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傲慢なお姫様と孤独の少女  作者: 白ヤギ
11/15

11 ハンナたこ焼き食べる♪

 むぅ、開店してからしばらく経つが、なかなか売れないのぉ。

周りの店はポツポツ売れてるようじゃ。


「なかなか売れないね?」

「うむ、他のお店は売れてるようじゃ」

「私達初めてだし、顔見知りもいないからしょうがないのかも」

「ふむ、そんなもんかのぉ」


 まぁまだ人も少ないし、しょうがないかのぉ。

むぅ、なんかあっちの方でいい匂いがしてるのぉ~♪


「蒼や、ちょっと偵察に行ってくる」

「え? 人に迷惑かけないでよ」

「うむ♪」

「心配だなぁ……」


 全く蒼は妾をなんだと思っておる。

子供じゃあるまいし!

しかしいい匂いじゃのぉ。一体何があるのじゃ?

あそこのお店じゃ♪

ほぉ、見事な手つきじゃのぉ。

早業じゃ、どんどん丸くなってゆく。


「すまぬ、それは何を作っておるのだ?」

「え? たこ焼き知らないの?」

「うむ、うまそうじゃのぉ…… ♪」

「……」

「あぁ…… うまそうじゃ」

「え、えと、食べます?」

「なぬ! 本当か?」


 なんといい日じゃ♪

はぁ…… いい匂いじゃ♪


「はぃ、どうぞ」

「ホントにいいのか?」

「えぇ…… そんな顔で見られたら気になりますし……」


 おぉ、アツアツじゃ♪

なんかユラユラしてるのぉ……


「いただきます♪」


 ハフハフハウハウ。

あちちちちなのじゃ、でも、うまい!

幸せになる味じゃ。


「美味いじゃないか!」

「はぁ…… ありがとうございます」

「皆の衆! よく聞け~! ここにあるたこ焼きという食べ物は、痛っ!」

「何してるのよ、ハンナ!」


 イタタタタタ、なぜいきなり蒼に叩かれたのじゃ?


「もぉ! あ、すみませんお金払います」

「いえいえ、宣伝もしてもらったみたいですし大丈夫ですよ」

「ほらみろ蒼! 店主もそう言っておる」

「気を遣って言ってくれてるの! もぉ! 本当にありがとうございました、ハンナ行くよ!」

「待つのじゃ~ あそこもうまそうなものがあるのじゃ~」


 むぅ、結局蒼に自分達のお店まで戻されてしまったのぉ。

まぁお客も増えて来たしそろそろ真面目に働くかのぉ。

む? 人が近づいてくるのぉ。


「あら、おいしそうな野菜ね♪ お嬢ちゃん達が作ったの?」

「あ、そうです、ありがとうございます」

「これもう少し安くならないの?」

「え、えと…… じゃあ300円で大丈夫です」

「そぉ? ありがと♪ なら2個もらうわ」

「ありがとうございます!」


 ふむ…… こんなに簡単に値下げするものなのかのぉ。

さっきのたこ焼き屋の店主も、ただでくれたから当たり前なのかのぉ。

ふむ、分からぬ。妾の卵は値下げしたくないのぉ。

まぁ、蒼はうれしそうだからいいかのぉ。


「蒼、値下げするのは当たり前なのか?」

「う~ん、どうなんだろ、でも珍しい事じゃあ無いのかも」

「ふむ、なるほど」

「それより初めてのお客様♪ おいしく食べてくれるといいなぁ~♪」

「そうじゃのぉ♪」

 

 やっぱり蒼はうれしそうじゃ♪

ふむ、売り始めて2時間くらいたったが、結構な客が来て売れておる。

そのまま買う人もいれば値下げを頼む者もおるのぉ。

値下げの交渉も、普通に言ってくる奴はまだよい。

蒼の笑顔も本物じゃ!


 でも明らかに、若いからなのかバカにしたり見下したような物言いをしてくる奴もおる。

そんなやつ相手にも、なぜ蒼はへらへら偽りの笑顔を浮かべておる。

それはおかしいじゃろ。

なぜ妾はその笑顔を見るとイライラするのじゃ。


「ねぇ、この卵高くない? 安くしてくれるなら買うわよ」

「は、はぁ」


 またこの目じゃ、この客は明らかに若いと思って見下しておる。


「どうせ子供のおままごとなんでしょ? 安くしなさいよ」

「無理じゃ! 別に無理して買わなくてもよい、早く卵をおろせ」

「な! 何よこの失礼な子は!」

「ハンナ! すみません、その、失礼なことを言ってしまって」

「何を謝っておる、明らかにこやつはバカにしておるじゃろ、それが分からぬのか?」

「ハンナ! 謝ってよ」

「嫌なのじゃ!」

 

 なぜ妾が謝る、悪いのはこやつじゃろ。


「なぜこっちが謝る必要がある? 妾の卵を子供のおままごとじゃと、蒼もそう思うのか?」

「ちょっと、ハンナ! 大きな声出さないでよ」

「妾の聞いたことを答えよ!」

「もぉ! さっきの人もいなくなったし何でも良いわよ!」


 何でもいいじゃと…… 蒼が野菜を売るのを一番楽しみにしていたのじゃないのか。

それなのになぜバカにされてて黙っておられる。


「蒼は平気なのか! 本当にに楽しいのか? 野菜を売るのを楽しみにしておったじゃろ!」

「だからもういいって! それよりも声が大きい! みんな見てるでしょ!」


 周りをきょろきょろ見てばかりじゃ。

他人の視線がそんなに大切なのか。


「何を周りばかり見ておる、妾をちゃんと見よ!」

「何をそんなに怒ってるのよ!」

「なぜさっきからバカにされておるのにヘラヘラしておる!」

「そんな事? そんなことで怒ってるの?」


 そんなことじゃないの蒼が一番分かっておるくせに。


「じゃあハンナはどうしたいの? いちいちそうやって怒るの?」

「ど、どうしたいと言われても困るが……」

「え? 何をしてほしかったの私に? 

 本当は何もしない私に怒ってるんでしょ? そんくらい分かるよ!」


 妾は蒼にどうしてもらいたかったのじゃ……

蒼自身が魔法を使って懲らしめるなんてことは出来ないのは分かっておる。

じゃあ妾に、懲らしめてと頼んでほしかったの?

蒼が一生懸命作った野菜をバカにされたくなかっただけなのに、なんで喧嘩になってしまう。


「ハンナは戦わない私の事をバカにしてるんでしょ!

 へらへら笑う事しかできない事を見下してるんでしょ!」

「そんな事は無い…… ただ蒼が一生懸命作った野菜を……」

「じゃあなに? ハンナはバカにされるたびに相手を傷つけろとでも言うの?」

「誰もそんなこと言っておらぬ! だけど傷つきたくないのは蒼自身じゃろ!」

「当たり前でしょ、そんな事! ハンナは違うの?」


 何を言っておる蒼は。

最初は妾の大きい声について怒っておった。

それが今じゃあ、蒼自身の声も大きい。周りの人もこっちを見ておる。

なんか言いくるめられるみたいで悔しい!


「わ、妾が野菜ならそんなこと言う蒼に育ててもらいたくない!」

「私だってハンナみたいな姫がいるような国に生まれたくないわよ!」

「な、なぬ……」

「だってそうでしょ? 弱い人達の事は無視するんでしょ? 

 たまたま知り合った私には優しくしてくれるけど、他の弱い人は鳥や猫と一緒なんでしょ?」


 確かに妾はそんな事を言った。

それがなんで妾の国に生まれたくないにつながるのじゃ?


「わ、妾は他国の脅威から守れるぞ……」

「それが何よ! ハンナなんで私がヘラヘラしてると、イライラするのか分かる?」

「分からぬ……」

「ハンナって、前いたところの話、『爺』て人以外殆ど出てこないけど他の人からは本当に愛されてたの?」

「な、何を言っておる! 当たり前じゃ……」

「本当に? 国のみんなは私みたいに偽物の笑顔であなたに接してたんじゃないの?」


 そんな事は無い……

妾は国を守れる…… 愛されてたはずじゃ……

父上もそう言っておった。


「もう分かるでしょ? ハンナの事恐いからみんなこんな顔してただけでしょ! 

 だからその顔見るとイライラするんでしょ? 認めるのが怖いだけじゃない!

 ハンナだって分かってるくせに気づいてないふりして、それが本当に強いの?」

「そ、それ以上言うな!」

「言って欲しくないなら私に魔法撃てばいいでしょ! そうやって黙らせてきたんでしょ!」

「そ、そんな事出来るわけないじゃろ……」


 何も言い返せぬ。

妾は気づいておったのか? だからいつもあんなにイライラしていたのか?

父上が間違っておることもわかっておるのに、それなのに怖くて言えない自分がいる事に。


「ほらね、ハンナだって下向くじゃない!

 ハンナはいいよね!強いから弱い人を無視できるから!

 でも自分より強い人には何も言えないよ! 都合が悪い事は無視だし!

 ねぇ、ハンナもほんとは弱いんじゃないの?」

「もう言わないでくれ…… 妾が……」


 ダメじゃ、涙が溢れてくる。

元いた世界でも間違い、妾が蒼に言っていた事も間違い、間違いだらけなのか?

じゃあ妾はなんなのだ? 空っぽなのか?

足が震える、なぜじゃ?


「ハ…… ハンナ、ごめん、その、言いすぎちゃって、ほんとにごめんなさい」


 蒼は悪くない。

今蒼はどんな顔をしておるのじゃ。

確かめるのが怖い。自分が弱いのがばれるのが怖い。

妾の言葉は、蒼に無責任に言い放ってばかりだった。

涙が次から次へと出てくる。蒼は悪くないのに。


 何も考えてない、違う、認めるのが怖かった自分が悪い。

本当はここに来て、蒼の事を見てうすうす気づいておった。

自分が間違えておったと…… 都合よく父上の言葉を解釈していたと。

事実、妾に向けられる顔は、偽物の笑顔ばかりじゃった。


「おーい! 蒼ちゃんもハンナちゃんもどうした?」

「山田さん…… そのごめんなさい、私がハンナの事怒鳴っちゃって…… 本当に迷惑かけました」

「気にするなぁ~仲が良いほど喧嘩をするというしなぁ、

 ただハンナちゃん、ちょっときつそうだから車で休んできな、蒼ちゃんは大丈夫?」

「あ、はい…… その本当にごめんなさい、ハンナもほんとにごめんね」


 蒼はこのまま野菜を売り続けるのか……

妾には無理じゃ、何も考えたくない。

考えるのが怖い、こんなに卑怯者だったなんて……


「ハンナちゃん、車で横になってな、蒼ちゃんとすぐ仲直りできるよ」

「ありがとなのじゃ……」


 本当に仲直りできるのか?

こんな惨めな自分に…… 強さしかなかったはずなのにその強さもないのに。

こんなことになるなんて思ってなかった。


 蒼はいつから気づいておったのかな、妾の弱さに。

初めて喧嘩したあの夜、傷つけた言葉を吐いた妾の所へ、蒼のほうから来てくれた。

今回は自分の方から蒼の元へ行き、気にしておらぬと声をかけなくてわ……

それなのに怖くてここから動けぬ。

本当に妾は弱いのじゃな……



 蒼の日記 8月○日


 今日は初めて野菜を売りに行った。

朝まではわくわくしてたのに、私が台無しにしてしまった。

きっかけは、態度の悪いお客さんが、値引きしろと言った時に、私が何も言えなくて値下げして売ってたからだ。


 ハンナが怒るのも当然だった。

そもそもハンナは基本的には、私が損をしてたりすると私の代わりに怒ってくれる。

それなのに私は、ハンナの優しさよりも周りの目を気にしてしまった。

さらに本当はイライラしてた気持ちをハンナに八つ当たりまでした。

その結果ハンナを傷つけるとわかっていたのに酷い言葉を言ってしまった。

言ったら取り返しがつかなるかもしれなかったのに。


 ハンナの元いた世界の話は、基本的に爺と呼ばれる人しか出てこない。

きっと他に話に出せる人がいないからだ。

親しい人がいない私がそれを一番分かっていたはずなのに。

それなのに私はそこを責めてしまった、最低だ。

頭が熱くなっていろいろ酷い事を吐き続けた。

冷静になったときのハンナは震えて立ってるのもつらそうだった。

またハンナを泣かせてしまった。


 山田さんが来てくれて、ハンナを車で休ませてくれた。

私はその後淡々と野菜や卵を売り続けた。

周りの人達が気を遣ってくれたが、私は何かしてないと泣いてしまいそうだった。


 帰りの車でお互い謝ったが、やっぱりぎこちなかった。

家に戻ってからも少しよそよそしい。

私もハンナもお互いに意識しちゃう感じ。

早く仲直りしなきゃ。


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