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8話

忙しかったりして投稿が遅れましたorz

「あ~、すんげぇだりぃ」

「……前も、そんなこと言ってなかったですか?」

「まあ、言ってたけどなぁ~」


 九十九学園内、演習場。

 待合室の一角で空御と悠霧は、自分たちの番が来るまで雑談に興じていた。

 二人は、実力テストのいくつかを終わらせて残り少なくなったところでばったり会い、そのまま一緒に行動することにしたのが一時間も前のことだ。

 全学生の実力テストと身体測定。朝十時から始まり、夕方の十七時に終了するようになっている。今の時刻は十三時と、昼食をとっていない二人のお腹からはグ~とだらしない音が漏れた。


「腹も減った……」

「同感です」


 途中に休憩もあったが、その時はお互い『十二家』ということでカメラの前に立たされて色々なことを喋らされた。四十分ある休息の時間はそれにより消費され、休憩もままならず立て続けに実技に入っているが、評価は高得点ばかりとその実力は言わずもがな『十二家』として相応しいものばかりだった。


「そういやユーリは、テストどうだったんだ?」

「うーん……普通に良かったですかね」

「普通ってなんだよ、普通って」

「そうですね。空御くんよりかは【拡張】のテストで高得点とれたと自負してます。くらいには普通ですね――この場合は当たり前って言った方が正しいですね」

「それって皮肉って言うんだぜ」


 満面の笑みの悠霧に返す言葉が見つからず、空御は落胆気味に漏らした。

 演習場は学園内に複数あり、それぞれの場所で決められた内容のテストが行われている。そこでは巨大モニターで成績の上位五人が表示される様になっている。曰く、学生の向上心を上げるためだとか、外部宣伝だとかの理由が含まれるらしい。

 しかし学生からすればそんなことはどうでもよく、実力をはかるためのランキング表として利用しているのが大半だった。


「そうなんですか? あ、そう言えば、【拡張】のテストではわたしがやってから空御君の名前がランキングから消えたんですけど、どうかしたんですか? 調子が出なかったんですか?」

「……お前、それ解っててやってるよな?」


 追い打ちをかけるように悠霧が遠回しに攻めてくる。 


「そんなことないですよ? とりあえず、二週間くらい前のことが脳裏に過ってきたので、つい」

「あの時は本当にすみませんでしたッ」


 男のプライドはどうしたのかと言わんばかりの速度で、空御は微笑みの悪魔の前に土下座を披露した。

 そうして、空御の名がアナウンスで呼ばれた。表情を改めて待合室から出て、演習場の中へと足を踏み入れる。そこではもう何人かの学生が防護結界によって区切られた五×五×五メートルの立方体状の中でテストをしていた。審査項目は【強化】。空御の得意分野だ。

 演習場の空いているフィールドへと空御は入る。


「おや? 空御君なのか、僕の担当は」

「ん、シン先生じゃないですか。今日は働いてるんですね」

「酷い言い草だなー。僕だって働くときは働くさ。後、人前で愛称はやめて欲しいかな」


 半眼でシンこと阿戸慎之介は文句をつける。

 フィールドの外に隣接するよう置かれた機材と、それを操作するための机と椅子。そこに気怠そうに彼は座っていた。

もう二時間もそこで仕事をしているのだ当然と言えば当然だが、まだ気力はあるようだ。


「そうじゃないと、給料泥棒になりますもんね」

「空御君……何か嫌なこと、最近…………そう、ここ数分くらい前にあったでしょ?」

「……さーて。テストでも始めよっかな。もう準備できてるでしょ」


 空御は口笛を吹くそぶりをして、フィールドの中心へと移動した。


「あったんだ……――準備は出来てるよ」


 シンの言葉を聞き、空御は爆発的な量のオーラを展開した。


「使用術式は……『aero blast』で、いいね?」

「はいッ」

「術式は各々が専門のチューナーにいじってもらうか、自分で調整するかってなるけど、空御君は夜斗君にやってもらってるんだっけ?」

「そうっすね」

「なら、まあスキルについての説明も今さらかな?」

「説明義務なら聞きますけど、オレの場合は、嫌になるくらいアイツに聞かされてますからね」

「ハハ。だろうね。彼の場合はすごく饒舌になってる光景がみえるよ」


 雑談を交わしながらも空御のオーラは勢いが弱まることなくフィールドに充満した。オーラはそれぞれ使用する術式の属性ごとに仄かに色彩を帯びている。しかし、ここまでオーラの濃密な色を視認できるのはフィールドに押しとどめられているからだろうが……、それを可能にしている空御のオーラの総量はシンでも舌を巻くほどだった。


「んじゃ、スキルの発動――いきますッ」


 莫大なオーラが空御を中心に渦を描き、巻き込む形で風が飲まれていく。強風から暴風へと変化する。

 さながら、小型の台風といったところだ。

 だが、ここまでの風力ですら、まだスキルではなかった。オーラが世界に与える影響は本来微々たるもので質量を持たないはずだ。オーラを術式に流し込み、始めてスキルとして昇華され、世界に書き換える。

 それほどまでに、空御のオーラの濃さが、莫大な総量が、影響を与えるのだ。


「『aero blast』ッ!」


 ヴォイスコマンドを受けて、【領域(クローズドスペース)】からスキルが呼び出される。

 フィールド内を圧迫するほどの暴力的な風が生まれ、空御の周りに螺旋の塔を築く。


「さて、スキルには三系統と、火、水、風、土、光、闇、無属性を含めた七種があって、それぞれに得手不得手の相性があるのは知っての通り。その中で【強化】という系統に求められているのは、〝一方向への強力なエネルギーの放出〟だから属性的には火、光と親和性が高い、と言われているんだけど……流石、特化型。名門、鳳家の子だと思うよ」


 風属性の適性系統は【拡張】――広範囲へのエネルギー散布を目的とされている。余談だがもう一つの適正属性は水とされているため、悠霧は最高の相性だったりする。

 しかし、鳳空御はさらっと【強化】の術式を使いこなしているのだ。


「そういう風に調整されている一族ですからね……まあ、誰かさんはおれより上手に使ってましたけど」

「彼の場合、そもそもとして術式に通暁しているからね。その知識量はもしかしたら璃音さんを越えているかもしれないよ」

「解っちゃいますけど、十二家としては一応、一般異能者であるあいつより劣るってのは面目上なぁ……」

「――と、もういいよ。計測は終わったから」


 ふう、と息を抜くとそれに合わせるように空御の周囲の風とオーラは弱まっていく。


「どうですか?」

「いやはや、うん。数値だけで言えば一級の異能者と遜色ないよ。空御君自身が何か気付いたことは?」

「今回の実技用に調整してもらってます。でもなんか安定して使えるけど重いみたいな感触は確かにありますね」

「なるほどねぇ……ちょっと待ってて」


 シンが見た目とは裏腹に機械を軽やかに操作する。


「こんなものかな。こんなのはどう?」


 シンから提供された術式は『aero blast』。同じものだが中身が異なるのだろう。空御は、【領域】内から読み込み、展開する。


「これ何か発動までが速い気がしますね」

「実は術式には安全装置ってのが組み込まれているんだよ。そうだね……回路図で例えると、電流が流れるラインをオーラが走る通り。最終的に術式がスキルとして発動するのをライトが点灯するとしよう。当然スイッチは術者本人のコマンドだけれども、電池も担ってるんだ。で、スイッチが正しくないと発動しないのは当たり前として、ここに安全装置――似たようなモーションコマンドや音が近いヴォイスコマンドが併発しないようにするもの。と、最終、スキルとして発動する前に余剰に流れ込むオーラを感知して止める二つがあるんだ」

「オーラって流せばそれだけ強力な威力になったりしないんすか?」

「確かにオーラが濃く、多ければそれだけ強力なモノに変わるけれど、限度があるんだ。回路はとても繊細で、オーラの通り道は広くとられていると考えてくれたらいいかな。七〇の強さでオーラを流す術式は、実のところ一〇〇まで流せる太さを備えていたりするんだ。だからそれ以上となると当然、術者にかかる負担は大きくなって暴走、最悪身体が耐えられなくなって体内を蝕んで死ぬことだってある。それを止めるために回路の終着点付近で過剰なオーラを霧散させる装置を組み込んでいたりするんだ」


 シンが説明を終えて、一拍置く。


「ちょっと話が長くなったけど、大体そういうことは学生の内や親に習うもので自然とオーラの扱い方を覚えていくものなんだ。そういう理由を踏まえて、安全装置は前者が八割を占めていて、一部後者を導入している術式が存在しているんだ。けれど、夜斗君は一つの術式にその二つ……ものによれば回路中にすら安全装置を張ってたりする。だから嫌でもそこでオーラが一瞬滞るんだ。まあそれでも、そのラグを感じさせない調整や回路の構成をしてるんだから、あの子はすごいよ。ただ、それを直感だけで当てる君も中々だけどね」


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