふと思う。昨日雨降ってたし今日は暴走族来るかも。

本当に嫌な奴らだ。力があるからって何をしてもいいのか……

関係のない私にこんな嫌な気分になることをするんだろう。

そんなことあいつらは考えないんだろうな。


 でもまだ来るって決まったわけじゃない。

考えないようにしよう。

夜、ハンナとご飯を食べる。今回は、お昼もらった野菜で野菜炒めを作る。


「ハンナ、ご飯出来たよ、あとでわらび餅食べよ」

「うむ♪ 妾はお肉が好きじゃ♪」

「お肉無いわよ」

「なぬ! 爺にもらったじゃないか!」

「だからもらった野菜で野菜炒め作ったでしょ」

「むぅ」

「明日お肉食べたらいいでしょ」

「うむ♪ しかしなんか大きな音が聞こえてくるけど何の音かのぉ?」


 多分暴走族だ。

ハンナが言うなら間違いない。


「悪い人達よ、でも殴ってきたりするわけじゃないから少しの間、電気消しておけばいいから」

「なぜ蒼が我慢するのじゃ?」

「そんなの、酷い事されない為にでしょ!」

「電気を消しておけば何もしないのか?」

「畑を汚すだけよ! でもどうせ枯れちゃうんだし…… いいのよ」

「ほんとにいいのかのぉ?」

「いいって言ってるでしょ! 電気消すから」


 バイクの音は近くに来ている。

今日も畑の近くでバイクを止めると思う。

電気を消したいのにハンナが絡んでくる。

ハンナは知らないから、暴走族は怖いし理不尽だ。

迷惑だからやめてくださいて言って、帰ってくれる相手じゃない。

私は電気を消す。外に光が漏れぬよう、いつも通り豆電球だけにする。


「妾には分からん、そんなに悔しいのならなぜ戦わん?」

「悔しくないわよ!」

「声が大きくなっているぞ? それに力強く茶碗を握っておるのにか?」

「どうせ行っても酷い目に遭うだけなのよ! なら我慢するしかないでしょ!」

「ふむ、最初から諦めてるなら、悔しがる必要もあるまい」

「え?」

「わからんのぉ~怖いから、弱いから戦わない、なら従うしかないじゃろ? 妾の国でもそうだった。全く意味が分からん。分かっておるなら最初から我慢しておけというのじゃ」

「なんなのよ、さっきから」

「弱くて怖いなら、しょうがないじゃろ」


 私は何も言い返せない。ハンナは怒ってるのかな?

でもハンナは分かってない、強さは理不尽だ。弱者の言い分何て聞くわけないのに。

それにいくらハンナが強いっていっても、あいつらには無理だよ……

何人いると思ってるの。


「なんじゃ? 何も言い返せぬか、そんな汚い手(・・・)をしておる奴、妾の使用人にもいなかったぞ」

 

 汚い…… そうだよね。手を洗ってこよう。


「む? どこに行くのじゃ?」

「手、洗ってくる」

「ちがっ、妾はそんなつもりじゃ…… 」

「いいよ、別に」

「なんじゃ、その言い方は…… もぅ知らぬ! 蒼はそこで震えておれ! 妾が作った畑まで汚されたらたまらんからのぉ」

「好きにしたら…… 」


 ハンナは私の事なんて見ないで、外へ出て行った。

ハンナにだけは、あんなに嫌われたくないと思っていたのに……



 でも、なんで? 勝てるわけないじゃん。それなのに戦わなきゃいけないの?

じゃあ高校であんな事されたのも、私が戦わなかったから?

あんなことした奴は戦ってたの?

ハンナにはわかんない!

一回現実をみたらいいんだ……

きっとあんな人達に関わったら、酷い目に遭うのに……

まだ会って1日だよ…… 関係無いじゃん。

机の上にはハンナが嬉しそうに持って来たわらび餅がある。

だから何? もう知らないってハンナも言ってたじゃん。

もともと他人なんだし、ハンナの性格見て心もざわつくのに、なのになんでだろう。

なんで私は鍬なんか持ち出して、外へ行こうとしてるんだろう。

何がしたいのか分からない…… 


双子目玉焼きは、卵2個の目玉焼きです。

1つの卵の中に黄身が2個のやつではないです。

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