第一章 最下層魔法使い
落ちこぼれてごめんなさい
第一章 最下層魔法使い
あらゆる生物は進化を続けその時々の環境に適応して栄えてきた。それは人類でも然り、予兆ってのは随分前からあったんだと思う。
それを当時は『超能力』と呼び、超能力を使える者を『超能力者』と呼んでいたらしいが、実際は手品師なんてのもそう呼ばれ、その能力の信憑性のなさから世間では半信半疑で見られ有耶無耶にされてきた。
しかし、予兆ってのはある程度目に見えてきてから断言できる結果論だ。
時は『西暦二千百二十五年』、突然変異とも言われたが、我々人類に特殊な能力を持つ者達が現れ始めたのである。
蛍光灯の両端を両手で挟み電気を点ける者、または快晴の空から突如として雨を降らせる者、手の平から火を出す者もいれば無風の大地に風を吹かせる者までいた。
この者達の使う能力は科学的に解明されず『超能力』という言葉で当初は片付けられていたが、こうした能力を使う者達が後を絶たず、いつの間にか人々は超能力ではなく『魔法』と呼ぶようになり、魔法を使う者を『魔法使い』と呼ぶようになった。
そうなってくると黙っていないのが国の科学者達だ。非科学的な魔法の存在に難色を示すと魔法使いは当然変異の危険分子だと主張し始める。
そこで動いたのが政府である。
魔法使いの使える魔法属性は産まれながらにして決まっているものの、魔力の差は千差万別であり、魔法使いの中には極小数。まるで雷のような電気を発する者もいれば、空から滝のような雨を降らせる者、巨大な火柱を上げる者もいれば台風並みの暴風を吹かせる者までいた。
これら一部の魔法使いを驚異に感じた政府は何れ国家を脅かし犯罪の促進にも繋がるのではないのかと、魔法使いを国の管轄下で保護する事を決定する。
『魔法使い保護法』
国から魔法使いと認定された者は十八歳になるまで国の施設で保護される。だがまあ、十八歳までとはしてあるが、その後も国が用意した公務職に追いやられ国のいいように利用されるらしい。これは在学中に卒業生が話していたのを偶然耳にした。
当然ではあるがこの事実を知ってしまった以上、国のモルモットじゃあるまいし魔法使いになんて認定されたくはない。ただしこれは要らぬ心配なのかもしれない。魔法使いなんてのはこのだだっ広い世の中でも百万人に一人と言われているので、多くの連中はこんなアホみたいな宿命を背負わなくてもいい訳だ。
もちろん極小数を除いてだけどね。
まっ、まさか……俺がその極小数である魔法使いに認定されるとはね……。
言っても百万人に一人だぜ?
幼少の頃に夢見ていたアイドルやスポーツ選手だって誰でもなれる訳ではないが、それでも志望者の何百人か何千人かに一人くらいの割合ではなれるだろう。魔法使いよりはよっぽど現実的な数字のはずだ。
俺はどういう訳か並の人間では持ち得ない強力な不運を持ち合わせているらしい。一昨日の事だ。
「雷が落ちてきたら危険ですので校舎の中に避難してください」
体育の授業中、ほうきに跨っていたら急に天降が悪化してきた。
先生の指示を聞いた俺は鼻で笑ったね。雷が間近に落ちてくるなんて早々ある事ではないと。しかし次の瞬間だった。
「ゴゴゴゴゴォォン!」と物凄い雷鳴と共に俺のすぐ隣にあった木が真っ赤に燃えていたのである。
教員を鼻で笑った罰か?
いや、違うね。俺自身も薄々気付いているんだ。
どうやら俺は不運という名の星の下で産まれたらしい。ちなみに『不運星』を知らないって方がいれば是非俺のとこへ聞きに来てくれ、だいたい見当はついている。おそらくいつも輝いて見えるあの星だろう。
とまあ、こんな事を早朝から考えながら俺は白い学ランの上着を羽織ると自室を後にした。
ギシギシギシと軋む音を響かせながらベニヤ板作りの質素な廊下を歩いて行く。国が管轄するこの国立魔法学院は寮と校舎が一体になっており、俺の居住区は地下一階にある。ちなみにこの学院は五階建てになっていて、上のフロアに上がる程建物内の造りは豪華になっている。何故この学院の造りがそのようになっているのかは不明だが、俺がわざわざこの質素な造りの地下一階に住んでいるのには理由がある。
この魔法学院は主に魔法使いの教育の為の施設なのだが、だからと言って俺が下級生だから地下に住んでいる訳ではない。俺はもうれっきとした十五歳であり、外の学校ならもう立派な高校一年生だ。それに魔法学院はもともと少ない魔法使いを集めた施設の為、在籍者の年齢はバラバラであり小中高と一貫しているので学年は関係ないのだ。
ただし学年は関係ないがクラス分けはされている。 今俺の目先に見えている『Eクラス』と記載されたクラス名を示す突き出た白いプレート、クラス分けはランダムでなく、このEクラスが意味する所。
それはちょっと恥ずかしいのだが……この際隠す事もないのではっきり言おう。このEクラスってのは魔法使いとしての能力そのものを意味しているのだ。
ちなみに最上階には『S』クラスがある。それから『A』、『B』、『C』、『D』ときて、俺が分けられている『E』クラスとなる訳だ。
つまり俺は魔法使いの中でも一番下のクラス、最下層の魔法使いなので最下層に住んでいるのである……。
まさかガキの頃に使ったあの微力な火の魔法が俺の魔力の限界だったとはね……。
ここに来てから担任の先生に聞いたのだが魔力ってのは産まれながらにして個々が持つ容量は既に決まっているらしい。なので体が成長していくと共に魔力も高まるって訳ではないのだそうだ。
『産まれながらにして魔法の属性も決まっている』、『魔力も決まっている』
ふざけた話しだと思わないか?
俺は九歳の頃からこの魔法学院にいるのでもうかれこれ六年間は決定付けられた落ちこぼれライフを送っている事になる。こんな口端が微笑にも吊り上がらないレールの上を進んでいて笑っていられる奴なんてのは相当なマゾヒストくらいだ。
だがまあ、こんな最悪な環境の中でも何とか俺は自我を保てている。普通ならこんな施設さっさと逃げ出す所ではあるが、何処にでもいるもんさ、傷を舐め合う仲間ってのかな。俺と同じ境遇の奴がいるから仲間を見捨てて俺だけ逃げ出す訳にもいかないんだ。
今からその大切な仲間を紹介したいと思う。