プロローグ
これは後に伝説と語り継がれる落ちこぼれ魔法使い達の物語である
プロローグ
切っ掛けはガキの頃に見た漫画やアニメだった。
魔法を駆使し悪者を倒してお姫様を救ったり、魔法を使える者同士が戦ったり争ったり、そういう創作物に感化されてしまったんだろうな。
「超かっけぇ」
当時流行っていた魔法バトルモノのアニメを鑑賞し終えた俺は希望に満ちた雄叫びを上げながら家の庭先に出て右の手の平を空に向けて翳したんだ。
「ファイア」と叫んでね。
もちろん火なんて出ないよ。そう都合よく出るのならこの世は理想世界なのかもしれないが、世の中超能力者だらけの危険な世界でもあっただろう。だからこの時は出なくて良かったんだ。
だけど俺はこの結果を目の当たりにして幼心にガッカリしたのを今でも鮮明に覚えている。だけどまあ、何でもやってみないとわからないものだ。
例えば一流大出身のエリート集団でも幼い頃から魔法に否定的だった奴はいないはずだ。
だが、そのエリート集団と俺とではやはり決定的な違いがあった。
それは理解力のなさだ。
普通なら一度やって出ないのであれば魔法なんておとぎ話しの世界でしか存在しないものなんだと諦めもつくであろう。しかし俺は諦めなかった。
今度は右拳の人差し指を突き立てて唱えたんだ。
「ビックバン!」とね。
壮大的に唱えたのは「ファイア」ではちょっとインパクトに欠けている気がしたからだ。
するとどうだろうか、出たんだよ、指先から火が、マッチ棒を擦った時くらいの火が出たんだよ。
『ビックバン』と唱えた割には今目先で出ている火には少々物足りなさを感じたが、それでも嬉しかった。嬉しかった俺は慌てて家の中に入ると台所で食器を洗っていた母親のもとに駆け寄った。
「おっ、お母さん、ひっ、火が出た」
慌てて言う俺の顔を見て母親の顔は青ざめていた。
「けっ、健一! あなた部屋で火遊びをしていたのね。大変だわ早く消防に電話しないと」
動揺する母親は電話に駆け寄り受話器を取ろうとするが、俺は咄嗟に母親が取ろうとする受話器を奪い取った。
「ちっ、違うんだよ。火事じゃなくて俺の指先から火が出たんだよ」
「それって健一、ひょっとして魔法じゃないの」
母親を安心させたつもりが、何故か母親は今だに動揺している。
「うっ、うん。やってみたら出ちゃった」
俺は後頭部を掻きながら自慢気に言った。
「ちょっとやってみせなさい」
なんて母親が言うから右拳の人差し指を突き立ててさっきみたいに指先に力を入れてみる。するとまたもやマッチ棒を擦ったくらいの火が俺の人差し指の先端からぽっと出たんだ。
「けっ、健一、貴方凄いじゃない。お母さんびっくりしたわ」
そうでもない、何故か母親は驚いてはおらず目を輝かせ俺の両肩に手をやると、リビングで寛いでいた父親のもとに駆け寄って行く。にしても『ビックバン』って唱える必要はなかったんだな。母親の前では何も言わずとも火は出ちゃったよ。
それからしばらくしてリビングで話し合う父親と母親の会話が聞こえてきた。
「あっ、貴方。健一が魔法を使えるのよ!」
「何を言ってるんだい母さん、さっきもテレビで言ってたけど魔法使いなんて百万人に一人らしい。まさか健一が魔法使いだなんて、母さんも冗談が好きだな」
「ほんとよ! だって私この目で見たもの、健一が魔法を使うとこ」
一瞬だった。物凄い勢いでソファから立ち上がる音が聞こえたかと思えば父親が俺の両肩を掴みまじまじと顔を近付けてくる。
「けっ、健一、お父さんにも見せてみなさい」
母親に見せたように父親の前でも同じようにしてみせる。すると父親は慌てて後ろに立っていた母親の方を振り返った。
「かっ、母さん、すぐに電話しなさい」
何故か父親の声は震えていて、母親は今だに動揺していた。
「あっ、もしもし。はい、はい、そうなんです。うちの息子魔法使いのようでして、あっ、はい。わかりました。お待ちしておりますので」
受話器を握り締め誰かと話している様子の母親、どうやら消防ではないようだ。
そんなおかしな両親を何のこっちゃと見つめていたら突然玄関のドアが開いた。
「ガラガラガラッ」
「お邪魔します」と言いながら見知らぬスーツ姿の男達が家の中へと入って来る。あまりにも突然の事でまだ当時ガキだった俺は怖くなって父親の右腕を掴んだ。
目の前に立つスーツ姿の男達、真ん中にいた気の良さそうな年配の男が口を開いた。
「君、魔法を使ってみせてごらん」
怖くもあったが、両親の顔を見ると父親と母親が俺の顔を見て頷くので俺は渋々スーツ姿の男達の前で魔法を使ってみせた。
「ふむ、間違いない。君は魔法使いだ」
真ん中の男は頷きながらそう言うと、俺の空いていた右手を掴み引っ張ろうとする。
「おっ、お父さん」
俺は涙目で父親に訴えかけたが、父親は何故か微笑んでいた。
「健一、おじさん達が健一と遊んでくれるらしい」
当時ガキだった俺は父親のこの言葉を信じスーツ姿の男達について行く、もちろん俺は両親に知らない人について行っではダメだと教わっている。教わってはいたが、父親だけじゃなく母親も振り返ると笑顔で手を振っていたのでそれに安心して男達について行ったんだ。
しかし俺はこの日から両親と二度と合う事はなかった。
それから数年後に知ったんだ。子供が魔法使いだった場合はその子供の食費、寮費、学費、医療費、就職先まで国が全て保証してくれる事を……。
俺がこのスーツ姿の男達に連れて行かれた場所、そこは国が設立し管理をしている魔法使いだけを集めた施設、日本支部『国立魔法学院』だったのだ。