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最下層魔法使いでも時には煌めきたい  作者: スーパーマン
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1-5

 気を取り直し体育館へと向かう俺達、ロビーを通り体育館へと続く渡り廊下を歩いているとキャッキャウフフと園児達の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「ケンケン」


 先頭を歩くのはいつの間にか俺になっている。後ろからゆみねぇの声が聞こえてきたがひよ子を背負っていたので後ろを振り向かず体育館の入口を見据えたまま返事をした。


「どうかしましたか」


「紅音ちゃんは?」


「ああ、紅音ならひよ子の制服を取りに行ってます」


「そう、ひよ子ちゃんなかなか起きないわね」


 ほんとどういう神経をしているのだろうか、朝のホームルームで二度寝してから今だにひよ子は目を覚まさない。俺が背負ってからイビキまで聞こえてくる始末だ。


「ケン君ストップよ」


 先に進もうとすると今度は緑さんが深刻な声で呼び止めてくるので俺は思わず振り返った。


「私達大事なことを忘れているわ」


「大事なこと?」


 緑さんはコクっと頷く。


「魔法を見せる順番よ」


「そんなの年配者からでいいじゃないの」


 緑さんの肩に右腕を乗せたままのゆみねぇが顔を上げあっさりと言う。


「ゆみねぇそれはおかしいでしょう!」


 透かさず俺は反論した。


 去年の入学説明会の思い出が走馬灯のように蘇ってくる。あれは忘れもしない。いや、さっきまでは忘れていたが思い出としては今でも鮮明に覚えている。俺は去年トリを務め悲惨な目にあったんだ。


「ゆみねぇ毎年トップバッターじゃないですか自分ばっかりズルいですよ。それに逆でしょう、普通は先輩がトリを飾るんですよ」


「いいじゃないの、私は後輩達に華を持たせたいのよ」


「ダメよ!」


 緑さんが鬼気迫る表情で突然声を張り上げた。


「みっ、緑……」


 ゆみねぇは緑さんの肩から腕を離すと軽く後ろに後退る。


「ケン君は去年最後だったから嫌がるのはわかるけど、緑、貴方が不満に思うのはおかしくない? いつも私の後じゃないの」


「貴方の後だからよ!」


 緑さんはゆみねぇの顔を睨みつけるとそう意味深に呟いた。


「それってどういう意味よ緑!」


 緑さんの言葉が気に障ったのかゆみねぇも不機嫌そうな表情を浮かべる。緑さんはそんなゆみねぇから一瞬だけ視線を逸らすと俺の方を見てまた顔を戻した。


「いいわ、この際だからはっきり言うわよ。魔法を見せる順番なんてトップバッター以外は誰でもそれ相当のリスクを背負うことになるわ。ただ、その中でも特に辛いのはゆみねぇの後なのよ」


「緑さんどうしてゆみねぇの後が」


「ケン君、基本的にこの人自分のことしか考えていないのよ」


「はあ? 緑、それはちょっと失礼じゃない、何か根拠でもあるの」


「あるわよ、ゆみねぇってトップバッターをいいことに園児達がまだ注意散漫している時を狙って魔法を使っているでしょう。ゆみねぇの魔法なんて微風のそよ風がスーっと体育館の中を駆け抜ける程度。ほとんどの園児達が首を傾げて貴方を見ている中で何事もなかったように、『はい、次はこのお姉さんが水の魔法を見せてくれます』なんて言って私にバトンを渡してくるのよ。ケン君酷いと思わない? 園児達の注目は一気に私に注がれるの、そんな中で私は魔法を見せなければいけないのよ」


(っぅ……)


 俺はどうやら勘違いをしていたらしい。順番が後になればなる程プレッシャーがかかると思っていたがゆみねぇ以外の皆も同じ境遇に立たされていたんだ。


「緑さんの気持ち良くわかります」


「ちょ、ちょっと待ってよケンケンまで、私一人が悪役みたいじゃないの。緑の順番が来たから回しただけよ、それの何が悪いのよ!」


「そうね貴方は何も悪くないわ」


「当たり前よ! それに去年まで私がトップバッターでもあんた達何も文句は言わなかったでしょう、なのに今更何よ……」


「去年までの私達はとても浅はかだったわ、今になって気付いたのよ」


「なにをよ」


「貴方の汚さによ」


「わっ、私が汚いですって! 緑、いくらなんでも言い過ぎじゃないの」


「いいえ、言い過ぎじゃないわ、今年こそはゆみねぇがトリを飾って私達の気持ちを理解する番なのよ」


「いっ、いやよ……それならジャンケンで決めましょう」


「まだ紅音ちゃんが来ていないのよ」


「だから言っているのよ」


「…………」


 この人に情はあるのか。だが、今更でもある。ゆみねぇがこんな人間だってのは俺も緑さんも今まで口には出さなかっただけで昔から知っているんだ。


「ゆみねぇ、私は落ちこぼれだけど心まで落ちこぼれたくはないの」


「それって私が性根まで腐ってるみたいな言い方じゃないの」


「そうね、性格なんて人それぞれ別にゆみねぇを名指しした訳ではないわ。それとも自分で思いあたる節でもあるのかしら」


「緑、あんたほんっと生意気になったわね!」


 本音としては緑さんの方を応援したかった俺ではあるがゆみねぇにも立つ瀬ってもんがある。睨み合う二人の間に俺は慌てて割って入った。


「まぁまぁ、ゆみねぇも緑さんも落ち着いてください。順番は公平に決めましょうよ」


「公平?」と首を傾げたのはゆみねぇ。


「ええ、多数決でどうでしょう」


 俺がそう提案した瞬間、「ははは、それはいいわ」と緑さんの高らかな笑い声が聞こえてきた。


「無理よ……」


 そんな緑さんとは違いゆみねぇは消極的に呟く。


「無理って意味が分からないわ」


「こっ、公平ならジャンケンでも別にいいでしょう」

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