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傲慢なお姫様と孤独の少女  作者: 白ヤギ
15/15

15 蒼は走る

 自分達の上にある崖が崩れ始めてもうダメだと思った。

恐怖で目を瞑る。最後にハンナに会えたし、十分幸せだった。

ハンナは大丈夫かな? 苦しそうだったけど……責任だけは感じないで欲しいな。

何? 突然浮遊感が襲う。

恐る恐る目を開けると……山田さんの家の前だ。

何が起きたんだろ……山田さんも横にいるし……

ハンナの魔法のおかげ?


 あれは……山田さんの奥さんだ。

まだ探してるんだ、当たり前よね。

「奥さーん! ここに山田さんいます」

「蒼ちゃん、本当かい? 蒼ちゃんが運んできてくれたの?」

「あ、いや、ハンナが……あれ? ハンナ!」

 

 自分達がここにいるんだから、当たり前のようにハンナがいるものと思ってた。

辺りを見回してもいない。奥さん達に山田さんを任せてハンナを探す。

やっぱりいない……もしかしたら私達を魔法で飛ばすのが限界だったのかもしれない。

ハンナはまだあそこで一人でいるんだ。

もし私が山田さんのところにいかず、ハンナを信じていれば負担が少なかったのかも。

私はいつも馬鹿だ。

ハンナは本当に辛そうだったのに、私はそんなハンナに……

ハンナのところへ行かなきゃ……

でももしハンナが倒れてたら、私一人では結局運べない。

周りを見ると、山田さんが見つかり、みんな家へ戻って行ったり山田さんに付き添ったりしてる。

何時間もこの雨の中で探したのかな……きっと疲れてるんだよね。

……なんで私は頼む勇気が出てこないんだろ、こんな場所で泣いてて声を掛けられるのを待っている。

なんて自分は卑しい人間なんだろう。

本当は自分が山田さんのところへ行けば、ハンナが魔法を使ってくれることを期待してたのに。

また今も……でも今からでも。


 誰に頼めばいいんだろ……いつもなら山田さんか奥さんにだけど今は無理。

今更ながら、自分が話しかけれる人がいないことに気がつく。

いつも自分は待ってるだけだった。それなのに今日のお昼もみんな心配してきてくれて。

ほんとに狡い、今も頼む時だけ話しかけて、人を利用してばっかりだ……

それでも今はハンナを助けなきゃ。


「すみません……」


 蒼の小さい声は、風雨に掻き消され誰も気がつかない。

それでも蒼は声を掛ける。


「すいません!」 

「ん? どうしたの蒼ちゃん、蒼ちゃん達が権爺見つけたんだってね

 そんなビショビショになって。早く家に帰って暖めなきゃ風邪ひくよ?」

「あ、あの、ハンナがもしかしたら……その、倒れてて……運ぶのを手伝って……

 欲しいんですけどお願いできませんか?」


 無理かも……こんな私が頼んでても。

きっと疲れてるし。

ハンナが来る前は、付き合いも全部断ってたし虫がいいのは分かってる。

ダメだ、泣いたら狡いって分かってても今までの自分がどんだけ愚かだったか考えると涙が出てくる。


「何泣いてるの! 早くいかないとダメなんだろ?

 そんな大事なことすぐ頼まないと! どこにいるの?」

「は、排水路の辺です……」

「おーい! まだハンナちゃんが倒れてるみたい!

 手が空いてる人は来て! 

 佐藤さんは権爺診終わったら、蒼ちゃんの家で待ってて」

「あ、ありがとうございます……」


 みんなが手伝ってくれる。

最初から自分から歩み寄れたら良かっただけの事。

こんな時じゃないと分からないなんて。

こんな私が大切にされてるって……思ってもいいのかな。


 冷たい雨が降る中、蒼達はハンナの元へ急ぐ。

泥濘ぬかるむ地面のせいで、何度も足を取られる。

それでも、急がずにいられず結局遅くなる。


「蒼ちゃん、落ち着いて!」

「は、はい! ……でも急がないと」


 結局蒼は脚を緩めることなく、ハンナの元へと着いた。


「ハァ、ハァ、ハンナ……」


 やっぱり一人で倒れてたんだ。

なんで私はもう少しハンナの事を考えなかったんだろ。

でも今はそんな事よりも……冷たい。

ハンナの体は石の様に冷たく動かない。

どうしよ……死んじゃうの? 怖い。


「蒼ちゃん、どいて!」

「あ……」

「俺達で運ぶから、蒼ちゃんは先に家に戻って部屋を暖かくしといて」

 

 で、でも、私もハンナのそばにいたい……


「何やってるの! 蒼ちゃんは出来ることをして!」

「はい……」

「怪我しないようにしっかり行くんだよ」


 居ても邪魔になるだけだし、涙をこらえて急いで家に戻る。

家に戻ると……女の人達がいた。


「どうしたんです? 皆さん」

「山田さんの奥さんに言われて、悪いけど勝手に上がらせてもらったよ」


 部屋に入ると暖い。

灯油やストーブまで持ってきてくれて……

こんな雨の中どれだけ大変だったんだろ……

なんでこんなによくしてくれるんだろ……


「ボケっとしてないで蒼ちゃんお風呂入っておいで」

「でも、ハンナが……」

「何言ってるの! ハンナちゃんが起きた時蒼ちゃんもそんな白い顔してたら心配するでしょ」

「早く、お湯も沸かしておいたから!」


 みんなに促されて、お風呂に入る。

前までなら押し付けがましい親切に、裏があるんじゃないかと疑ったり、迷惑に感じてた。

きっとそれはバレてたはずなのに……

それでもこんなに良くしてくれる。

何度も何度も気がつかされたはずなのに……

ハンナが目を覚ましたらまず謝ろう。


 こんな私でも、大切にされてると自信を持っても良いと教えてくれたのだから。

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