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歪みと心

 ここは浮遊島。

 あれから闇の時間が終わり、太陽の欠片がこの浮遊島の大地をも照らし始めていた。

 どこの世界でも澄み渡った青い空を形成する様子は心に明るさを与えてくれるものである。

 しかし周りの風景と違い、ウリエルから一晩中、指導を受けたハルは確実な結果とともに惨敗したような気分を味わっていた。


「思ったより使えないのね……神器」

「いえ、神器のせいではないかと思われますが」

「ええ、ダメな神様で御免なさいねっ」


 あまりにハッキリと否定された事による苛立ちが、自身の言葉の語尾に力を込めさせていた。

 ただ実際に神器と神の器が揃っているにも関わらず、思っていた以上に結果は芳しくなった。


 なぜなのか?


 理由は簡単。自身が使いこなせていないだけである。人間だった時は大抵の事は反復練習により乗り越えてきた。

 だが今回の事は努力だけで解決すると言う物ではなさそうだった。


 それでも良かった事もある。

 一番の心配材料であった「神々しいさ」それを”神威しんい”というらしいが、これに関しては当初の予定通りに偽装して普通の人間に化ける事に成功していた。それなのに惨敗した気分が残るのは、自身が思っていた結果と違うからだろうか。


 ウリエルが言うには想像力不足らしいのが、想像力なんて簡単に上げられるものではない。お陰で無理に偽装しようとしても、どこかしらに人間らしさがない人物になってしまうのだった。


 その為、今のところ完璧に偽装できるのは人間だった頃の”自分の姿”と”現在の姿”を弄る事くらい。


 あとは対象の人物が目の前にいれば多少はましになる。

 今回の場合はウリエルが対象であったが、それも微妙に鼻が高くなったり、目が大きくなったり、身長が違ったりと完全とは言い難いものだった。


 つまりは使えることは使えるが、かなりの制限と条件が必要という事。

 使えない神器と言いたくなる気持ちも察してほしい所だが、目の前の天使に求めても無駄であることは既に理解しつつある。ゆえに行き場のない気持ちが多少の怒りに変わるのは仕方がない。いくら器が神だろうが、心は人間の時のままなのだから。


「まあ、いいわ。今はこれで問題はないはずでしょうしね。それで最後のお願いなんだけど……」

「子供達の転移ですね?」


 ハルの言葉の前に先に答えをウリエルが口にする。

 こちらの気持ちを理解するつもりはなくても、どうやら未来や展開については頭が回るらしい。


「分かっているなら大丈夫ですよね?」

「ええ、でも私があの子供達の前に姿を現して良いのですか?」

「それは避けたいかな。あの子達の家族の敵とはいえ、あの時の光景の一部だった貴方が姿を現すのは、過去を思い起こさせる事にもなりかねないわ。出来れば忘れさせたいしね」

「では、どういたしますか? 少なくてもある程度の範囲に捉えられなければ転移は難しいですが?」

「う~ん……直接見ると視力を失う危険な魔法だとでも説明するから、準備が出来たら合図するから来てもらえるかしら?」

「全員が素直に”魔女”のいう事を聞くと思いますか?」

「どうかしら、分からないわ……でも、子供って大人程の警戒心を持たない物じゃない?」

「どうなのでしょう。人間の心に詳しいわけではありませんが、警戒心は弱くとも好奇心は強いのではないですか?」

「そこら辺は強くは否定できないけど……でも1日接しただけとはいえ、好奇心よりも素直さが上回ているようには私には見えたわ」


 ウリエルとしては不安要素のようだが、ハル自身は言葉の通り心配は小さい。

 まず疑いや警戒心とは大人になるにつれて経験する騙された事への繰り返しで生まれる感情。少なくても、自身が魔女であると名乗っていても、あの村の子供達にはまだ生まれていない感情に思えない。

 

 好奇心についても徐々に膨れ上がる物であって、急展開の状況で子供の持つ素直さを超えてくるとは思えない。


 この天使の場合は長い間、人間の汚い部分を見続けてきた事で真っすぐな瞳を失っているのではないだろうか。殆どの神が人間を見捨てて消えたように、最後には自身の神も器を人間に譲り消えたとなれば尚更に歪むのも仕方がないともいえる。


 いつかは私を通して人間を真っすぐに見つめてくれるだろうか?

 今は何とも言えない。


 ただ、この神の器は人間に比べれば遥かに寿命は長いだろう。その長い時間でいつかはそんな日が来る事を信じて置くべきではないかと思う。そうでなければ、あまりに天使という存在はあまりにも悲しすぎる。


 そこで、ふと思いつく。

 今夜、自分は何をしていたのかを。


「あ、待って待ってっ! それこそ偽装のクリスタルを使えば済む事じゃない!?」

「確かにその通りですね、ハル様。それに私ならば神器の扱いに何の問題もございません」


 私の思い付きに対して、珍しく素直に乗ってくるウリエル。ただ、私と違って神器の扱いに対しての自信がある事を含めているあたりが面倒くさい。


 神になったばかりのこちらと、何百何千年と天使を務めている自分とを比べるのは卑怯にも思えるが、口にしたところで負け惜しみにしかならない。グッと言葉を堪える。


 ――しかし、この提案は目の前の天の意外な弱点を浮き彫りにする事になるのだった。

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