イクアという男①
〜キャル視点〜
今回の依頼はいつもとは違っていた。
依頼はFランク。森の中に大きな巣を構えた、ホワイトウルフを殲滅すること。その期間は三日間。
ただ、いつもと違うのはそこではない。
いつも一人で依頼をこなしていたことが、今は複数で行動しているという点だ。
森の中を歩くあたしの後ろからリザ、エリル、イクアの順について来る。
リザは元々冒険者になる予定だったけど、エリルは無理やり冒険者になって着いて来てしまった。因みに幼龍はイクアの頭の上でウトウトしている。
今のイクアを見れば、ペットを可愛いがるただの飼い主のように見える。だけど……。
「ーー止まれ……!」
イクアの口から突然出た声は、どこか重みがあって威圧的に感じる。
皆の足が瞬時に止まり、一番後ろのイクアに全員が視線を集める。
彼はあたしたちとはどこか違っている。だからと言ってあたしは彼を恐いとは思わない。
「なによっ。アジトでも見つけたの?」
あたしは不機嫌を装ってイクアに尋ねる。
すると、彼は乏しい表情で右手に生い茂る、草むらの奥に顔を向けた。
「来るーーっ!」
あたしが何が来るのか尋ねる前にイクアはエリルを抱えると、高く跳躍して木の枝に飛び移った。
「リザっ!」
「はいっ!」
なにかは分からないけど、多分自分たちにとって害になるモノが近づいているのだと悟ったあたしは、イクアに習うようにリザに促した。
そしてあたしとリザもそれぞれの枝に飛び移る。
魔力の少ない彼女でも、これくらいの動きはなんとか出来る。戦闘となると難しいけど……。
あたしが守らなくちゃ!。
いつもより使命感を感じて、茂みの奥を警戒していると、次第に人の話声と落ちた枝を踏み歩く音が聞こえてきた。
「で、でも本当に来るんすかね……?」
「来るに決まってんだろっ!。ヘマすんじゃねえぞ新人っ!」
「バカっ、黙ってろ!」
そんな言葉と共に、三人の男が茂みの中から姿を表す。
いかにも悪巧みしていそうな男が二人。もう一人の男はまだ青年らしく、どこか芯がほそそうに見える。
あたし達はそのまま彼らの行動を見下ろす。
「隊商の規模は十人だ。もうすぐすれば奥からノコノコやって来る」
「そこを俺たちが襲うんだろ?へへっ」
「ああ、調べでは護衛は一人しかいねえらしい。そいつは俺が相手するから、お前らは隊商を始末しろ」
「あ、あの……っ。こ、殺しちゃうんですかっ?」
「ああっ?代わりに殺してやろうかっ⁉」
「ーーっ!わっ、分かりましたよ!とにかく襲えば良いんですよね!分かりましたよ!」
……なるほど。ここまでの会話で察しがついて来た。この男たちは盗賊に違いないわね。
もう一人の弱腰は分からないけど……あたしはこのまま奴らを放っておけない。
イクアはどうするのか?
そう思って彼の立っていたはずの木に視線をやると、そこにはエリルの姿しかなかった。
「は……?」
あたしは周囲に目を凝らしてイクアを探す。
でも彼の姿はどこにも見当たらなかった。
あたしはリザに小声で尋ねる。
「ねえ、イクアがいないんだけど……」
「え?イクアさんが……?」
あたしに教えられて、始めてその事に気がついた様子のリザ。
「どこ行ったのよっ。あいつはっ」
まさか、この状況で逃げ出した?
そう考えると、思わず地団駄を踏みそうになる。それを必死に堪えて、今一番危険になったエリルの様子をうかがう。
彼女は不安そうにこちらを見つめて、今にも泣き出しそうになっていた。
本当っ!何で着いて来たのよあの子はっ!
遠足気分で着いて来るからこうなるのよっ!
……もう良い。あたし一人で倒してやるっ!
「ーーキャルさんっ!」
あたしはヤケになって盗賊たちに襲いかかった。
これくらいの盗賊。いつも一人でやってるんだからとーー
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〜イクア視点〜




