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情報の瞳

 今、舞春の視界には見えている。

 間違いなく声の主がいる。

 薄い衣を纏い、マネキンのように相手に見せる体のライン。

 スラリと伸びた首の先には作り物として飾られた、まるで1つの絵のように見る者の心を掴む美。

 首筋まで伸びた蒼い髪は、これまで見た事もない鮮やかな蒼。

 中でも一番特徴的なのは相手の心の奥まで見透かしたような髪と同じ色の瞳と、感情を表すことを諦めたかのような冷たさを含む表情。


 おそらく――人間ではない。


「貴方は一体?」

「おや、あの方から何も聞いてないのですか?」

「あの方?」


 思い浮かぶのは姿無き声の主。


「今、貴方が頭に思い浮かべた、その方です」


 そう言われれば、最後の瞬間に従者を準備すると言っていたような気がする。目の前の彼? おそらく話し方からすれば男性と見ていいのかも知れない。


「では従者というのは……」

「はい。私の事で間違いないかと」


 美の結晶と言っても足りないくらいの目の前の男が従者とは驚きである。

 とてもではないが自分の身を1つでは対価として釣り合うとは思えない。


「私は……」


 言葉を紡ごうとした時に自身の右手が視界に入る。

 ガラス細工のように伸びた指は、まるで一流のピアニストのようである。

 私の記憶には、こんな手に覚えがない。


 続いて左手も見る。――やはり同じ。


 落ち着き始めた事でようやく、自身の足で立っている事に気付く。そして、その足も見覚えがないものだ。肌に摩擦抵抗がないのではないかと思えるくらいに美しく大地へと伸びている。


 そのまま全身を確かめ始める。

 結果は同じ。見覚えがない。確かな事は名立たるモデルですらも、この体の美しさには敵わないと言えた。


「この体が……あの声の言っていた器なのか?」

「はい。あの方が代わりに用意した……いえ、元は、あの方の体です」

「えっ?」

「どうやら詳しい話を全部、私に押し付けて、あの方はあちらの世界へと旅立って行ったのですね」


 どうにも話についていけない。

 何よりも元の私の体は特別な事は何もない。身長は低い部類に入るし、スタイルが良かったわけでもない。もちろん顔だって点数をつけるなら70点と言ったところ。

 力強い瞳に特徴があると言われた事はあるけれど、似ている芸能人に例えられた事もない普通の人間だった。


 今はどうだろうか。

 誰が見ても羨む体である。女性としてはパーフェクトボディとも言える。どう考えても交換する理由が……


「あっ! 鏡! 鏡はある!?」

「鏡はございませんが、同様に物の姿を反射する水の壁を用意しましょう」


 何やら用意してくれるらしいが、舞春の心の中はそれどころではない。

 スタイル抜群の体が器だとしても、顔がとんでもない不細工なら理由になる。下手をすれば、顔は丸ごと豚でしたとか、牛でしたとか、色々不安要素が浮かび上がる。


 焦る表情を隠さない舞春を無視したかのように、男はどこからともなく水の壁とやらを「呼び出した」。他に言い方があるのかもしれないが、それが一番しっくりくるように思えるくらいに、突然現れたのだ。


「こちらでよろしかったでしょうか?」

「え、ええっ。ありがとうございます」


 二度目の驚きの表情を浮かべたまま言葉を口にする。

 女性にとって顔は命。何よりも優先すべき事を間違えてはいけない。今は気にする時ではない。


「……これって……」


 反射して映る顔は言葉を失うには十分な理由となった。

 

 映る物を輝かせる事が出来るような金の瞳。

 獣の匂いすらも花の匂いに変えるのではないかと思えるほどの鼻。

 紡がれる言葉だけで物に命を与えるのではないかいう口。

 風に溶けるのではないかと言うほどに優しさを感じる肌。

 混ざり合う空気までも黄金に変えてしまうのではないかと錯覚を起こしそうな金色のロングヘア。


 どれも人間ではありえない。人間というのは必ず、どこかに欠点を抱えているものである。それが見当たらない。

 ここまで揃ってしまうと違和感を感じるはずなのに、見る者達に認めざるを得ない気持ちにさせるのではないだろうか。


「これが、わたし……?」

「はい。元の持ち主は貴方の体を選び、あの方の体であった、この器は貴方のものになったのです」


 これが舞春の生まれ変わった瞬間であった。


「では従者として、貴方の最初の質問に答えて行くとしましょう」

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