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神々の歴史

「私はウリエル。貴方の従者を言いつけられた天使です。我が主は貴方の体を貰い受ける事を申し出た方であり、今あなたが入っている器の持ち主でもありました。そして、その器は神の身体となります。つまりは我が元主神は神の座を貴方に譲り、自身は人間の身に落とされたという事です」


 天使。神。

 2つの信じられない言葉が耳を通り抜ける。

 舞春も聞いた事がある。というよりも誰でも知っている言葉。本来は同時に存在しない事も知っている。

 もちろん誰も見たこともないし、その声も聞いた等という噂すらも耳にしない。

 何よりも神の名で止められた戦争など1つもない。その逆があったとしてもだ。


 特にウリエルといえば、有名すぎる天使。

 目の前の男は、自身がそれにであるというのだから驚きである。

 そして舞春の瞳に映る男の美しさに、とても人とは思えないモノを感じていた。ただ、それだけで本当だと信用するわけにもいかない。


「貴方が、あの有名な天使ウリエルだと証明する事は出来るのですか?」

「私の名前が有名だとは、この世界の人間ではなかった事がよくわかる言葉ですね。それに……なるほど、確かに言葉だけでは元人間の貴方に信用してもらうのは難しいかもしれません。では、これを見て頂ければ少しは信用して頂けるのでしょうか?」


 言葉が終わると同時に視界を真っ白な物が覆い尽くす。

 それは削ったばかりの氷の欠片のように繊細で、土石流の泥ですら汚す事が出来ないような色、何よりも散乱したばかりの卵が包まれれば一瞬で羽化してしまいそうなほどの柔らかさと優しさを感じる――白き翼。


 そして、ゆっくりと翼を広げる事で己の体の一部だと証明していく。


「天使の翼……」

「お分かり頂けたでしょうか。私がウリエルだと証明する事は出来なくても、天使だと理解してくれれば貴方にとっては十分な答えになるのではないでしょうか」

「確かに、それを見せられれば納得せざるを得ない。とても偽物にも思えないしね。でも、この体が元々神様のものだったっていうのなら、神様は何故、私なんかに器として残していったというの?」


 完成度の高い体を残して、不完全な私の体を選ぶ理由がわからない。そのどこにも神にとって有利な部分が有る様には思えない。

 

「なるほど、貴方の質問は当然です。人間とは利を得る為に生きる愚かな生き物ですからね。神を人間程度の考えで測れば理解不能かもしれませんね……」


 天使は記憶を辿るように言葉を紡ぐ。

 表情に動きはないが、途切れた言葉に懐かしさと悲しみと微かな喜びも感じられた気がした。

 

「……ですが、神達はそんな人間に愛を送り、光を注ぎ、声を届け、導き続けたのです。あの方達は、いつも人間の事を考えられておられました。しかし人間達は成長するにつれ、神の名を語り、名を利用し、裏切り続け、信仰を忘れたのです。遠い昔は何百と居た神も、遂に人間に愛想を尽かし始めました。やがて、1人、2人、3人と神達の思いは違う場所へと移ったのです。力ある者は異世界へ消え、力なき者も他の星へと飛び立つ中、あの方は最後まで人間と向かい合いました。しかし、結局、1000年前に疲れを見せたのです。「もう私だけでは世界を支えきれない」と。「私のやっている事は無駄だった」のだと。そして本日、貴方と体を交換して、愚かな人間として生きる事を決めたのです」


 確かに地球でも神の名を語る宗教は後を絶たない。

 それどころか、ただの人間だった者ですら神に持ち上げられて、一大勢力を築き上げている。しかも本人の意思と関係なく。今の地球のどこに本当の神を崇めている人間がいるのだろうか。


「私達の地球にも神は居たのでしょうか?」

「人間とは神の模写です。あちらの世界の貴方も、その器と同じような姿をしていたのであれば、存在している。もしくは存在していたと見てよいでしょう」


 おそらくは後者。地球上で存在を感じる事はありえない。居たとしても隠れて出てくるつもりなどないだろう。神の手など振り切るかのように、人間は科学の力と憎しみで地上を荒らしている。そこに奇跡が起こった歴史を学んだ覚えはない。


「でも何故、人間を導く事に疲れた方が、同じ人間である私の体に?」

「それでも…………人間を愛し続けたからです」


 途切れた部分に、ウリエルはどんな言葉を当て嵌めたかったのだろうか。その時間は彼にとって一瞬だったのか、永遠に近い時間を感じたのか、それを確かめるのは無粋というものであろう。例え、相手が天使だとしても。


「人間なら誰でもよかった。私は多くの選択肢から、たまたま選ばれただけの人間だったのですか」

「わかりません。あの方が最後に何を考えていたか。でも、欲に走るだけの人間に自身の器を譲ったとは思えません。その器は神の肉体です。つまり愛していた世界中の人間すらも滅ぼす力も宿している事になります。あの方は……そのような安易な選択をする方ではありません」


 それが本当ならば、私は選ばれただけの何かを持っているのだろうか?

 あちらの世界でも24年生きた結果が普通の女性だった自身に。

 あるのだとれば……


「この器の持ち主だった神は、私に何を望んでいたのだろうか?」


 この質問にウリエルからの返答はなかった。

 きっとそれは、彼にもわからない答えだったのだろう。

 舞春の口にした疑問だけは2人の間で心が繋がった気がしたのだった。

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