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ゆめとか、やぶれたりとか

作者: 雨晴

 昔、電車の運転士になるのが夢だった。ただ、電車に乗るのが好きだったから。


 高校一年生、入学したのは市内の進学校だった。べつに、何処だって良かった。部活は、卓球部だった。仲の良い友人が居たから。二,三度しか顔は出さなかった。

 高校初めての夏休み、アルバイトをしてみた。短期の、パチンコ台を運ぶ仕事だった。あんな作業一つで一万円も貰える世界に驚いた。お金って、簡単に貰えるんだなと思った。

 それから、狂ったようにアルバイトを重ねていった。授業中に寝て、成績は落としたくなかったから自習はして、放課後はホームセンターのレジとか、マックとか。

 気付いたら二十万円くらい貯まっていた。高校一年生には、余るほどの額だった。それでもなんだか足りない気がして、高校二年の夏休み、工場にひと月通った。浪人生だって偽って、提出しろって言われた書類も結局出さなかった。

 毎日毎日洗濯機のトップ・プレートを、ベルトコンベアから流されてくる本体に取り付ける。たったそれだけ、何百回と繰り返す。この頃、五十万の大台に乗って浮かれていた。

 進学校だったから、大学に進学するって話が出てきた。当然、このままアルバイトじゃあ生きていけないってわかっていたから、就職しようかなんて考えた。調べれば、電車の運転士は高卒の方が簡単らしいじゃないか。就職したい理由を、金から夢に摩り替えた。

 担任が大学に行くように懇願してきた。仲の良い友人が居たから、進学クラスで三年生を迎えていた。大学からでも、鉄道会社に就職すれば良いと説得された覚えがある。嘘付け、大卒の運転士なんて、狭き門だろう。

 初任給が大卒の方が良いからと、両親に諭されもした。ああでも、確かに将来見据えて考えれば、大学出たほうが良い給料貰えるのかな。

 県立大学の、自己推薦入試とやらを受けてみた。国語、英語、小論文の、一次試験に合格した。担任が血相を変えて、二次試験の面接の対策をし始めた。当然、落ちた。


 滑り止めの私立大学へ入学することになった。専攻は心理学。全く興味が無かった。18になったのだから、好きなアルバイトが堂々と出来る。それしか考えていなかった。

 入学式前の三月下旬、ドームの前の、大きなショッピングモールのオープンスタッフ。何となく選考を受けて、ガーデニング売り場の担当になってみた。花とか野菜なんて、これっぽっちも好きではなかったけれど。

 ここで初めて、先輩というものが出来た。何と言うか、趣味を教えてもらった。言われるがままにオートバイの免許を取ってみた。初めての250ccは、びっくりするくらいに面白かった。高校時代に貯めた五十万は消えたけれど、また貯めれば良いと思えた。

 大学の成績は意地でも落とさないまま一年経って、バイトの先輩が辞めると言う話を聞いた。泣きそうだったけれど、いつでも一緒に遊びに行こうと言ってくれて、立ち直った。代わりに初めて、後輩というものが出来た。何と言うか、可愛かった。栄養士を目指しているらしい。少し、羨ましかった。

 一丁前にラッピングやら、フォークリフトの運転やらが出来たおかげで、ここぞとばかりに先輩風を吹かせた。楽しかった。向こうも似たような感覚だったようで、その夏には彼も400ccのオートバイを買っていた。先輩と三人で、伊豆に出掛けた。楽しかった。学生生活ってやつだ。

 先輩が大型二輪の免許を取ろうと言い出した。当然二つ返事。600ccを買って、半年で転んで駄目にした。すぐに1000ccを買って、先輩が馬鹿だと笑ってくれた。後輩も笑ってくれた。

 大学三年の春に、昔世話になった塾の校長から電話が来た。元気かと聞かれたので、元気だと答えた。その一週間後には、スーツを着ていた。塾の講師も始めてみた。楽しい。中学英語くらいなら、簡単だった。時給換算で二千円って、凄いな。


 大学三年の秋、就職活動。ふと、夢のことを思い出した。何件か、鉄道会社にエントリーしてみた。門前払い。夢が終わったけれど、まあ良いかと次を探した。三年間続けた小売業は、何となく楽しかった。有名なホームセンターにエントリーしてみる。とんとん拍子で話が進んで、春には内定を頂いた。

 大学四年の夏休み、大学三年生を集めた就活講座に、就活内定者の小売業代表とやらに選ばれた。壇上で、いかに就活が険しいか説いていた。嘘、全部嘘。頑張ったのなんて嘘。頑張ったのは、花屋のバイトだ。

 卒業前に、バイトを辞めた。パートのおばちゃん達が送別会をしてくれた。仲の良かった松本さんは泣いてくれた。ちょっと言い争いをした佐藤さんも泣いてくれていた。送別に一万円くらいの花束と上等のキーケースを貰って、その次の日に後輩と呑みに行った。抱き付かれて思いっきり泣かれた。頑張れと声をかけたけれど、俺は頑張っていたのだろうか。


 社会人一年目、自宅通いの出来る店舗に配属された。三ヶ月くらい、バイトと変わらなかった。レジを打って、接客。何だこれと首を傾げて、初めての給料、手取りは十七万。あれ、何だこれ。180時間働いて、これだけか。担当は、またガーデニングだった。それだけは、少しだけ嬉しかった。

 社会人二年目、春。後輩は出来なかった。毎日毎日同じ作業の繰り返し。安い給料。あれ、何だこれ。下らない作業が多かった。特に仲の良かったわけではない同期が辞めた。ついていけないってさ。何が?

 社会人三年目、春。ついに転勤の知らせが来た。やっとこの下らない作業から解放される。行き先は静岡。結局、そこでも一緒だった。あれ、何だこれ。担当は、家電。初めての一人暮らし。金が貯まらない。


 社会人三年目、12月31日。午後11時45分。退勤時間。実家には、帰れない。家に着いて、カバンを投げたら1月1日。何をしてるんだろう。メールが来ていた。バイトの先輩からだった。

 久々に遊ばないか。

 よろこんで。先輩は、神奈川に居るらしかった。後輩は愛知に居るらしい。半年振りくらいにバイクに跨った。バッテリーが切れていて、動かない。仕方が無いから、車で出向く。情けない。

 先輩は、自動車会社の研究職に就いたらしい。夢が叶ってよかったですね。後輩は、栄養士の資格で病院に勤められたらしい。夢が叶ってよかったですね。何だこれ。

 貴方は電車の運転士?いいえ、ホームセンターの担当社員です。お給金は?手取りで17万円。

 

 ふらふらと家に辿り着いて、ワンルーム。脱ぎ捨てたヘルメットが転がっている。何がしたかったんだろう。もう引き返せないけれど、どこで間違えたんだろう。

 今が楽しいかと問われれば、いいえと答えてしまうと思う。何で働いているんですかと言われれば、知ったことじゃない。ただがむしゃらに、金のために働いていた筈なのに。ああ本当に、何なんだこれ。何のために生きてるんだ。ネット広告の、夢がどうこうってバナー広告に無性に腹が立った。


 明日も朝からいつもの作業だ。おんなじ店、おんなじ面子、おんなじ動作、おんなじ、おんなじ、何も無い。だからとりあえず、バッテリーを取り寄せるところから始めてみる。無駄に高い純正のバッテリーの購入ボタンをクリックすれば、少しだけ軽くなった気がした。

 

 何と言いますか、一人称のリハビリでだらだらと書いてみました。書いてる最中やけに悲しくなったので、多分私の負けですw

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