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8話

お久しぶりです。2か月ぶりの投稿で遅くなって申し訳ないですが楽しんで頂けると幸いです

数十分エントランスで談笑兼牽制を行っていると九十九学園会長である祐が欠伸をかきながら登場した。

「さて、と。皆、行こうか」

 気の抜けるような掛け声と共に率先してホテルの外へと向かうと、学生がぞろぞろとまばらに足を動かしだした。

 ホテルから更に歩くと人の群れが視界へと映る。そこには多種多様な制服に身を包んだ学生が雑踏を作っていた。

 だがそれらは鳴動する蛇の様でいて機械のように寸分の狂いもない動き。二律背反もしくは矛盾のようなどうにも言えない集団であった。

「敵情視察に友好関係に……何とも忙しないな」

 夜斗は雑踏を値踏みしてから漏らした。

 そんなことを知ってか知らずか名家の三人は必然とも言える流れでその渦へと飲み込まれていく。

 夜斗としては一人の時間が生まれたと安堵するも、やはり向けられる不特定の視線が苛立ちを募らせる。

「おーそう言えば更科君も有名人と言えば有名人だったね~」

 同じく一般異能者枠の有名人、祐がフレンドリーに話しかけてくる。

「未だに理解できないんですが、どうして俺が有名人なんですか?」

「そんなの決まってるじゃないか、君が解樹先生の養子、調べれば色々と出るからさ。一応僕は会長だからね自他、内外から情報が勝手に耳に入ってくるのさ~」

 ――決して詳しくは語らなかったが恐らく表に出ているパーソナルデータは全部把握されているだろう。更には璃音が抹消もしくは口封じ、情報操作を施しているものまで掴んでいるとなると……。

 やる気のない怠惰丸出しの目を細めると、祐が慌てたように手と首を左右に動かした。

「いやいや脅そうとかそういう訳じゃないし、むしろこれは君を守るためのでもあるんだ」

「俺を守る?」

「僕は会長だからね。学園生は皆、家族で仲間なんだ。当然、内輪揉めはあるけどそれはあえて関与しない。けれど外から来る悪意や害意は僕が止める領分なんだよ。大人にしかできない事、子供にしかできない事、異能者にしかできない事、一般人にしかできない事。そういったのがあるようにね」

 慌てふためく様子であったがその言葉には不思議と説得力があった。

「まあともかく、そういうことだから。……さぁ始まるよ宴が――」

「あー、あー……えっと〝皆・静かに・して・くれる・かな〟?」

 遠くに見えるホテルを背にしてシンがマイクを手にヴォイスコマンドを口にする。瞬間的に淀み、波のあったオーラが霧散していく。

『アタラクシア』

 シンが使用する固有術式の一つ。

 対象範囲内の異能者のオーラを霧散させ、異能の発動から術式の構築段階、スキルとして世界に顕現する前の現象全てを無力化させる高等術式。

 シンが設定しているモーションコマンド、ヴォイスコマンドを把握している夜斗は何百と居る異能者が集まり、浮足立っている状況に置いて、即興のアレンジで発動させた事に舌を巻いた。

「さて、色々と楽しみな所悪いんだけどそろそろ始めるよ」

 学生一同は、各学校の代表の指示に従い整列していく。粛々とした空気が漂い始めた中で夜斗も列へと混じる。代表ではあるが花形ではないと自覚しているため、先導を切る役目は空御や悠霧に投げている。もっぱら裏方や事務が得意であり似合っている夜斗は最後尾を陣取ると始まるまでの時間を惚けるように待つ。

 簡易的に構築された壇上に祐が上がると、シンからマイクを受け取った。

「あーあ、え~、九十九学園会長、周防祐です」

 挨拶を手軽く済ませ合宿の行程を軽くおさらいする。

「それじゃあ、さっきから皆が楽しみにしていた話題の人物に登場してもらいましょうか」

 静かに期待に満ちた無数の双眸が壇上へと改めて向けられる。

 ゆっくりとした足取り、それでいて堂々とした面持ちで祐の横へと並び立つ人物。

海風になびく長髪が日光に煌めき、柔和な笑みを湛えて学生一同を見渡す。

「椎名唯です、こんにちは、かな。私を知っている人は多いとは思いますが、おそらく期待していた人とは違われるのかなと」

 彼女の言葉通り膨らんでいた期待は萎んでいた。それでも興奮冷めやらぬのも事実であり、名家、無道十家の椎名家次期党首である彼女の登場だ、ゲスト講師としては破格といえる。

「で、その待ち望んでいる人なんですけど――」

「ふ~む。やっぱり異能者。何とも粒ぞろいな子達ばっかだねぇ」

「てっめぇッ! どこ居やがるかと思えば視姦してんじゃねぇかッー!」

 夜斗の後方、何時から居たのか定かではない屈んだ状態の青年が、吟味するような目つきで女学生を眺めていたところに迅雷の如きドロップキックが彼の脇腹に突き刺さる。

「グボフォ」

 地面を転がり数メートル先の樹木へとぶつかってようやく止まるが、ドロップキックをしたであろう女性が青年の襟元を担ぎ壇上の方面へと歩く。

 ホットパンツにブラウスとラフな格好と相まって実に男らしい女性が、悪い意味で一同の意識を独り占めしていた。

「えっと、ボ、ボロボロですけどこの人が――元八重の麒麟児、竜胆弥です」

 苦笑いで唯が、足元に放り投げられたぼろ雑巾もとい弥を紹介した。

「んであたしが北城楓那だ。とりあえずついてこれない奴はその都度去れ」

 慈愛満ちる天使の唯と冷酷な鬼の楓那。その二人に挟まれる英雄と評される変態。

 ようやくそろい踏みとなったゲスト講師陣。異能者達の合宿一日目はこうして幕が開けた。


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