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傲慢なお姫様と孤独の少女  作者: 白ヤギ
2/15

2 蒼、ハンナと畑を耕す 

「はぁ~」

「むぅ、なんの溜息じゃ?なあに魔力が馴染めばすぐに帰る、安心するが良い」

「はぁ~まぁいいけど」


 ハンナはまだ帰らないみたいだ。

迷惑のような安心したような…… 

とりあえず一度家に戻り朝の支度をしよう。


「ハンナ、朝ごはんは食べる?」

「うむ、頂こう♪」

「分かった、とりあえずおとなしく待ってて」


 また昨日と同じご飯・みそ汁・漬物でいいかな?朝だしね。

私は手慣れた手つきで朝ご飯を作る。

父子家庭だった私は18歳にしては料理が出来るほうだ。

ハンナがおいしそうに自分のご飯を食べてくれた光景を思い浮かべる。

自然とほほが緩む。


「蒼~!トイレはどこにあるかのぉ?」

「ん、そこのドア」

「…… なんなんじゃこれは!変な椅子があるだけだじゃ!」


う~ん、本当にハンナは、自分で言う通り異世界人なのだろうか?


「これはこうやってするの、用を足したらこのボタンを押すと水が出る」

「なんで水が出るのじゃ?」

「それは… その… いろいろなところに水をかけて洗うのよ」

「むぅ?色々な所?」

「もぉ!やってみたらわかるわよ!びっくりして立ち上がらないでよ!終わったらそこの紙で拭いて、ここをこうしたら水が流れてトイレが綺麗になるから」

「ほぉ!すごいものだな!さっそくやってみる♪」

「ドア閉めなさい…… 」


「ひゃぁ~なんじゃこれは♪」


 もぉ、イチイチ感動してるなぁ。

向こうではどうしてたんだろ…… て、異世界人なんているわけないよね。


「ふむ、中々のものじゃった。妾の城にもほしいのぉ~」

「あげないわよ…… 」

「分かっておる!む?いい匂いじゃ♪」

「はい、出来たわよ、自分で運んで食べてね」

「うむ♪」

「食べ終わったらまた食器はそこに入れといてくれていいから」

「なぬ?蒼は食べないのか?」

「あ、うん。私はもともと朝を食べないの」

「ふむ、そうかそうか、して今からなにをするのじゃ?」

「畑を耕して野菜造りをしてくるの」

「ほぉ精が出るのぉ~。む?これは妾の飯のお礼じゃ、受け取れ」


ハンナは豪華そうな首飾りを外して私に渡してくる。


「こ、こんな高そうな物もらえないよ!」

「ふむ、妾の首飾りは粗末な物(・・・・)じゃないぞ♪」

「見たら分かるわよ、だからもらえないって言ってるの」

「何を言っておる?蒼の作るご飯もまた、粗末な物じゃないだろうに」


私は顔が熱くなるのを感じ俯いてしまう。

ハンナはなんでこんな事を簡単に言えるんだろう?

そして私はいつから人に対して、素直になれないのだろうか……


「何を顔を赤くして止まっておる、ほれ受け取れ」

「あ、その、ありがとう」

「うむ、では妾はご飯を食べるでの、いただきます」


そこは、「いただきますのじゃ」じゃないんだ。

ありがとうは首飾りだけじゃなく、ご飯のお礼の事も入ってるけどやっぱり言えない。

私は受け取った首飾りを大切にタンスの中にしまっておく。


「じゃあ私は畑のほうに行っているから」

「ふむ」


私はジャージに着替え外に出る。

土間に置いてあるくわを持ち出し小さな畑へと行く。


一つ溜息を吐く。

肥料をあげても、耕してもやっぱり野菜は枯れてしまう。

何がいけないのか分からないが、とりあえず何度も何度も耕す。


「のぉ蒼?」


突然声をかけられ驚く。

私が畑について時間はそんなにたってない。


「もう食べたの?」

「違うのじゃ、昨日はあんなにおいしかったのに一人で食べてたらあんまりだったから…… 」

「え!ごめん?まずかった?」


私は不安になる。私が何か間違えたのかも。

ハンナ怒ってないかな?嫌わないかな?


「そんな顔をするな違う、味は美味しいのじゃが、その、なんかつまらんくてのぉ」

「え?」

「むぅ!一人でご飯を食べてもおいしくないのじゃ!」

「えーと、じゃあどうする?」

「蒼はいつ食べるのじゃ?」

「いつもはお昼だから…… もう少し後かな」

「妾もそこで食べる♪」


ハンナといると、調子が狂う。

お父さん以外で私にこんなことを言ってくれる人はいなかった。

今も嬉しそうな顔をしている。


「妾も畑手伝おうかのぉ」

「え?でもそんな服じゃあ出来ないよ?汚れるし」

「このドレスは魔法がかかってるから汚れないぞ?」

「はいはい、着替えなさいね」


 全く、まだその設定は続くんだね。

家に戻り、朝ご飯を一度冷蔵庫にしまった後私と背丈がほぼ同じハンナに着替えを用意する。


「ふむ、着替えるなら蒼、これにする♪」


ハンナを見ると、壁にかかっている私の制服を指している。


「それはダメ!」


思った以上に大きな声が出た。

ハンナが選んだのは壁に掛けてある制服だった。

家を引っ越したあとも何故か捨てれず昔と同じように壁に掛けている。

二度と着る事無いのに結局縛られている…… 


「む?すまん、大切な物とは知らなくてのぉ…… 」

「あ、違う、そのそれ、あんまり外に来ていく服じゃないから」

「む?そうなのか、知らなかった」

「下着は新しいのあるから、ジャージは…… これ洗ってるから汚くないから… 」


ハンナがなかなか受け取らない、やっぱり汚いのかな…… 臭いのかな……


「蒼?何を下見ておる?妾はもう脱いだぞ?はよ着せてくれ」


え?意味が分からなく顔をあげると全裸のハンナが目の前にいた。


「な、な、なんで全部ここで脱ぐのよ!」

「何を言っておる?着替えるためだろぉ、はよ着せてくれ」

「いきなり裸にならないでしょ、普通は!」

「む、何を言う、蒼が下ばっか向いてるから頑張って一人で脱いだというのに」

「確かにそのドレス一人で脱ぐのは大変そうだけど…… 私は服受け取らないから、嫌なのかなと思ったの」

「脱いでからもらうのが当たり前じゃ。それになぜ嫌がる?」

「汚いとか、臭いとか思われてるのかなって思ったの…… 」

「む?蒼は臭くもなければ汚れてもおらぬぞ?何を言っておる、それより早くそれを着させてくれ。」

「一人で着れない?」

「うむ、着せてくれ。初めて見る服だしのぉ~♪」


なるべく目を瞑り、私は無心で服を着せた。

別にいいんだけどなんだか恥ずかしい。


「今度からは一人で着替えてね」

「うむ、これなら妾も一人で着れそうじゃ♪」

「はぁ~当たり前でしょ、じゃあ畑行くから」

「うむ♪」


余計な時間を使ったがが別に問題はない。

もともと予定のある生活をしているわけじゃないしね。


「のぉ蒼?ここら一帯を畑にするのかぇ?」

「う~ん、その予定だけどまずはここをやるの」

「ふむ、ならこっちは任せておけ♪」


そこは蒼が約1年もかけて耕している畑を、ゆうに10倍は軽く超す手つかずの場所だ。


「ふむ、土の精霊と木の精霊も問題ないのぉ、これなら簡単じゃ♪」


蒼がハンナを見つめていると、手を地面につけ強く光った後、勝手に土が耕され、大きな石や邪魔な木なども、一瞬のうちに消え去る。

私がここを耕すのに、1年はかかってるのに。


「何をしたの?」

「ふむ、驚いたじゃろ、精霊の力を少々借りての。む?そっちの畑も耕すのか?」

「耕すけど…… ここはいい」

「む?なぜじゃ?妾がやればすぐじゃぞ?」

「そうかもしれないけど、ここは自分でやりたいの」

「そんなもんかのぉ…… 」


 私は元々少ない自信を無くす。

私は鍬を持つ手に力を込めるが馬鹿らしくなってくる。

またハンナに対して苛立ちを覚えている自分に嫌になる。

ハンナはただ親切にしてくれただけなのに……

それでも自分の弱さがこんなところでも、実感するなんて。


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