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7話

貯めていたのがここまでなので更新速度がまたもノロマになりますがご容赦ください

各校の代表は大よそ二~三人。その中で総締と呼ばれる今年の主催である九十九学園は夜斗と才華。そして学園の顔でもあ祐が選ばれこうして顔を出している。八重学園は会長兼代表として彼が居るが、他の学校も生徒会役員と代表を兼任している者が数人紛れていた。

 円卓を囲う様に座る各々だが上座には九十九学園の三人。椅子に座る形で祐、その後ろに控えるように才華と夜斗が並び立っている。

「さて、と準備も終えたようだし始めようか――改めて、九十九学園会長、周防祐。よろしくね。後ろの二人は右手から、生徒会副会長、黒須才華と〝若草〟代表として更級夜斗。彼らは補佐として僕の手伝いをしてくれるよう学園側に手配させてもらったよ。諸事情で総代表が欠席してるからね」

 総代表と口にして一同が表情を崩さない様に徹したが夜斗の瞳には残念ながら動揺や懸念、苛立ちが映った。どれも小さな種火程度。直接的に関係のない彼ら、しかし一部、名家出身の人間には間接的ではあるが何かしらの影響が出ているだろう。そうでない者達でもこの場に居るのだ一筋縄ではいかない曲者揃い。思う所が絶対にあるはずだ。九十九学園側は揚げ足を取られてもおかしくはない。

 しかし、祐は先に自白したようなものだった。非を認めかつそれ以上話を蒸し返させない様に言葉の雨を降らす。

「これが今回の合宿の日程と各講義と実習の割り当てね。さて質問もしくは抗議でもあるかい?」

 円卓の中心に浮かぶプレゼンテーションソフトウェアが夜斗の操作により切り替わった。

 夜斗は祐の会話構築を掴み取り、携帯端末に送られた議事データを会議が始まる数分前に予め頭に叩き込みテンプレートの流れを作っていた。だが、祐は日程の時間通りに事は進めず、解りやすい内容や、目に留まりやすいイベント等を間に挟み、会議内容にあえて波を作った。実際ここまでの流れは誰一人として退屈な時間は無く。考える瞬間や期待に満ちる表情など良い意味でノンストップだった。

 夜斗も驚かされるばかりではなくしっかりと順応していき、テンプレートのデータをその場に適した素材を選出していく。

三〇分もすれば自ずと会話の流れ、癖が見えてきていた。

「どう?」

 才華が小さな声で曖昧な問いかけを投げた。その実、内包する意味は多岐にわたっている。

「その前に、貴女は毎回これに対応しているのか?」

「そうね。と言いたい所だけど毎回ではないわ。流石に生徒会の会議で毎回このレベルでしていたら身が持たないわよ」

「なら、なおさら驚きだ。適宜合わせられるのだろこれに」

 才華の役目は刺身のツマだった。話の合間にある疑問や説明を解りやすいように噛み砕いた補足を入れていく。それも主役である祐を立てるように。

「正直、俺は着いていくのがやっとだった」

 夜斗は何の含みも無く純粋に才華を褒めると、彼女の顔がどうしようもなく緩みそれを止めようとする理性のせめぎ合いが働いているのだろう何とも言えない表情を作っていた。

 結局彼女の質問の答えを返していないが、当人は何故か満足していた。

「じゃあ、疑問質問無いから次へと行くよ。あえて伏せていたこの特別実習なんだけど」

 祐の再開に合わせて夜斗は端末を操作し一つの資料を映し出した。

 それは特別実習の内容とそれにあたる特別講師陣の画像。

 最初にその情報を得た時の夜斗は興奮冷めやらぬものだった。同じように資料に目を通していた才華も同じように目を丸くしていた。

「八重学園卒業生――竜胆弥、椎名唯、北城楓那。この三人が特別講師として来てくれるようになったんだ」

 室内にどよめきが走った。おそらく異能者で知らない者はいないだろう人物達。

 災厄祭を終結へと導いた立役者であり、八重の麒麟児と謳われた青年、竜胆弥。

 無道十家の一員、椎名家の令嬢、椎名唯。

 四聖の一人にして白兵戦のプロ、北城楓那。

 この場の全員がこの程度の情報は認知している。しかし実際に、その目で見るのは初めてだろう有名人。

「失礼にならないよう頼むよ?」

 この会議にメインディッシュを与えた祐により自然ともしくは必然的に支配され会議は滞りなく終了を迎えるのだった。

 各人が浮足立ったまま会議室を出ていく。騒めきの中で夜斗は一人思案に耽っていた。

 ――竜胆、弥……災厄祭で生まれた英雄。当時、渦中の最奥とも言える人物……。

「どうにかして、接触を図ってみるか」

「夜ー斗、なにぼうっとしているのかしら? 行くわよ」

 才華に肩を叩かれて夜斗は、我に返ると彼女と肩を並べて部屋を後にする。そのまま二人は、山岳地帯の頂上を平坦に削り建てた高層ビルへと足を運んだ。

「じゃあまた三十分後に、ここでいいかしら」

「何勝手に待ち合わせみたいにしているんだ?」

「それくらい良いじゃない。じゃあそういうことで」

 踵を返す時にひらひらと手を振った才華を見送る形で夜斗は溜息を長く長く吐いた。

 結局見透かされているのだろう。何をどう言おうが返そうが、自分が三〇分後にここで待っているだろう構図に。

 純粋にそうするのは癪に障る夜斗は、ついでと言わんばかりにSNSで友人達にも伝えることにした。簡易メッセージを飛ばすとそそくさとあてがわれた自室へと移動するためにエントランスからエレベーターホールへと向かい丁度来たものへと乗り込んだ。場所は携帯端末に入っているため迷うことは無かったがすれ違いざまに女子からの視線が妙に気になった。

 学園の代表としてある程度校内の学生は認識してはいるが、明らかに九十九学園ではないだろう者も混じっている。

 聞いた話ではこのフロアと上下の階層は九十九学園の学生のみだったはずだ。移動なら各フロアの東西南北、四ヶ所に三台ずつ配備されているエレベータを利用すればいい。向かいから来た女子は東のエレベーターが近かったはずだろう。

 いやそんな事よりも、夜斗は男女を一緒の階に放り込んでいる事実の方が実際には気になっていた。男女平等とかそんな薄っぺらい理由ならどうかしているだろうが、少なからず何かしらの思惑があるのだろう。

 無駄に長い廊下を道なりに歩き自室付近で部屋の前に誰かが居ることに気付いた。

「うーっす。ここエレベーターから遠くないか? すんごい不便」

 扉に背を預けながら携帯端末を弄る姿が無駄に様になっている長身痩躯の少年、空御が居た。

「ああ、なるほど」

 夜斗は合点がいった。わざわざ遠回りして、それも他校の女子もこのフロアに無駄に足を運んだ理由。この男だ。

「相も変わらずモテているようだな」

「は? なんのことだよ?」

「連絡先の整理か、あいさつ程度のショートメールでも送っている所だろ」

「な、なんで解んだよ」

 身体を引かせつつ携帯端末を背中へと隠す動きをとるが、夜斗からすれば単に部屋の前を占領していたオブジェクトが道を譲った程度にしか映らなかった。

「何年一緒に居ると思っている、そのくらいはもう考えなくても十分だ」

 部屋へと消える様に入るとその後を空御が追いかけてきた。

「まあそれは一旦置いとくとして、そろそろ集合なんだろ? 行こうぜ」

「ああ。少し待ってくれ」

 二分程で着替え終えると夜斗は空御と共に部屋を出る。

 シックな絨毯が敷かれた廊下をゆっくりとした足取りで進む。

 来た時もそうだが、今日は一段と視線を感じる夜斗は顔をしかめていた。とは言っても常に黒縁眼鏡に長い前髪で表情が読みにくい。その微細な変化に気付ける者は現状、横の空御くらいだ。

 そんな彼が携帯端末をポケットにしまうと夜斗の疑念に答えを与えるかたちで口を開いた。

「顔をしかめんなって。あれだ、好奇の眼差しってやつだ、多分」

「珍獣扱いか俺は」

「まあレア度で言えば最大五なら四相当だろうな。性能はピーキー、けれど特定の場面では有用なキャラ的な」

「? 言わんとしていることはなんとなく伝わってくるが、いまいち要領を得ないな」

「ふーむ……」

「顔立ちが整っていてクールな雰囲気でエンジニアとして確立された立場の一五歳。それだけで他校からすれば気になる存在なのよ」

 男子二人の後ろから割る様に顔を覗かせたのは、全身真っ黒の制服に身を包んだ才女、才華だった。

「うぉおうッ」

「はぁ……」

声音に差はあれどそれぞれの顔には驚きの色がある。

「〝独歩〟――光井原家も使う体術の一つをどうして貴女が使用しているんですか?」

 人の目もあるため、夜斗は敬語で質問をする。

「あら、なら夜斗の〝拍子〟は光井原家しか使えないはずの体術よ?」

「そこを突かれるとどうも言えないのでこれで終了として、何の用ですか?」

「ほんのさっき前に言ったわよ。また後でね、って。でもよくよく考えたら一緒に行ける距離に居るのだからその方が良いと判断したのよ?」

「なーにちゃっかりお前、黒須先輩と約束取り付けてんだよ。あんまし人の事言えないぞ」

 どうしようもないほどに劣勢になった夜斗は、頭を振ってから止めていた足を逃げるように動かしエレベーターへと身を隠すことにした。

「無視しだしたわ。私、哀しくて涙が……クスン」

「しょうがないというか、相手が黒須さんだからってのが大きいですよ、そこは」

 美男美女が、閉まるボタンを無言で長押しする夜斗を追いかけてエレベーターへと乗り込む。

「ッチ」

「こいつ舌打ちしやがった!」

「なんで朝からこんなに体力を使わないといけない。特に朝から才華と一緒だぞ。死ねる」

「幸せすぎてかしら♪」

「そんな訳あるか。しんどいぞこっちは」

 夜斗は珍しく語気を強めている。九十九学園内では昔ほどではないにしろ腫れ物に触れるとか得体の知れない存在という扱われ方をされている。だが当人としては空っぽの悪意と害意に塗れていた時と比べれば遥かにマシと言うよりも無駄に突っかかられたり絡まれたりされずに済むという点、居心地がよかった。

「無駄に好奇の視線が向けられる。かと言って接触を図ってくる訳でもない」

 常に平行線のような、見えていても届かない距離間がどうもむず痒いのだ。

 会議から向けられるその視線、ホテルからの視線。どうしても過敏に反応してしまう。

「そんなこと言ったら俺達とかどうなんだよ」

 名家の中でもメディアへの露出の多い空御と才華。夜斗以上に彼らに向けられる意識は異常で異質。プライベートですら侵食されることがある。

「そうね。考え過ぎよ、よく言うじゃない他の人を雑草に見立てれば気なんて使わないし取られないって」

「ちょっとそれは言い過ぎというか扱いが酷くないですか!?」

「でも安心して頂戴。鳳君は向日葵くらいよ」

「……どうにも何とも言えないですね。因みに夜斗は?」

「そんなの決まってるじゃない夜斗は夜斗よ。そもそも草木になんてならないわ」

 当然とばかりに彼女は自信たっぷりに答える。その表情が少しばかり愉悦を含んでいる気がした。

 空御の気持ちが沈むのに合わせたかのようにエレベーターは一階へと到着する。

「さあ行きましょう夜斗」

 満面の笑みの才華ではあるが中々に鬼畜であった。

 そうして悠然としたまま扉が開き一歩踏み出すとそこには鬼退治前の桃太郎もとい悠霧が待っていた。

「……」

 辟易とした表情で現実を受け入れられない才華が頭を振る。

「ねえどうして貴女がここに居るのかしら? 待ち合わせは恐らくエントランス付近になると踏んでいたのだけれど」

「ええそうですよ。夜斗君からエントランスで待ち合わせになってましたよ。でも夜斗君のオーラに邪魔な羽虫がたかってたのを察知したのでこうして待ち伏せしてたんですよ!」

才華の表情が珍しく驚きに満ちていた。

「ねぇ。どうして誰もその違和感に気付かなかったのかしら!?」

それもそのはず。夜斗達にとって当たり前。日常的に使用しており違和感が無かった。

だがしかし。その技術は難しいというレベルをあざ笑う難易度。誰もが一度は行う術ではあるが誰もが完全に支配しきれる代物ではない。

特に夜斗の様な凡百と同じかそれ以下のオーラ量と特徴しかない異能者を個別に判断それも寸分も違わずに場所を特定できる。

 例えば数百も混じりあった声音の中から一人の声を拾うのだ。当然その中には特徴的な声、悲鳴、叫び声もあるのだからその難しさは誰にでも解るだろう。

「まあ、ユーリだから出来る芸当みたいなところが大きいですよ」

「それ理由になってないわよ……」

 エレベーターからエントランスへと一〇〇メートルもない距離を歩き切る間がどうにも長いと感じたのか疲弊した顔の才華だった。


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